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    sayura_gk

    18↑。右鯉のみの字書きです。

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    sayura_gk

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    尾鯉webオンリー『百発百中恋の弾丸』開催百日前カウントダウン!
    ひゃくこいの前にオフイベ尾鯉オンリーもあるので、本格的に原稿始めようと思います。
    少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!

    #尾鯉
    koi

    想いが欲しい『お前が好きだ』
     何度この言葉を声に出して、文字にして百之助に伝えただろう。どんなに真剣に告げても、軽く口にしてみても。好きなところを並べてみても。返される言葉はいつも同じだった。
    『揶揄うんじゃねぇ』
    『たまにしか会わねぇからそんな気がするだけだろ』
    『高校生なんか相手にできるわけねぇだろ』
     俺が逮捕されてもいいってのか。帰省中に昼寝をする百之助へ半裸になって覆いかぶさったら、そんな事を言われた日もある。こちらを睨みつける目は完全に座っており、その時はさすがに『これはマズいな?』と思ったものだ。
     幼馴染みの花沢兄弟。家族ぐるみの付き合いで、長期の休みは互いの別荘に数日間滞在したものだ。平之丞が大学生になり家を空ける事が増えると、音之進だけが花沢家に滞在する事あった。
     平之丞のようにどこまでも優しい勇作と、ふっきらぼうでも幼い音之進を見捨てたりしない百之助。音之進は二人とも大好きだと何度も口にした。そんな時、優作は同じように「僕も大好きだよ」と返してくれた。百之助はふん、とそっぽを向きながらも音之進の頭を撫でる手は優しく、その感触は自分と同じ気持ちだと思わせてくれた。
     兄弟に向けるその気持ちが変わったのは百之助が二十歳の時。大学進学を機に上京した百之助は、地域の成人式に出るために実家へと帰ってきた。
     ほんの少し会わない間に大人の男となっていた百之助に、音之進の心は撃ち抜かれ恋に落ちた。勇作には感じない胸の高鳴り。時に苦しく、また甘さも漂わせ。それは百之助が特別だと音之進が自覚するのに十分なものだった。
     想いを隠しておけない音之進は、それを素直に告げた。だが百之助は受け止めない。彼から返される言葉が、本当にそう思っての事なのか、はぐらかされているのか。音之進には分からない。
     でもだからといって諦めようとは思わなかった。こんな想いは今まで誰にも抱いた事はなく、百之助だけが特別だった。会えない日の方がずっと多かったが、気持ちは冷めない。百之助が帰省する度に、そしてメッセージでも想いを告げ続けた。
     大学に通う為に百之助の家の近くに引っ越した。卒業式を終えてからは、一日も早く三月が終わる事を早く早くと祈る日々。
     そして高校生ではなくなった翌日。待ちに待ったその日に想いを込めて告白をした。入学式は数日後だが立場は大学生だ。百之助が気にしていたのは、自分が高校生だという事。これなら百之助も受け止めてくれる、同じ言葉を返してくれると思った。
    『百之助、好きだ。もう高校生じゃない。だから付き合ってくれ!』
    『…本気か?』
    『当たり前だ。ずっと大好きだった』
     真っ直ぐに何も誤魔化さず。好きな気持ちを伝えた音之進は、百之助から断られる可能性なんて微塵も考えなかった。子供の頃に何度も頭を撫でてくれた優しい手付き。あれは自分と同じ気持ちだと信じて疑わなかった。
     告白をしたあの日。百之助からの返事を思い出せない。自分の気持ちを抱えるのに精一杯で。百之助から『本気か?』と問われ当たり前だと返した時にはもう、抱きついていた。今日から恋人という思いで満たされていた。
     でもそれは自分だけの思い込みだったのではないか。そんな考えが頭を過ぎるようになり、音之進の心を重くする。
     あれから何度『好き』と告げただろう。そして百之助からは何回伝えられただろう。
     ふとそんな事に気がついたのは交際半年後。音之進は追い出せる限りのやり取りを思い返した。だがその記憶に百之助からの『好き』の声は一つもなかった。
     二人の関係が恋人になってから休日は一緒に過ごしたし、幾度も唇を重ねて体を繋げた。身長は自分の方が高くなっていたから、包まれるとは言えないものの、百之助の腕に抱き寄せられて迎える朝は幸せなものだった。
     唇や肌が触れ合えば甘さを伴う熱が生まれて、身も心も満たされる。きっと百之助も同じなのだと信じて疑わなかった。
     なぜ疑わなかったのだろう。どうして気にも止めなかったのだろう。なんで夢を見たままでいられなかったのだろう。百之助から一度も『好き』と言われていない──その事に気付かずにいたら、幸せな気持ちは続いたのに。
     悲しみに唇を噛み締め、胸の痛みに涙を堪える。だがそれで立ち止まり、俯く音之進ではなかった。
     まだ一度も『好き』と言われてないなら、言ってもらえばいい。だって嫌われてない。そんな事は聞くまでもない。
     百之助は嫌いな人間に時間を割いたりしない。一人暮らしの部屋に呼ばれて、朝まで抱き合って眠る。音之進に触れる百之助は手は優しく甘く熱い。それだけで特別なのだと分かる。分かるけども、それでも言葉が欲しいのだ。
     深みのある落ち着いた声で「音之進」と呼ばれると嬉しくなる。聞き間違えたりしない、音之進にとって特別なそれ。だから同じ声で「好きだ」と言われたい。百之助の裡にある想いを聞かせてほしい。音之進はそんな自分の気持ちをストレートに伝えた。
    「百…お前が好きだ」
    「あぁ」
    「お前からも『好き』って言ってほしい」
    「はぁあ?」
    「いつも私ばかりなのはズルい」
    「知るか。お前が勝手に言ってるだけだろ」
    「だって一緒にいたら言いたくなるだろ」
