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DONEネロファウ|死体のうえで踊る話(概念)夜はやさし 真夜中に話すことなんて、カップに入れたら忽ち融けてしまう、退屈なシュガーみたいなものでいい。白けた気分になりたくないし、古傷に触れる趣味はお互いにないのだし。なのに、どうしてそんな話をしてしまったのだか。
「ガキの頃さ、墓のうえで踊っているやつをみたことがあるよ」
汗をかいたグラスのなかで、融けた氷がおとをたてた。向かいに座るファウストが顔をあげる。卓上にともされた蝋燭の火が、彼の頬を嘗めるように照らした。いつも陶器みたいに青ざめた頬は、今は仄かなばら色だ。伏せた睫毛の色が濃い。普段より所作が緩慢にみえるのは、先生も大概に酔っているからだろう。そういう自分も、さっきからずっと、頭の芯に甘やかな痺れがある。みずうみで小舟に揺られるほどの、心地よい酩酊。あるいはシャイロックのバーに置かれた籐の揺り椅子や、栄光の街をめぐるゴンドラ(リケ達にせがまれて一度だけ乗った)、回転木馬、は、流石にまだ乗ったことがないのだけれど。
4032「ガキの頃さ、墓のうえで踊っているやつをみたことがあるよ」
汗をかいたグラスのなかで、融けた氷がおとをたてた。向かいに座るファウストが顔をあげる。卓上にともされた蝋燭の火が、彼の頬を嘗めるように照らした。いつも陶器みたいに青ざめた頬は、今は仄かなばら色だ。伏せた睫毛の色が濃い。普段より所作が緩慢にみえるのは、先生も大概に酔っているからだろう。そういう自分も、さっきからずっと、頭の芯に甘やかな痺れがある。みずうみで小舟に揺られるほどの、心地よい酩酊。あるいはシャイロックのバーに置かれた籐の揺り椅子や、栄光の街をめぐるゴンドラ(リケ達にせがまれて一度だけ乗った)、回転木馬、は、流石にまだ乗ったことがないのだけれど。
🌕 🌊
DONEパジャマパーティ、おさなな就寝後のネロファウ(未成立)ねふぁの湿度高め。いずれ成立する。
埋火/火相を見る「俺んとこの親はろくでなしだったからさ」
すやすやと健やかな二人分の寝息が満ちた部屋で、ファウストはネロと晩酌をしていた。
ファウストはこいつらの親みたいだな。
ネロがそうファウストに言ったから、ファウストも同じように返したら戻ってきたのがそれだ。
頑なに床で寝ると言ってネロのすぐ横で丸まっているシノの頭をそっと撫でる手付きは優しい。
愛情というものは、どこかで自らに注がれた経験がなければ別のものに与えることが難しいのではないだろうか。
ネロの親はろくでもない人物だったかもしれないが、その後、ファウストと出会う前にネロが出会った誰かが彼にちゃんと愛を与えていたのだろうと思う。
多寡はどうあれ、彼が今シノに向けているような、慈しみを含んだ視線を向けられた覚えがあるのだろう。
1840すやすやと健やかな二人分の寝息が満ちた部屋で、ファウストはネロと晩酌をしていた。
ファウストはこいつらの親みたいだな。
ネロがそうファウストに言ったから、ファウストも同じように返したら戻ってきたのがそれだ。
頑なに床で寝ると言ってネロのすぐ横で丸まっているシノの頭をそっと撫でる手付きは優しい。
愛情というものは、どこかで自らに注がれた経験がなければ別のものに与えることが難しいのではないだろうか。
ネロの親はろくでもない人物だったかもしれないが、その後、ファウストと出会う前にネロが出会った誰かが彼にちゃんと愛を与えていたのだろうと思う。
多寡はどうあれ、彼が今シノに向けているような、慈しみを含んだ視線を向けられた覚えがあるのだろう。
3_kana_7mic
DONEいていな開催、本当におめでとうございます!現パロのネファネです。
至らないところ多くて恐縮ですが、雰囲気だけでも楽しんでいただけたらうれしいです。
同じ内容で本を作る予定なので、もしご興味あればよろしくお願いします。 22313
okome_ou
PROGRESSいていな展示!7月赤ブーオンリーで頒布予定本の準備号、左右不定かつカプ有無不定のファウストとネロです。
部数の参考にするためアンケートにご協力いただけると助かりますhttps://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSfeQ7zstJHK4OFb181FsI8E5cVGN5bVoos3KR7EW7hfzrqF0Q/viewform
