全部覚えてる「逃げたって無駄だよKK」
後ろからかかった声に、KKは大きくため息をつく。
「もうくんなつっただろうが、クソガキ」
わざと苛立ちを前面に押し出して顔すら見ずに伝えたのに、大きな子供はけしてめげることがない。これはいったい何度目の問答だろう。
「あんたが僕を、普通の世界に還そうとしてくれるのはわかってる」
わかっているならば大人しく言いつけをきけばいいのに、この跳ねっ返りときたら少しも聞きやしない。
そのまま無言を貫き、いつもと同じく振り返らずに去ろうとしたとき、「でもさ」と暁人が続けた。
「あんたのことは身体が覚えてるから」
とんでもないセリフに息を吸い込み損ね、思わずむせて青年を見てしまった。ばちりと視線が合う。久方ぶりに正面から見た暁人は、勝ったとばかりにほくそ笑んでいて腹立たしい。
「オマエなぁ…」
誤解を招くようなことをしみじみと言うなと告げれば拗ねたように「事実だし」と言う。
「あの夜のことも、あんたの気配も、全部ここにあるんだ」
だから戻れるわけがないんだと、なぜか嬉しそうに笑う若者に頭が痛くなってくる。
「~~~~っ! こっちの気もしらねえで」
「お互い様だろ。だからKK」
責任とってよ、とからかい混じりに言われた一言が存外真摯な響きに満ちていて。年下の手が少しだけ震えていることに今更気づき、KKは己の負けを悟ったのだった――。