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    Rhea_season

    @Rhea_season

    ※色々整理するため現在大半は非公開中
    お読みいただきありがとうございました♪
    誤字脱字見直したらpixivで再掲します✨

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    Rhea_season

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    南の港町を巡察中の国王陛下と大司教猊下のおはなしです。(全年齢)
    食べ物を食べてのほほんとしているだけのおはなし。
    こういうただ、日常をふたりで過ごしているだけの話でも幸せ…

    #ディミレト
    dimSum
    #風花雪月
    wind,FlowerAndSnow
    #BL小説
    blNovel
    #全年齢
    year-roundAge

    コバルト・プレート 潮風の匂いが、ほのかに鼻をかすめた。
     沿岸の町らしい白壁の家並みと、路地裏から覗く多彩な布の影。普段の厳かな巡察とは少し違い、今回の巡察はどこか観光にも似た空気が漂っていた。
     海沿いの集会所に急遽設けられた昼食の席には、この地の特産だという魚料理がずらりと並んでいた。蒼に近い青銀、目を惹く赤、そして見たことのない黄色い魚。さらに色鮮やかな野菜が添えられ、多彩なそれらに、ふたりの視線は自然と引き寄せられた。

    「……ずいぶんと、鮮やかだな」

     小さくつぶやいたディミトリの声に、ベレトはふっと微笑む。

    「うん。けれど、すごく美味しそうだ」

     ベレトは、はじめこそ、その鮮やかな彩りに目を見張ったが、すぐに用意されたナイフとフォークでひと切れをとると、まるでいつも食べている魚料理のように口に運んだ。

    「……うん、美味しい」

     その一言に周囲の料理人たちがほっと笑みを浮かべたのを見て、ディミトリも小さく息をついた。そんなベレトの傍らでディミトリはというと、まだ手をつけずにいる皿を目の前にして、どこか思案顔だった。
     青、赤、黄色。まるで絵の具をそのまま盛りつけたような魚料理が、皿の上に並んでいる。見慣れないその色鮮やかさと、何よりも生魚ということに、ディミトリは少しだけ気後れしてしまっていた。
     とはいえ、隣でベレトが「これも美味しい」「これも少し甘い」と穏やかに口にしているのを見ていると、疑念は薄れていくから不思議だ。この魚頭や尾、骨を残したまま盛り付けられている見たことのない料理に抵抗がないといいきれない。それでも、楽しそうに食べている姿や周囲の雰囲気に次第に覚悟が定まってきた。

    「美味しいか?それ……」

    ディミトリはベレトにしか聞こえないほど小さな声で囁いた。

    「色が鮮やかなだけで、味は美味だよ」

     表情からわかるかわかりきった回答が返ってきた。
     そもそも、魚を生で食べるという習慣は、王国にはなかった。だからどうしても、最初の一口には躊躇いがつきまとう。けれど、これは現地の人々が、精一杯のもてなしとして用意してくれた料理だ。ここで手をつけずにいるのは、あまりに無粋なことだ。
     そんな迷いの最中、ベレトが一口大に切った魚をフォークに乗せ、すっとディミトリの前に差し出してきた。

    「ちょっと品がないけど、ひとりで食べられないなら、手伝ってやろうか。国王陛下」

     ふふっと喉の奥で笑うように言って、ベレトは気軽な仕草でフォークを掲げる。その柔らかな声音に、ディミトリはわずかに目を伏せた。少しだけ、くすぐったいような面持ちで視線をそらしながらも、差し出されたそれを受け入れるように、そっと口を開け、そして静かに魚を口に運んだ。
     噛んだ瞬間、爽やかな風味がふわりと広がり、ディミトリは思わず目を瞬かせた。

    「……ああ、本当だ。思っていたよりずっと……軽いな。生臭さも、クセもない」

    「うん。むしろ、見た目のほうが驚いたぐらいだね」

     ふたりで顔を見合わせ、小さく笑う。
     その仕草が、まるで旅先で偶然入った食堂で食事を楽しむ恋人のようで、ディミトリはふと、頬の熱を感じた。
     ベレトはどこか機嫌よさそうに、わずかに口元を緩めながら、丁寧な手つきでナイフとフォークを使い、幸せそうな顔で食事を続けていた。浅ましいほどに食に貪欲というわけではない。けれど、初めてのものにも臆することなく向き合い、なんでも楽しむように味わう姿は見ていて心地よく、なによりも惹かれるものがある。
     その横顔を眺めながら、ディミトリはふと、自分の視野の狭さを思った。
     王である身でありながら、まだ知らぬことも、足を踏み入れぬ世界も、こうして数多くある。そして、自分はいちいちそれに戸惑い、躊躇している──そんな在り方ではいけないと、静かに反省した。
     静かに皿を見つめるディミトリを横目で見ながら、ベレトは食事の手を止めた。