    「ならん」
     ひゃぁあくぅぅぅと、甘えてみてもダメだった。何度頼んでも百之助が折れる事はなく、うるさいと唇を塞がれた。そしていつの間にか「ひゃく、好き、大好き」と喘ぎながら甘えるように告げるのは自分の方だった。
     『好き』って言ってくれないなら──
    もう連絡はしない、会いに行かない、話さない、キスしない、えっちはしない。そんな条件を付けても、堪えられなくなるのは音之進の方だ。
     連絡をしないなど一日が限界たったし、休前日から泊まりに行きたくなる。一緒にいれば触れたくなるし、話もしたい。僅かとはいえ身長も体重も音之進の方が上回るのに、一度押さえ込まれたら百之助に好きなように啼かされるだけだった。
     音之進が百之助を殴るのも辞さない覚悟で抵抗すれば、結果は違うのかもしれない。でもそんな事はしたくない。
     『好き』と言ってほしい。
     こんなに簡単なお願いを聞いてくれない意地悪な年上の恋人。なのに嫌いになどなれないし、嘘でも『嫌い』とは言いたくない。そんな音之進の甘さを百之助は分かっていて、だからいつも抱き合って終わりにされてしまうのだろう。
     幼い頃からずっと、大人はもちろん平之丞も勇作も音之進のお願いを聞いてくれた。聞いてくれないのは百之助だけ。「嫌だ」と言葉でも態度でも断られ、諦めて落ち込んで寂しくなって俯いて。落ちそうになる涙を堪える。
     そんな時に白い手が差し伸べられると、どうしようもなく嬉しくなった。お願いを聞いてくれなかった事も忘れて、ただ手を繋いでくれる事が音之進の心を喜びで満たしてしまう。
    「行くぞ」
    「うん!」
     平之丞よりは小さいが、音之進の手を包めるくらいには大きなそれ。自分を振り返ってくれる事が嬉しかった。そして忘れた頃に願い事を叶えてくれたりするのだ、百之助は。
     幼い頃から何度も繰り返したやり取り。だから今回もきっと、そのうち百之助も『好き』と言ってくれる。そう信じていたけれど。一度浮かんだ不安が胸を占めると駄目だった。
     百之助は嫌いな人間を部屋に入れない筈だが、音之進は幼馴染みだから許されていただけだとしたら。
     手付きが優しいのは幼い頃からの延長だとしたら。キスもえっちも特別な想いは何もなくて「ただキモチイイから」だとしたら。
     意地悪で言わないのではなく、本当に何も思ってないのだとしたら。告白を断ってもどうせ音之進はしつこいだろうから、飽きるまで待つかなどと思われているのだとしたら。
     音之進の心を折るような不安が次々に浮かんで、消えずに積み重なっていく。それはどれもが重くて、音之進を絡め取り離さない。
     百之助が好きなのに。好きなだけなのに。
     その想いは切なくて痛いほどで、代わりなど何もない。他の誰でもこんな気持ちにはならない。百之助だからだ。
     でもどんなに好きでも、自分の気持ちだけを押し付ける訳にはいかない。百之助に嫌われてなければいいんじゃない。自分の事も好きでいてほしいのだから。
    「ひゃく…お前が、好きだ…」
     百之助の部屋の玄関で、溢れそうになる涙を堪えながら告げる。ゴールデンウィークの帰省中に、実家と花沢家から渡された土産を渡しに来ただけで、そんな事を口にするつもりはなかった。今日は荷物だけ渡して帰るつもりだったのだ。
     一週間振りに会った百之助には笑顔を見せたかった。でもいくつも浮かんだ不安の中に、どれか一つでも百之助の本心があったら。
     もう終わりにしなければならない。
     そんな気持ちで過ごした連休は、何をしたのかあまり記憶にない。優しい兄たちから気遣うような言葉や表情を向けられた気もするが、音之進は笑って大丈夫と返した。
     その時の気持ちを思い出す。百之助が
    好きだから。大好きだから。終わりは笑顔を見せたい。そんな想いが音之進の胸を締め付ける。
    「好きなんだ、ひゃく…」
     長い睫毛に縁取られた瞳を潤ませて、笑顔を作る。だがそれは長くは続かなかった。
     百之助からは何も返されない。大好きな声で『好き』と言われる事はない。
     そう思っただけで笑顔を保つ事などできなかった。俯いて唇を噛み締める。涙が落ちた。
    「音」
     滲む視界に入った白い手。幼い頃と同じように掌を向けて音之進を誘う。でももう自分のそれを重ねてはいけないのだ。音之進は首を振った。
     フッと。空気が微かに揺れたかと思うと、音之進の手は掴まれそのまま部屋へと進んでいく。思わぬ展開に焦るあまり、音之進は抵抗を忘れた。
    「ひゃ、く…っ! あ、ちょっ、靴…っ」
    「俺は気にしない」
    「なぁっ、止まっ、て…っ」
     言いながらも百之助が止まってくれののが分かって、靴を脱ぎ捨てた。フローリングはともかく、この先はカーペットもある。さすがに土足でなど入れない。
     リビングに入ってすぐ、掴まれた手をぐいと引かれ放される。勢い付いた体は自分で止める事もできずに床へと投げ出された。カーペットがあるとはいえ、ぶつけた手と膝に痛みが走る。
    「何を…っ!」
     振り返り「何をするんだ!」と言いかけた声は言葉にならなかった。百之助の腕が音之進に絡んで強く抱き締める。
    「…好きだ」
    「っ!」
     大好きな声が伝える、ずっと欲しかった一言。
    「ひゃく…」
    「…なんだ」
    「いま…『好き』って…言った…?」
    「あぁ」
    「ほんとう、に?」
    「俺が嘘でそんな事言うと思うか?」
     首を振る。百之助はそんな噓は付かない。
    「もう一回言って」
    「好きだ」
    「百之助…好き、大好き」
     百之助からの一言で胸の中に積み重なっていた不安が消える。つい先ほどまで「終わりにしなければならない」と思っていたそれも、溶けてなくなる。
    「お前は俺のものだ」
     直接耳へと囁かれ、耳朶を甘噛みされる。それだけで全身が痺れるような心地がして「あ…っ」と声が漏れる。
     百之助が想いを口にした。その事実は音之進の寂しさを消して、心を満たした。

