雨音の果て 9月8日はいつだって雨だ。少なくとも、ここ四年は毎年そうだった。その日をKKは、いつも安堵と、期待と、少しの焦りをもって迎えている。
病院の白いベッドで眠る暁人の手を、いつものようにそっと握りしめた。ぴくりとも動かない彼は、見た目だけならあの日と何も変わっていない。本当にただ寝ているだけのように見える。
「おい、暁人。そろそろ起きろよ」
返事がないことを理解しつつもそう声をかけると、KKはため息をついてベッドサイドの椅子に腰掛けた。それでも今日だけは特別なはずだから、KKはいつもよりも早い時間からこうして病室を訪ねている。
古ぼけた椅子がギシリと耳慣れた音を立てる。暁人がこの病院に入院して以来、KKは仕事があるとき以外はほとんど毎日この場所に来ていた。
2021年8月22日。般若の起こした未曽有の事件の後、KKは気づけば現世に、肉体を持って立っていた。あのまま眠りにつくと思ったのになぜ蘇ったのか。その答えを探す間もなく、彼の心はただ一つの思いに占められていた。
「――暁人は?」
今すぐ相棒の安否を知りたかった。そのために動きたかったものの、生き返ってすぐのせいか、それとも一度死んだせいか、どうにも言うことをきかない体に舌打ちをする。エーテルがヤケに体内でざわめいて、倒れないようにするだけで精一杯だった。
胸を押さえてうずくまっているところを、どうやってかはわからないがKKの復活を知ったエドとデイルにピックアップされた。かつぎ込まれた車内には同じように顔色の悪い凛子と絵梨佳もいて、あの時死んだはずの全員が生き返ったことを知る。
「とりあえず詳しい話は後だ。このまま組織が支援している病院へ向かう。いいね」
焦った調子で珍しく肉声で話すエドになぜだかおかしい気持ちになる。抵抗しようにもこのざまだ、言うことを聞くしかないと諦めたがこれだけはと声を上げた。
「頼む、エド。早急に調べてほしいことがある。伊月暁人という男と、ソイツの妹の麻里の安否を確認してくれ。少なくとも妹の方は渋谷中央病院に入院しているはずだ。……暁人がいなけりゃ、オレたちは今ここにいなかった」
「そうね、あたしからもお願いしたい。あの子を見つけてあげて」
KKだけでなく凛子からも願われた人捜しに、エドは驚きながらも「わかった。組織への報告などもあるからそれだけに注力する事は出来ないが、なるべく急ごう」と頷いてくれた。
KKの元にエドがやってきたのはそれから数日後、検査が一通り終わり退院する前日のことだった。
《KK、良いニュースと悪いニュースがある》
いつも通りボイスレコーダーを操作するエドに、KKは胸のざわめきを抑えながら「聞かせれくれ」と言った。
《まず良いニュースからだ。伊月暁人くんの妹さん、伊月麻里さんは君たちと同じく生きている。渋谷中央病院で目を覚ましたらしい。経過も良好とのことだ》
「……そうか」
麻里が無事だと聞いて、一つ肩の荷がおりたような気分になる。元々暁人がKKに協力したのは妹を助けるためだったのだから、その望みが叶ったのは素直に喜ばしい。次に、悪いニュース。最悪の事態を想定しながらも、じっとエドを見つめて続きを待った。
《暁人くんも麻里さんと同じ病院に搬送されていた。そしてこれが悪いニュースだが……残念ながら、彼は未だ意識不明のままだ。彼が君の依代となっていたと言うのが事実なら、先日の君たちと同じく魂にダメージを負っていると考えるのが妥当だろうね》
エドの報告に頭が真っ白になる。同時にあらゆる感情が胸中にあらぶった。
よかった、生きていた。暁人は生きていた……! だが、なぜ眠ったままなんだ。自分は無事なのに、なぜ相棒は……?