よろしくお願いします! 27
okome_ou
DOODLEらくがき詰め合わせ1多分2年前くらいからの……下に行くほど新しめです
ファウストとネロが多めですがカプっぽかったりカプっぽくなかったり、東わちゃわちゃだったりなんでも詰めです 58
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DONEファウストに甘えたいネロの話(ネロファウ)すみれと花とパンケーキ「もういい」
と、栞もはさまずファウストが本を閉じたので、俺は慌てて顔をあげた。
いつも几帳面な先生らしからぬ行動。ご立腹だ、間違いなく。洋卓にひろげていた分厚い古書の隙間から、いつの間にか転がっていたペンを探り当てる。キッチンの長窓から射す春の日差しが、手もとの水差しに反射して眩しくひかった。雪の透かし模様がはいった、硝子の水差し。そこに飾ったすみれは、今朝リケが摘んできたものだった。ミチルと二人でうんと早起きをして、どうやら湖のほうへ行ってきたらしい。
朝から少し遠出をするから、グリーンフラワーと厚焼き卵のサンドイッチを作ってくれませんか。
二人にそういわれて、いいよと引き受けたのは自分なのだけれど……。外の陽気があまりに心地よいのもあって、つい、目蓋が重くなってしまう。だからといって、ただでさえ不真面目な生徒にうわの空で補修をうけられたら、まあ、いい気はしないだろう。それくらいは、いくら俺でもわかる。
2566と、栞もはさまずファウストが本を閉じたので、俺は慌てて顔をあげた。
いつも几帳面な先生らしからぬ行動。ご立腹だ、間違いなく。洋卓にひろげていた分厚い古書の隙間から、いつの間にか転がっていたペンを探り当てる。キッチンの長窓から射す春の日差しが、手もとの水差しに反射して眩しくひかった。雪の透かし模様がはいった、硝子の水差し。そこに飾ったすみれは、今朝リケが摘んできたものだった。ミチルと二人でうんと早起きをして、どうやら湖のほうへ行ってきたらしい。
朝から少し遠出をするから、グリーンフラワーと厚焼き卵のサンドイッチを作ってくれませんか。
二人にそういわれて、いいよと引き受けたのは自分なのだけれど……。外の陽気があまりに心地よいのもあって、つい、目蓋が重くなってしまう。だからといって、ただでさえ不真面目な生徒にうわの空で補修をうけられたら、まあ、いい気はしないだろう。それくらいは、いくら俺でもわかる。
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MOURNINGホラーな目に遭ってるのはネロだけ。ブとズとフィとシャも少し出る。とある夜のホラー(ネファ) その日、ネロとファウストは晩酌の勢いで盛り上がって、ネロの部屋のベッドでいちゃいちゃしていた。
夜は深く、生き物の気配は静まり、今起きているのはこの部屋の二人だけのようだ。
扉の気配を薄くする魔法をかけ、防音もしっかりして、いつ事に及んでも大丈夫な状態で互いの服を脱がせようとしたところで唐突にノックの音が響く。
一瞬固まって、ネロが口を開く。
「悪い、取り込み中だから後にしてくれ」
用心深く外の気配を窺うが、さっぱり気配を感じない。
なんだか興が削がれてしまって、二人はのろのろと衣服を整えた。
「悪いな、先生」
「こういう日もあるだろう。この時間に来るのはシノか?」
「いや、あいつは扉の気配に気付けないはずだ」
1070夜は深く、生き物の気配は静まり、今起きているのはこの部屋の二人だけのようだ。
扉の気配を薄くする魔法をかけ、防音もしっかりして、いつ事に及んでも大丈夫な状態で互いの服を脱がせようとしたところで唐突にノックの音が響く。
一瞬固まって、ネロが口を開く。
「悪い、取り込み中だから後にしてくれ」
用心深く外の気配を窺うが、さっぱり気配を感じない。
なんだか興が削がれてしまって、二人はのろのろと衣服を整えた。
「悪いな、先生」
「こういう日もあるだろう。この時間に来るのはシノか?」
「いや、あいつは扉の気配に気付けないはずだ」
okome_ou
PROGRESS7月発行予定でいていなで準備号展示予定のファウストとネロの漫画の導入のところです。(※魔法舎生活解散数年後設定、厄災は毎年来るよ設定)よかったら見てください!応援してくださるとモチベ上がります!
