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    天国

    こにし

    MOURNING2021.6.27発行 オーカイ本『ささやかなぼくの天国』より 小説①『よすが』のweb再録です
    再録にあたり多少加筆修正しております
    よすが 前を歩くオーエンの歩幅になんとか合わせようと大股で歩いても、彼はどんどん先へと進んでゆく。歩調はさほど変わらないのに追いつく気配がなく、私は、彼のいやみな程に長い脚を思った。椅子に座るときにはいつもすらりと組まれていて、以前みずから自慢げに披露するそぶりを見せたことがある。
     淡い色をした美しい夢の胞子が濃霧のように漂っている。加護で守られてはいるものの、その光景を見ているだけでも幻想に呑み込まれてしまうような気がして少しくらくらする。ぼんやりと歩いていると突如、隣から顔を覗き込まれ、私はうわっとなさけない声を上げた。
    「大丈夫か?」
     凛とした声。それは隣を並んで歩くカインから発されたものだった。私があわてて大丈夫ですと言うと彼はそれならよかったと朗らかに笑う。思わずほっとため息を吐きそうになった。カインは妙に他者との距離が近いところがあり、意識しなくとも時折どきりとさせるようなことを仕掛けてくるものだから、心臓に悪い。誰にでも同じように接するので、彼にとってはなんら特別なことではないのだけど、私が元居た世界だとそれはなおさらたちの悪いことだとされていただろう。
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