     涙の跡が残る目元に唇を落とす。幾度もそれを繰り返すが、深く眠る音之進は起きる気配がない。きっと久し振りに安心して眠るのだろうと、百之助は思う。
     『百之助も好きだと言ってほしい』というそれは、音之進のささやかな願い。
     最初は甘えるように強請ったそれが、深刻になっていくのに気付かぬ振りをした。気持ちも塞ぎ込んで笑顔も減ったし、濃くなっていく隈を見ても変わらなかった。
     まだだ、まだ。一日中俺の事だけを考えて、俺の事しか考えられなくなるまで。
     それまでは、どんなに強請られても音之進の願いを叶える気などなかった。たった二文字の『好き』を口にするのは簡単だ。だがすぐに叶えられた願いは、音之進の中にも残らない。叶えられないからこそ諦められず、欲しい欲しいと執着するのだ。
     それにと百之助は思う。たった二文字の『好き』という言葉で、自分の想いが伝えきれると思っているのだろうか。『愛してる』のそれすら到底足りないのに。
     もっともっと俺の事だけを考えろ。他の誰もいらないと思うほどに。音之進自ら『いつでも百之助のそばにいたい』と願うまで。
     音之進が自分に必要なのは百之助だけだと、そう思えるようになったなら。喜んで部屋に閉じ込めてやるのに。音之進の世界を俺だけにしてやるのに。
     そのために、明日からはまた音之進の願いを聞き流す。一度は言ってくれたのにと怒るかもしれず、聞き間違いだったのかと不安に顔を曇らせるに違いない。
     また言ってほしいと今まで以上に躍起になるだろう。もちろん会うのは今まで通りだから、体だけなのかと余計な事を考えたりするかもしれない。
     百之助の態度からは愛されていると分かるのに、言葉がないだけで心が揺れる。毎日悩みに悩んで、涙を零して胸を痛ませ。
     それでも縋るのは百之助以外にはなく。寝ても覚めても考えるのは百之助の事だけで、泣きながら百之助が好きだと、欲しいと訴えるその時。
     漸く手を差し出すのだ。音之進の願いを叶えてやるために。
    「お前は俺のものだ、俺だけのものだ」
     だから早く全部を捨てて来いよ、音之進。俺の願いを叶えるのはお前しかいないんだから。
     百之助は笑みを浮かべた──。
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