罪悪感が津波のようにKKの心を襲った。無理をさせた自覚はある。二心同体なんて本来ならあり得ないし、暁人の負担がどれだけだったかなんて筆舌に尽くしがたい。
その後凛子たちによる聞き取り調査で、暁人はやはり深い魂のダメージを回復するために眠り続けているのではと推測された。そして、彼を組織の息がかかった病院――KKたちが入院していたところだ――へ転院させるという話が持ち上がったのだ。
「待ってくれ。オレはこれ以上、暁人を巻き込みたくない」
KKは一度はそう反対したが、今の暁人を普通の病院に置いておく方が危険だ、という凛子の説得に渋々ながらも納得した。しっかりとした検査をまだ出来ていないので推測の域を出ないにしても、外傷がないのに目覚めないのはエーテルの影響である可能性はかなり高い。もしそうなら専門家のいる病院の方が何かあっても対応できると言われればぐうの音も出なかった。
この時点で、麻里とはすでに面通しは終わっていた。彼女はあの夜の記憶があるらしく、罵られる覚悟をして病室を訪ねた退院後のKKを、あたたかく迎えてくれたのだ。巻き込んですまないと謝罪する大人たちに「こちらこそ、兄を支えてくれて、ありがとうございました」と礼まで言ってくれた。
そこから話は早かった。麻里も適合者として目覚めてしまった上兄である暁人が意識不明のままということで、組織(実質は凛子)が後ろ立てとなり面倒を見ることが決定した。最初は戸惑い遠慮していた麻里だが、居候した凛子の家で絵梨佳とも仲良くなったらしく、よく笑うようになった。
暁人の転院も無事に済み、KKにはわからない精密検査の結果やはり魂に負担がかかっていたこと、それを回復させる何らかの力が働いていること、その結果寝たきりにも関わらず点滴などしなくとも痩せることも太ることもせずにただ眠り続けていることなどがわかった。時が止まっているに近いと言われ、人ならざるものの介入を意識せざるをえない。
そう言う意味ではやはり転院させて正解だったのだろう。何もしないのに生きているなんて、普通の医者を狂乱に落としそうな状態だ。
以来、KKはなるべく一日に一度は病院に足を運んだ。仕事が多忙なときはそうもいかなかったが、なにせ組織の病院なので融通がきいたのが幸いした。時間に関係なく入室する許可がもらえたのだ。休みの日の昼は当然のこと、仕事前の夕方や合間、もしくは仕事終わりの早朝に暁人を見舞うのは、もはやKKにとってライフワークに近い。下手をすれば妹である麻里よりも通っているかもしれない。
白い病室でただ眠る暁人の顔を眺め、時に彼の髪を撫で、時に冷たい手を温めた。それはもう、一種の祈りであった。
実は暁人に最初の変化が起きたのは、転院してすぐの2021年9月8日――二人が出会って初めて迎える暁人の誕生日のことだった。
その日、暁人は一瞬だけ目を覚ました。前兆などはなく本当に唐突で短い覚醒だった。初めて彼が目を開けた時、KKは喜びで心臓が止まるかと思った。
「よかった、KK、生きてる……」
掠れた声で言われたその言葉に、KKは言いようのない切なさを感じた。彼は自分が死んだと思っていたのだろう。存在を知らせるように手のひらを握り、顔を近づけた。
「ああ、オレはここにいる。それに麻里も無事だ。だからオマエも、早く元気になれ」
「麻里も? 良かった……でも、僕、すごく、眠いんだ……」
「暁人……暁人?」
また眠ってしまったのか。KKは「麻里に声ぐらい聞かせてやれよ、せっかちめ」と呟き、握った手を布団に戻してやるとそっと目元を撫でた。
そうして暁人は再び深い眠りについた。この時点ではなぜ暁人が一瞬とはいえ目覚めたのかわからず、眠り姫のように目覚めない暁人を見舞うだけの日々が続く。それでもこの変化はKKにとって一つの希望になった。