いていな展示用に長めに公開してるほうです。よかったら→ https://poipiku.com/399468/6823354.html 9
with_yourpain
MOURNING【ネロファウ】月花軸のネファ、三話目。これでこの設定は終わり。
妖パロがたまらなく刺さったので今度はストーリー踏まえて書きたい(一話と二話はストーリー配信前に書いてあるので齟齬があります)
夜明けは勿忘草色をしている朝目覚める時に、小鳥の囀りを意識するようになったのはファウストから小鳥を預けられてからだろう。
目覚めを促すような、ご飯をねだるような愛らしい鳴き声にネロは口元を緩める。託してくれた天狗は昔と違って仏頂面が板に着いているけれど、手紙を出せばきちんと返してくれる律儀さは変わらない。
「よしよし、おまえにも飯を用意するからな」
朝餉の支度をしてからネロは止まり木に止まった小鳥に餌になりそうな米粒や野菜くずを分けてやる。ご相伴に預かろうと近所から雀たちもやってきた。
ファウストとの関係は相変わらず曖昧なままだ。覚えているのか、と呟いていたし、向こうも自分のことを覚えていると期待してもいいような気はしている。けれど切り出し方がわからない。向こうも切り出してくることはない。期待して、本当は覚えていなかったのだとしたら恐らく暫く立ち直れないくらいに落ち込む。
2655目覚めを促すような、ご飯をねだるような愛らしい鳴き声にネロは口元を緩める。託してくれた天狗は昔と違って仏頂面が板に着いているけれど、手紙を出せばきちんと返してくれる律儀さは変わらない。
「よしよし、おまえにも飯を用意するからな」
朝餉の支度をしてからネロは止まり木に止まった小鳥に餌になりそうな米粒や野菜くずを分けてやる。ご相伴に預かろうと近所から雀たちもやってきた。
ファウストとの関係は相変わらず曖昧なままだ。覚えているのか、と呟いていたし、向こうも自分のことを覚えていると期待してもいいような気はしている。けれど切り出し方がわからない。向こうも切り出してくることはない。期待して、本当は覚えていなかったのだとしたら恐らく暫く立ち直れないくらいに落ち込む。
with_yourpain
MOURNINGエイプリルフールのネファ、その2。緩く続く模様です。今回はネロ視点。書き終わったらpixivにまとめます。
その1↓
https://poipiku.com/3232322/6498998.html
商売柄、客の顔はそれなりに覚えている。特に飯を食ったあとの表情は次に店に来た時出す料理の味付けの参考になるし。
もちろん、忘れてしまったり思い出すまでに時間がかかることもあるけど、その思い出せない相手のことをいつまでもどこで会ったのか思い出そうとする自分というのはあまり覚えがなかった。
眇めた目で俺のことをみていた天狗の男。桔梗色の瞳や、枯れ草色の柔らかそうな髪にはどことなく覚えがある気がして、男が店を出てからもずっと気にかかっているままだ。
下がり気味の眉、薄い唇。厚着していても痩躯だとわかる身体付き。小さなひとくちに、食べたときに目を見張る癖。
そう、あの表情を俺はどこかで見たことがある。美味いか?と聞いた時見張った目が和むように細められて美味しい、と答える幸せそうな声もきっと。
3495もちろん、忘れてしまったり思い出すまでに時間がかかることもあるけど、その思い出せない相手のことをいつまでもどこで会ったのか思い出そうとする自分というのはあまり覚えがなかった。
眇めた目で俺のことをみていた天狗の男。桔梗色の瞳や、枯れ草色の柔らかそうな髪にはどことなく覚えがある気がして、男が店を出てからもずっと気にかかっているままだ。
下がり気味の眉、薄い唇。厚着していても痩躯だとわかる身体付き。小さなひとくちに、食べたときに目を見張る癖。
そう、あの表情を俺はどこかで見たことがある。美味いか?と聞いた時見張った目が和むように細められて美味しい、と答える幸せそうな声もきっと。
