あつい夏 太陽がぎらぎらと照りつけて、それに負けじと入道雲が大きな綿のようにそびえている青空。
長屋に聞こえてくるのは、人々の織り成す喧騒をかき消す程の蝉の鳴き声。
梅雨が明け、本格的な夏が到来した。
夏は暑い季節だ。例に漏れず今日も暑いのだが、いつもと程度が違う。
普段であれば長屋の表や庭先に打ち水すれば涼しくなり、団扇であおいで風をそよがせれば難なく過ごせる日々が、今はどうだ。異様な暑さで拭っても拭っても体のあらゆる場所から、だらだらと汗が吹き出てくる始末だ。そのうえ、なんの色気もないこの部屋を見かねた己の知るかぎりの一番の風流人、高杉晋作が朱色の風鈴を飾ってくれたのは良いが、風が吹いていないため全く意味を成していなかった。
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