次の変化はそれから一年近くたった2022年8月22日のことだった。二人の運命が交錯した日と同じく一日中雨が降り続く雲模様の中、異変は起こった。平穏を破るかのように暁人の容態が急変し、全身から凄まじい霊力が噴出した。これまでの眠りはこのためにあったのだとばかりの、暴走とも言えるそれ。
KKは霊視で暁人の魂の状態を見て驚愕した。魂が半分以上も消えかかっていたのだ。だがなぜか、それは『消失』ではなく、どこかに『移動』してることがわかった。
今暁人の魂はここにはいない。別の場所で戦っているのだと、KKは直感的に理解した。それは二心同体で生まれ、今も確かにある繋がりのおかげだと確信する。だが同時にそれ以上のことは何もわからない上に、出来ることもない自分の無能さに歯噛みする。ただその手を握り、一晩中「暁人、頑張れ。オマエの居場所はここだ。帰ってこい」と語りかけることしか出来なかった。
そして翌日、不安定だった霊力が嘘のように落ち着いた。「ああ、帰ってきたのだ」と本能が答えを出す。どこか疲労したように見える暁人の頭をそっと撫で「頑張ったな」と褒めてやれば暁人の口角が少しあがったように見えた。
……この二つの現象は一度で終わらなかった。毎年8月22日と9月8日の同じ時刻に起こるようになったのだ。
KKと違い凛子とエドは研究者だ、起こる事象には理由があるという信念があった。凛子たち研究チームは、この二つの現象を調べ続け『22日に般若に関わる何かが起きて、23日に解決した後毎年9月8日に暁人は存在を生まれ直し、回復期に入ることを繰り返している』という仮説を立てた。
仮説の元になったのは現象の起きる時間だ。8月は般若が霧を発生させた時間に、9月は麻里の証言から暁人の出生時間に起きてることがわかったからだ。
KKは研究結果に納得しつつも、自分の相棒が毎年命の危機に晒されていることに憤りを感じずにはいられなかった。まるで魂を燃やしているようなその在り方に、どうしてコイツだけがこんな目に、と思わざるをえない。
あの事件からもう四年がたつ。妹である麻里も大学生になった。少しずつ大人びてゆく少女を見守るのは、自分などではなく正しく家族である暁人でなければならないだろうに。
「……このままじゃオマエ、麻里に歳越されちまうぞ」
いいのかお兄ちゃん、とからかうように言っても答えは返らない。あの夜に聞いた打てば響くような暁人の返答を、また聞きたいと心底思う。
今日は2025年9月8日。暁人と出会ってから四年、そして五度目の誕生日。窓の外には、いつものように雨が降り続いていた。
これも毎年繰り返されている現象だ。だからこそ諦観と安堵が混じる。今日もまた同じ時間に暁人は目覚めるだろう。だがそこからどうなるのか。また現象が繰り返されるだけなのか。願わくば自分の元に戻ってきてほしい。
「そろそろか」
時計を見たKKは、暁人がいつ目覚めても良いように眠る相棒の手を握り、彼の顔をじっと見つめていた。その手は、冷たいままだった。この手がいつか熱を取り戻すことを、どれほど願ってきたか。
――その時、雨音が止んだ。
「……あ?」
不意に訪れた静寂に、KKは顔を上げる。窓の外を見やると、さっきまでさあさあと降っていた雨が、嘘のようにやんでいる。曇天の隙間からわずかに光が差し込み、白い病室を淡く照らした。
いつもと違う現象に(まさか……?)といやがおうにも期待が高まる。その瞬間、KKの指にかすかな力が込められた。暁人の手が、KKの手を握り返したのだ。これもまた今までにない反応だった。
「……暁人?」
恐る恐る声をかけると、暁人の瞳がゆっくりと開く。その瞳は、これまでKKが見てきたどの暁人よりも、深い疲労と安堵を湛えていた。そして、KKを捉えたその瞳は驚くほど澄んでいた。
「……けぇけぇ」