with_yourpain
MOURNING今年のエイプリルフールのネファ、開始前妄想綴り書き。妖怪の話大好き人間なのでとてもテンションが上がってしまい突っ走ったものになります。
微妙な終わり方ですがこの後普通にくっつくと思ってる。
追憶の勿忘草久しぶりに山から降りて街並みを歩けば、知っている景色との若干の差異がことさらに目を引いた。
住民が増えて居心地の悪さを感じて去った頃より、更に賑やかになっている気もしてやはり来なければよかったかもしれない、と早々に後悔が胸に生まれる。
雑踏の中の喧騒、人混みに満ちる、強すぎるほど強い生き物と命の気配。
山の静けさとは正反対のそれに目眩にも似たものを感じる。まるで一気に歳をとったようにどっと疲れが押し寄せてきた。
細い路地裏に入って、建物に懐くように寄りかかる。翼が邪魔だが仕方ない。
自力で立てないほどではないが、気疲れは思ったより大きかった。
用がなければ山を降りることはない。そして山に住むようになってから、用は作らないようにして世俗と関わらずに生きてきた。
3403住民が増えて居心地の悪さを感じて去った頃より、更に賑やかになっている気もしてやはり来なければよかったかもしれない、と早々に後悔が胸に生まれる。
雑踏の中の喧騒、人混みに満ちる、強すぎるほど強い生き物と命の気配。
山の静けさとは正反対のそれに目眩にも似たものを感じる。まるで一気に歳をとったようにどっと疲れが押し寄せてきた。
細い路地裏に入って、建物に懐くように寄りかかる。翼が邪魔だが仕方ない。
自力で立てないほどではないが、気疲れは思ったより大きかった。
用がなければ山を降りることはない。そして山に住むようになってから、用は作らないようにして世俗と関わらずに生きてきた。
tukitota
MEMOフォル学ネファパロ600歳と400歳じゃなくて、17歳の二人。
フィガロやブラッドリーも匂わせる感じで出てくるけど恋愛感情は無いです。カプはネファのみ
OverTheRainbow with you①春の夕刻は甘みが強すぎて落ち着かない。
林檎飴みたいに真っ赤で透明な太陽が地面に落っこちる時、本日も最後のひと仕事とばかりに甘ったるいシロップの雫を盛大に撒き散らす。
世界を巻き添えにして。
空も、空気も、建物も、人も。
廊下に並ぶ窓越しに眺めた桜の木も、例に漏れず食紅を混ぜすぎたワタアメみたいに派手なピンクに染まっている。
俺も染まってしまえば楽になれるのかもしれないけど、この悪趣味な甘さは好みじゃない。心の端からじわじわと溶かされるような、そんな居心地の悪さが不安をあおる。
さざ波みたいに忍び寄る春の甘い気配を感じ、換気のために開かれた窓側を避けて教室のドアが並ぶ側の端を選んで歩く。ふわふわと優しい見せかけの世界によしよしと慰められて、甘いシロップの海にどっぷりと浸っている場合じゃないのだ、これからの俺は。
4188林檎飴みたいに真っ赤で透明な太陽が地面に落っこちる時、本日も最後のひと仕事とばかりに甘ったるいシロップの雫を盛大に撒き散らす。
世界を巻き添えにして。
空も、空気も、建物も、人も。
廊下に並ぶ窓越しに眺めた桜の木も、例に漏れず食紅を混ぜすぎたワタアメみたいに派手なピンクに染まっている。
俺も染まってしまえば楽になれるのかもしれないけど、この悪趣味な甘さは好みじゃない。心の端からじわじわと溶かされるような、そんな居心地の悪さが不安をあおる。
さざ波みたいに忍び寄る春の甘い気配を感じ、換気のために開かれた窓側を避けて教室のドアが並ぶ側の端を選んで歩く。ふわふわと優しい見せかけの世界によしよしと慰められて、甘いシロップの海にどっぷりと浸っている場合じゃないのだ、これからの俺は。
gin_weof
