その輝きは、手の中に「KK、クリスマスプレゼントは何がいい?」
「煙草だな」
「え? 最近そんなに吸わないのに?」
こたつでぬくぬくと過ごしながら、暁人は数日後のクリスマスをどうするか考えていた。
同棲を始めてからというものKKは日に日に煙草を吸う回数が減り、今では一日一回吸うか吸わないかぐらいになっている。ヘビースモーカーだったであろう彼からしたら、それはかなり意外なことであり、本人も控えるつもりはなかったと無意識だったようだ。
「もっと他にさ、せっかくならちゃんと物として残るものとか……ない?」
KKはしばらく考えて、すぐには思いつかなかったようで「思いついたら言うよ」と蜜柑を剥き始めた。
結局、KKからのプレゼントの要望はないままクリスマスイブ当日を迎えてしまった。挙句、もう一度聞けば「プレゼントはオマエでいい」と返される始末である。
「適当だなぁ……じゃあ明日までに本当に決まらなかったらそれにしちゃうよ?」
わざとらしく頬を少し膨らませ、拗ねた表情をKKに向けつつも暁人はキッチンへと向かう。外食も考えたが、せっかくのクリスマスだからと暁人が豪華なディナーを作ってみたいと提案して家でゆっくり楽しむことにした。
具がたっぷりのグラタンに、鶏肉のオーブン焼き、クリスマスケーキも手作りで前日からしっかり準備し、仕上げに取り掛かる。
KKはその様子を眺めながら、ソファに座って本を読んでいた。暁人が一生懸命に料理する姿と、美味しそうな匂いが漂ってくるため読書には集中していない様子で、そのうち「なにか、手伝うか?」と声をかけてきたぐらいである。暁人は嬉しそうにケーキの飾りつけを頼むことにした。
「じゃあ……メリークリスマス!」
シャンパンをあけてグラスに注ぎ、乾杯をする。テーブルには暁人が丹精込めて作ったご馳走が並んでいる。
「これ美味いな」
「でしょ? 昨日の夜から漬け込んでおいたんだ」
もちろん、このご馳走の大半は暁人の胃袋に収まるのだが、KKは美味しそうに食べる暁人の姿を眺めながら少しずつ料理を食すぐらいでちょうど良かった。
「そんなにじっと見られると食べにくいよ」
「わりぃわりぃ、ついな」
料理を平らげたあとはお楽しみのケーキである。少し歪な飾りつけのケーキを一切れ分けてそれをKKに渡し、残りは暁人の前に置いた。
「菓子も作れるなら、今度は塩大福でも作ってくれよ」
「和菓子かぁ、上手くできるかわからないけれど…挑戦してみてもいいかもね」
ケーキもあっという間に平らげ、二人で残りのシャンパンを飲み進めていく。ふと、KKがほろ酔いの状態で口を開いた。
「暁人ぉ」
「うん?」
「明日、指輪買いに行くぞ」
「うん…………ん?」
思わず、暁人がガタッと椅子から立ち上がった。
「今、指輪って言った?」
「言った」
「…………酔った勢いじゃないよね?」
「当たり前だろうが、前々から言おうと思ってたんだよ」
KKとお揃いのものならいくつかある、この前はおふざけ半分でペアルックTシャツを買うぐらい、互いにお揃いのものには抵抗がなかった。
それが、指輪……ましてやペアリングとなれば話は別だ。つい、暁人が緊張した表情でKKを見つめる。
「この歳になるとな、欲しいものはなんだって言われてもすぐに思いつかなくてよ……よくよく考えて、オマエが嫌じゃなければ買おうかと考えてたんだよ」
「……嫌じゃない、むしろ…………嬉しい……!」
「じゃあ、決まりだな……っておい、泣くことないだろ」
嬉しさで溢れた涙は、少し骨ばった優しい手で拭われた。
翌朝、暁人の枕元にはクリスマス限定塩神詰め合わせの箱が置かれていたのだが、KKに聞いても
「オレは知らないぞー」とわざとらしい返答が返ってきて、暁人はそんなKKをそっと抱きしめた。
宣言通り指輪を買いに行き、平日で人が少ない緑道を歩きながら帰路につく。
「あの塩神詰め合わせ、ネットだとすぐに売り切れてたのによく買えたね?」
「そりゃあ、随分前から狙ってたからな。そういうのが得意な奴に頼んだんだよ」
それが誰のことを指しているか、暁人はすぐにわかったのだがあえて聞かないでおいた。
「僕が喜ぶかと思って買ってくれたんだ? ありがとうKK」
「一気に食いすぎんなよ? 塩分過多で病気になるんだからな」
「はーい」
微笑みながら、暁人はキラリと光る指輪をはめた手をそっと空に翳す。思わず口角が上がった。
「……指輪で思い出したんだがな」
「なに?」
「遺骨や遺灰を加工してダイヤモンドに出来るんだとよ」
「マジで?」
寒空の下、キラリと光る二つの指輪の輝きはとても眩しかった。