かすれた声で、暁人がKKの名前を呼ぶ。その声は、かつて渋谷で共に戦った頃のまま、柔らかく確かな温かさを持っていて。とっさに霊視をすれば、その魂はしっかりと体に定着していることがわかった。
「暁人……オマエ、本当に……」
KKの目から止めどなく涙がこぼれた。四年間の苦しみ、痛み、そして希望が、一気に溢れ出す。そんなKKを少しだけ驚いたように見つめた後、暁人は「ただいま」と照れくさそうに微笑んだ。その笑顔はどこかやつれてはいたが、確かな生気が宿っていた。
「ああ、よくかえってきた」
KKはもう一度、その手を強く握りしめた。四年間待ち続けた言葉が、今、目の前の暁人から紡がれている。もう二度と、この手を離すものか。そう心に誓ったKKの頬を、幾筋もの涙が伝っていった。
「暁人、おかえり。そして誕生日おめでとう。かえってきてくれて、ありがとう」
当然というかなんというか、目覚めてすぐの暁人の周りはお祭り騒ぎになった。筆頭はもちろん妹である麻里だった。KKから連絡を受けてすぐに、大学の講義をほっぽりだして病室へと駆けつけた彼女は、ベッドの上で起き上がった兄を確認した瞬間ダイブとも言える勢いで暁人に抱きついた。
「わっ、麻里?!」
「お兄ちゃんの馬鹿! 寝過ぎ! 私の方がお姉ちゃんになるかと思ったんだから!!」
わんわんと声を上げて泣く最愛の妹の愛ある罵倒を、暁人もまた半泣きで受け止めた。それまで大人びた表情で物わかりよく振る舞っていた麻里が初めて見せた子供らしい姿に、KKは彼女の四年の忍耐を知る。
真っ赤な目で抱きしめあう兄妹の姿に、事件が完全に収束しようやく時は動き出すのだと感慨深く思う大人たちもまた、涙腺が緩むのを止められなかった。
目を覚ました暁人は、数日後には自力で歩けるまでに回復した。凛子の話では深い眠りが彼を回復させていたのは間違いなく、検査の結果暁人の魂のダメージは完全に修復されたという。
退院したものの元々住んでいたアパートは麻里の手で引き払ってしまっていた暁人に、当座の住むところがないのは自明の理で。麻里も相変わらず凛子の元で暮らしているので、ひとまず暁人の身柄はKKに預けられることになった。「これ以上迷惑をかけられないよ」と遠慮する暁人にかつての麻里の姿がだぶり兄妹だなと笑った。
しばらくは無理が出来ないのだからと言いくるめ、KKのアパートで共に過ごすことしばし。少しずつアパートを自分の居場所だと認識し始めた暁人が、ようやく眠っている間の体験を語り始めたのは秋も深まった頃だった。
「あれは神様だったのかな……KKと別れて階段を登ってたら、他の世界も元に戻してって言われたんだよね」
「……オマエ、それでほいほい頷いたのか」
渋い顔で唸るKKに暁人は「まさか!」と首を横に振った。
「ただ、そうすればみんなが助かるって言われて……」
「やっぱりほいほい頷いたんじゃねえか!」
「いいなとちょっと思っただけで、了承したつもりはなかったんだってば!」
不可抗力だと叫ぶ暁人にさもありなんとも思う。神とは得てして不条理なものだ。耳を貸してしまった時点で了承したと見なされたのだろう。
「まずはなんだっけ……削れた魂を元に戻さなきゃいけないから、誕生日の因果を利用するとか言われたんだよ。わけわからないまま目が覚めたらKKがいて、良かった生きてる、って思ったのは覚えてる」
「ああ、それが一回目の誕生日だな。その言い分だと凛子の生まれ直しっていう推測はわりと当たってたってことか」
「で、次に目が覚めたらベッドの上じゃなくて霧の渋谷だったんだ。でも雰囲気が、ちょっと違ってた」
「雰囲気が?」
「僕が知ってるのより重苦しいっていうか……マレビトが少し強かったんだよね。思った以上に硬いというか、覚えてる手数で倒しきれないっていうか……。その時点で数珠や僕の能力が強化されてないからとも考えたけど、まあ倒すしかないだろうし、般若を倒せばまた元の世界に戻れるんじゃないかって思って同じ様にしてたんだけど……」