DONEネロの脚元でサブスペースに入ってるファウストを偶然見かけてしまったシノが、ネロにめちゃくちゃディフェンスされる話。ネファとヒスシノ。シノがちょっとかわいそう。ネロはDomらしくキレてる。これ(https://www.pixiv.net/novel/series/8386838)の未来のはなし。 それは偶然の出来事だった。
ヒースクリフから、自分の代わりに本を返してきてほしいと頼まれ、シノは図書室を訪れていた。なんでも、どうしても外せない個人レッスンが入ってしまったらしい。Domなのだから、頼み事の一つや二つ、もっと気軽にすればいいのに。こんな小さな頼み事すら滅多にしようとしない己の主人に、シノはいつも通り小さな不満を抱きつつ、ヒースクリフから預かった本を司書へと手渡した。
シノは典型的な読書嫌いで、活字を見るとすぐに眠くなってしまう。当然、図書室に縁などなく、訪れるのは合併前の校内見学ぶりだった。司書がバーコードを読み取るのを待つ間、室内をぐるりと見渡すが、やっぱりシノの好奇心をくすぐるようなものは存在しない。
4244ヒースクリフから、自分の代わりに本を返してきてほしいと頼まれ、シノは図書室を訪れていた。なんでも、どうしても外せない個人レッスンが入ってしまったらしい。Domなのだから、頼み事の一つや二つ、もっと気軽にすればいいのに。こんな小さな頼み事すら滅多にしようとしない己の主人に、シノはいつも通り小さな不満を抱きつつ、ヒースクリフから預かった本を司書へと手渡した。
シノは典型的な読書嫌いで、活字を見るとすぐに眠くなってしまう。当然、図書室に縁などなく、訪れるのは合併前の校内見学ぶりだった。司書がバーコードを読み取るのを待つ間、室内をぐるりと見渡すが、やっぱりシノの好奇心をくすぐるようなものは存在しない。
かも@ねふぁ
DONE*もちふた2展示*パス外しました。人生初のサークル参加だったのですが、とても楽しかったです。来てくださった方々、主催者様、ありがとうございました。
現パロ、バウムクーヘンエンドのネファ。全年齢です。
電気が点かない部屋のエピソードは友人の実体験です(許可得てます)。Gさん素敵なネタをありがとう。
ウェディング・ベルは彼を知らない*
プロローグ
「もしもし、ネロか?」
耳にしっくりと馴染むその声を聞くのは、かなり久しぶりだ。「僕だ。ファウストだ」と簡潔だけど礼儀正しく名乗るのを聞く前から、もちろん電話主が誰かなんて分かっている。
ファウストが電話をくれるなんて、珍しいことだった。彼が向こうへ移ってからもときどき葉書が送られてきていたので、連絡自体が途絶えていたわけではなかったけれど。こないだのは何だったか、たしか暑中見舞いの時季に届いたグリーティングカードか。いつも通りの彼らしく趣味の良い絵葉書に、二言三言メッセージが添えられているものだった。ときどき送られてくるそれらはしみじみと嬉しいもので、ネロは毎度欠かさずに返事を返す。といっても、洒落た絵葉書なんかどこで買えばいいのかも分からないし飲食業の身ゆえ時間もないので、短いメールでの返事だが。ともかく、声を聞くのは久しぶりのことだ。
12320プロローグ
「もしもし、ネロか?」
耳にしっくりと馴染むその声を聞くのは、かなり久しぶりだ。「僕だ。ファウストだ」と簡潔だけど礼儀正しく名乗るのを聞く前から、もちろん電話主が誰かなんて分かっている。
ファウストが電話をくれるなんて、珍しいことだった。彼が向こうへ移ってからもときどき葉書が送られてきていたので、連絡自体が途絶えていたわけではなかったけれど。こないだのは何だったか、たしか暑中見舞いの時季に届いたグリーティングカードか。いつも通りの彼らしく趣味の良い絵葉書に、二言三言メッセージが添えられているものだった。ときどき送られてくるそれらはしみじみと嬉しいもので、ネロは毎度欠かさずに返事を返す。といっても、洒落た絵葉書なんかどこで買えばいいのかも分からないし飲食業の身ゆえ時間もないので、短いメールでの返事だが。ともかく、声を聞くのは久しぶりのことだ。