    「やはり、ひとりで食べるのは難しいか?なら、手伝ってやらなくもない」

     わざとらしく肩をすくめながら言うその声音に、ディミトリは苦笑を漏らす。

    「いやいや……ひとりで食べられるとも」

     そう返しながら、ようやく魚にナイフを通す。
     隣に並び、さりげなく笑ってくれる誰かがいる。ただそれだけで、これほどまでに穏やかで、心強く感じられるものなのかと、今更ながらに思う。

     青空の下、海の向こうには、どこまでも世界が続いていた。

    「世界は……とても広いんだな」

     ディミトリの呟きに、隣でベレトがこちらを見て、小さく微笑む。

    「魚一匹で、またずいぶんと大きな話になったな、ディミトリ。見たことのない魚も、鳥も、野菜だって、まだまだあるよ。先は長い」

    「おいおい、全部食べ物の話じゃないか」

     苦笑まじりに返すと、ベレトも静かに肩を揺らした。

    「それだけ、まだまだやることがあるってことさ。あまり難しく考えずに、気負いすぎるな。そういうところ君のいいところでもあるが、厄介なところでもある」

     ひとつずつこなしていけばいい。そう言って、ベレトはまた料理を口に運ぶ。
     その何気ない一言に、ふっと肩の力が抜けた。
     そして、そばにあるこの穏やかな笑みがあるかぎり、自分もまた閉じこもることなく、広く物事をとらえる存在でありたいと、ディミトリは静かに思った。
     


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    Replies from the creator

    Rhea_season

    DONEディミトリが眷属となった世界線のディミレトです。
    現代を生きています。
    とても長生きをしてきたので、色々雰囲気違う…ということにしてください。
    前後編予定なので、そのうち後編もあると思います。
    (後編はR-18予定なので、その際は色々また設定を変更します)
    全編はR-18ではありませんが軽く接触はしているのでそういうのがNGの方、BLが無理というかたはお気をつけください。
     □

     人混みのなかで、ふいに視界がにじんだ。
     疲労というよりは、おそらくこの暑さのせいだろう。
     じっとりとまとわりつく空気に呼吸さえ重たくなり、額に滲む汗を拭うことさえ億劫に思える。

     暑さに関しては、いつまでたっても好きにはなれなかった。ファーガスで過ごした日々から、もうずいぶんと時が経つ。あの厳しい冬を越えてきたファーガスの記憶が、肌の奥に残っているのだろうか。今は穏やかで温暖な土地に身を置き、季節の移ろいもやわらかく感じるようになったというのに、こと暑さだけは、昔と変わらず身体に馴染まない。むしろ、記憶にある冷たい風や雪の匂いが、恋しくなることさえある。けれど、そんな苦手な暑さのなかでも、こうして隣に彼がいてくれるだけで、心は静かに落ち着いていくから不思議だ。
    9913

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    嗟弓@ A29393221

    DONEアテンション
    BLオリジナルストーリー 異世界現代風 小説参考キャラビジュイラストあり
    他サイトに掲載済み
    ね、見て綺麗かつては人間が支配していた青い星。その支配はある日を境に変わってしまった。人間以外の動物が人間と同等の知を持ち、四足歩行を突如として始めたのだ。動物上分類で、自らと種類が異なると相手を他種族と呼び、逆もそう呼んだ。人間の築いた文化は崩れ、元々飼われていた動物の文化と混ざり、新しいものとなった。そこで起きた社会問題についてこの本では解く。
    1〜
    『他種族と混ざってはいけない』これはこの世界に周知されたルール。
    他種族を決して愛しても、恋をしていても。体を重ね、一線を越えることはこの世で社会的に死ぬのに等しい。周囲にバレると死刑は確定する。
    もし、仮に他種族と体を重ね産まれてくる子がいるのなら。その子はまず死に至る。有名かつ常識的な話。自らの持つ種族遺伝子とパートナーの持つ種族遺伝子が別である…つまり他種族同士場合。その遺伝子同士は決して結び付くことはない。ゲイやレズ…同性同士では子が孕めないことに似ている。ところが、それらと違うのは腹を大きくできるところだ。しかし残念ながら、腹を痛めて産む子は生物ならざる姿、形で産まれる。そして半日もすれば死に絶える。肺も、エラもなく心臓どころか、脳も骨もない体で産まれ息もできず死ぬ。
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