「待て。暁人オマエ、まさかまた渋谷中の妖怪の言うことを聞いて、魂も救ったのか?!」
お人好し過ぎんだろと渋面を浮かべるKKに、暁人は困惑したように眉をひそめた。
「なんか、うまく言えないけどあの時やった以上のことも以下のことも出来なかったんだよ。その時はしようとすら思えないっていうか。今思えば色々試せたんじゃって思うんだけどね」
「神による強制力か……?」
「階段を登ったところでこれで帰れるかなと思ったら次もよろしく、みたいなこと言われてさ、そのまま続投。全部で四回かな。最後なんていくら戦っても力自体はあまり伸びなくて、そのくせマレビトは強くなるんだからどうしようかと思った。一回攻撃を受けるだけでもかなりきつくて……でも、あんたがいたから」
しみじみと言われた暁人のセリフにKKは目を丸くして、その言葉の続きを促した。
「僕一人じゃ、絶対に無理だった。でも、どの世界でもKKは側にいてくれた。僕の手に宿って、助けてくれた」
「それは……巻き込んだだけだろ。それにこの世界のオレは、何もしてやることが出来ない役立たずだった」
今はもう綺麗になった右手を大事そうに見つめる暁人に、KKは震える声でそう答えた。暁人が言う『KK』はその世界の自分で、今この自分じゃないことにざらついた気持ちが生まれる。
「でも、どの世界でもKKは僕の相棒だったんだ」
それがすごく嬉しかったと、暁人ははにかんだように微笑んだ。その笑顔を見て、KKは安堵すると同時に、胸の奥に苦いものがこみ上げてくるのを感じる。
「……結局オレは、オマエを巻き込むだけ巻き込んで一人で戦わせちまったってことだろうが」
KKの吐き出すようなセリフを、暁人は優しく否定した。
「ううん、違うよ。こっちで目覚める度、あんたは側にいてくれただろ。かえってこいって、待ってるって言ってくれただろ。だから僕は、最後まで頑張れたんだ」
「暁人……」
相棒の心からの言葉は、KKの心を深く癒やした。自責の念に苛まれていたKKにとって、嘘など何一つないそれは何よりも大きな救いだった。
KKは四年間で暁人に何が起こっていたのかを理解し始めた。毎年8月22日は、彼が命の危機に瀕した日であり、同時に新たな戦いへと送り出される日だったのだ。そして9月8日、暁人の誕生日に彼は『生まれ直し』、元の世界へと戻る力を得ていた。
ざっくり言えばこんなところだろう。もっと詳しい理論などを突き詰めるのは研究チームの仕事だ。あとから凛子たちにも話してやれと伝えると「また質問責めにあうのかぁ」としょぼくれたように言う姿は歳よりも幼く見えた。それほど自分に気を許してくれてるのだと思えば、悪い気はしない。それどころか――優越感が見え隠れする庇護欲だけじゃない自分の気持ちにKKは気づきつつあったが、今はいったん目をそらす。
「本当に、がんばったな」
KKは暁人の肩にそっと手を置き、静かにそう語りかけた。暁人はそれに、少しだけ誇らしげに「まあね」と笑うのだった。
四年間の空白を埋めるように、二人の間に確かな絆が再び築かれていくだろう。それは相棒という関係を超え、互いを深く支え合う、かけがえのないものとなっていくに違いない、そんな予感がした。
●おまけ●
「そう言えば回数があわねえな」
「え?」
「全部で四回って言っただろ、渋谷の繰り返し。そうすると今年の分が余計だ」
「あー……なんか、最後だけちょっと変だったんだよね」
「変?」
「あのさ――祟り屋さんって、実在してる?」
「はぁ?! オマエ、アイツらに会ったのか!?」
思い出話は、まだまだ続く。雨音はもう聞こえず、二人の時間はこれからいくらでもあるのだから。