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    ビーム

    お箸で摘む程度

    DONEビームス兄弟
    ナイプ24話でタイムマシンが修復せず、タイムパラドックスが起きてしまった世界線のif小説。リトル・フェイスがフェイスになり、フェイスがフェイスでなくなるまでの七日間の兄弟のお話。
    決して明るい話ではありませんが兄弟間の感情の大きさについて考えています。
    one no named 張り詰めた空気の糸を、低い溜息のような音が揺らした。ぴんと張った空間に振動は波の如く伝播して、そしてそれこそが、答えだった。鉄塊は動かなかった。溜息はきっと、それを最後に生命が尽きた音だったんだろう。博士がマシンに近づいて、扉に手を掛けると、頑丈そうに見えたのにあっけないほど簡単に開く。オスカーが小さく息を呑む。

    「お兄ちゃん、おれ、おうちに帰りたい……」

     色褪せた写真から、存在したはずの過去は消えていた。



    one no named



     この世から、俺の存在は無くなった。これを一日目とする。
     沈黙のタイムマシンから再び顔を出したリトル・フェイスは、彼こそが、この世のフェイス・ビームスだった。過去に帰るはずだった彼は、帰る家をこの世に知っていた。兄をこの世に知っていた。戸籍上、フェイス・ビームスとして、七年前の二月十四日を生年月日に記されている。二十年前の記録はもう、どこにも見当たらない。
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    お箸で摘む程度

    TRAININGビームス兄弟 ワンライ
    お題「ドライブ」お借りしました。アカデミー時代、父親と運転の練習をする弟の話。父親の人柄や設定の捏造が多くあります。
    男のはなし 並んだ家々の前庭の芝生が、青い直線を伸ばす間。新芽が形づくる林冠を、透かした木漏れ日が揺れる中。湖沿いのゆるいカーブに沿って走ると、父さんの手が右から軽くハンドルを正す。
     緑眩しく心地よい五月の終り、俺は金曜日の教科書を抱えたまま、車に揺られて実家へ戻った。電話を受けていた運転手は、このままお父様の方へ向かいますと、カーナビの行き先を変更している。長い陽が真西に近く沈もうとする、そのかすかな空の明るさとビル街の煌めきとの混ざり合いが、もうそろそろ夏が近いという感慨を呼び起こしたところで、父さんが後部座席に乗り込んできた。俺が席を詰めると、軽く微笑み扉を閉める。息子を見とめてその顔は、外務省の要人から父親になったらしい。運転手と二言三言話すと、思い出したように、フェイス、お前もそろそろ運転できるようになった方がいいんじゃないか、と言ってきた。その飾らない、あたたかな父親の声音。親子を乗せた自動車が、街の中を滑るように走り抜けていく。
    1999

    お箸で摘む程度

    TRAININGビームス兄弟 ワンライ
    お題「雪」お借りしました。
    ビームス家の架空の使用人目線です。雪に閉ざされた庭の話。
    ひめやかな絵画 ――その日、私が窓辺で遅めの昼食をとっておりましたとき、建物と建物、そしてその渡り廊下に挟まれた静かなお庭は、昨晩から降り続いた雪が束の間の日差しにきらきらと輝いておりました。背の高いハナミズキの枝には小さな氷の雫が震え、しばらく屋内にじっとしていたビオラの鉢は数日ぶりの外の空気に喜んでいます。うつくしい景色が阻まれるのが勿体なく、私はストーブの火を弱め、窓の結露を拭きとりました。木枠のふちに伝う水滴を追っておりますと、その影から窓の景色に飛び込んでくるものがあります。それは、ビームス家の次男坊であられるフェイスさまでいらっしゃいました。
     フェイスさまはクリーム色のダウンに薄水色のマフラーをぐるぐると巻かれ、足元は室内履きのまま、あたらしい雪の上にその小さな足跡を残してゆかれました。私が時計を確認いたしますと、フェイスさまはまだお勉強の時間であられます。私はご子息のことも頼まれておりますゆえ、フェイスさまをつかまえてお部屋にお戻ししなければなりません。けれど、うつくしいお庭にのびのびと遊ばれるフェイスさまを見ていると、その純白は壊れていくのですけれども、うつくしいお庭がいっそううつくしく見て取れまして、私はフェイスさまを止めにゆくのも、スープを飲むのも忘れ、しばらくそのようすを眺めておりました。
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