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    yuno

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    yuno

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    #曦澄ワンドロワンライ の『犬』にて。江澄が新たな犬を飼うほのぼの話です。曦澄は遠距離婚の熟練夫夫みたいな感じ。兄上が策士っぽい。

    #曦澄

    【曦澄】魚心あれば下心「あ、ああ~……」

    ばっしゃーん!
    景気のいい音と共に水飛沫が上がり、蓮花塢の蓮湖の中を一匹の犬が気持ちよさそうに泳いでいく。ばっちゃばっちゃと犬かきをして、実に楽しそうだ。

    「全くいい身分だ、あいつめ」
    「暑いですからね。あんなにふさふさの毛並みではたまらなかったのでしょう」
    「そうは言うがな。ちょっと目を離すとすぐに湖に飛び込むんだ。乾いているときのほうが短くなってきたぞ」
    「ふふ、まだ一歳になったばかりでしょう? 遊びたい盛りのようですね」

    欄干をびしょ濡れにするから、足元に気をつけてくれ。滑るぞ。
    手を取って誘導してくれる江澄に、大丈夫ですよと微笑む。

    蓮の花の見頃に合わせて今年も蓮花塢にやってきた私に、江澄は甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。それが嬉しい。

    「せめて水遊びは貴方に挨拶させてからにしようと思ったんだがな」
    「子どもは遊ぶのが仕事ですし、仕方ありませんよ」
    「だが、犬の一歳は俺たちで言えば座学に行く年頃のようなものだろう? 待てが出来ないようでは困る」

    俺は躾が下手なのか? 最近は金凌も言うことを聞かなくなってきたしなと江澄がぼやく。真面目な彼が可愛らしい。

    「でも、訓練のときは良い子にしているんでしょう?」
    「それはそうだ。いずれ夜狩りに連れていくつもりだからな。甘えは命取りだ」
    「ふふ。きっと貴方の厳しいときと穏やかなときを見極めているんだね。賢い子だ」

    頭のいい子じゃないかと湖の中を泳ぎ回っている白い姿を見やれば、要領のいいことだなと江澄が困ったように苦笑した。

    昼下がりともなれば暑い盛り。四阿で日差しを避けながら、吹かれる風のままに湖を眺める。白い犬は楽しそうに泳ぎ回りながら蓮の花の間を縫っていった。

    「まったく、せっかくの白い毛並みが台無しだ。茶色の犬になってしまうぞ」

    犬を見つめる江澄の眼差しは優しい。
    ああ、犬を贈って良かった。
    こんなに心穏やかに笑っている彼の姿が見られるなんて、なんて僥倖なんでしょう。
    魏公子には申し訳ないですが、やはり犬は江澄の癒やしになっているようです。

    私は蓮花塢にやってくる前に雲深不知処でのひと悶着を思い出し、つい笑ってしまった口元を袖口で隠した。

    ***

    忘機が江澄に贈り物をした。
    魏公子への想い故に、長年妬心を御せずにいた弟は、しかし、周囲からの再三の咎めや諌めを受け入れ、ようやく自分から歩み寄ることにしたらしい。
    何を贈ったら喜んでくれるだろうと弟と二人、頭を悩ませ選びに選び抜いた贈り物。
    その贈り物を江澄は殊の外喜んだ。

    初めは忘機からの贈り物などどういう風の吹き回しだと訝しみ、胡乱げに届けられた籠の中を覗き。
    贈り物を認めた瞬間の驚きと戸惑い、そして、やがて徐々に喜びを隠せなくなった顔。
    ああ、今も鮮明に覚えている。
    忘機からの贈り物に、嬉しそうに顔を綻ばせた江澄はとてもとても可愛らしかった。

    「待った、待った! なんかいい話っぽく終わらせようとしてるけど、俺は全然納得してないから!!」
    「魏公子。そんな、せっかくの忘機の仲直りの印をそんなふうに言わなくても」

    仕方のない子ですね。困ったように微笑めば、魏公子はぐっと悔しげに口を噤むも、すぐにいやいやいや! と首を振った。
    激しく首を振るので、頭の高い位置で結わえられた髪ごとぶんぶん振られる。その様がまるでしっぽを振っているようで微笑ましい。

    「だいたい藍湛も酷いよ! 俺が犬嫌いなの知ってるくせに!」
    「だが、江晩吟は犬が好きだ」
    「そうだよ! あいつは犬が大好きだよ、知ってるよ! でも、俺は嫌いなんだよ!」
    「江晩吟への贈り物だから、彼の好きなものを贈るのは理に適っている」
    「そうだけど! なんでよりにもよってそれ?! 他にもあるだろ、あいつの好きなものって!」
    「知らない」

    というか、彼の好きなものはだいたいが蓮花塢であり雲夢なので、忘機からは贈りようがない。
    美しい衣装や髪冠などの装飾品、香炉などは私が贈るので忘機の出る幕はないし、天子笑は魏公子の手土産ネタだ。奪うわけにはいかないと、弟なりに気を利かせたのだろう。

    「あるじゃん、筆とか! きれいな紙とか!」
    「それは兄上が贈っている」

    書き心地の良い上質の筆も、使い勝手のいい筆も、きれいな香りのする紙も、既に私が贈り済み。これで私に文を書いてと渡したら、これは贈り物というより催促なんじゃないかと苦笑されたのだっけ。
    ああ、あのときの顔も可愛らしかった。思い出すたび、幸せな気持ちになる。あの後、この感動を形にしようとすぐに筆を取ったのだ。脳裏に焼き付いた彼の笑顔を紙に描き出し、会えない日が続くとは開いて思い出に浸り、心を慰めている。

    「犬がいるせいで俺が蓮花塢に行けないじゃん!」
    「……」
    「藍湛、絶対わかっててやっただろ! 意地悪!」
    「魏嬰」
    「裏切り者ー!」
    「魏嬰……」

    いつも仲睦まじい弟夫夫だが、私が蓮花塢に行くたび、ついていきたくても犬がいるせいで行けないと涙目になる魏公子が忘機に八つ当たりをしている。
    これも痴話喧嘩というやつだろうか。
    仕方がないねと苦笑しながら、私は後のことは二人に任せて、一人雲夢へと向かったのだった。

    ***

    元気よく湖を泳ぎ回っていた犬は、やがて気が済んだのか、こちらに戻ってくるように泳ぎだした。
    犬のことはよくわからないけれど、遠目からでも機嫌が良さそうなのがわかる。なんだか笑顔に見えるのだ。
    言えば、その印象で合っていると江澄が笑う。

    「犬は案外表情豊かだ。舌を出していると笑っているように見えるしな」
    「そうですね」
    「ああ、そうだ。先に言っておくぞ。水から上がると身体を震わせて水気を弾き飛ばそうとする。巻き込まれたらびしょ濡れになるから気をつけろ」

    貴方の白い衣が台無しになるからな。
    笑って釘を差され、それは大変と微笑みつつ、そうなれば着替えに湯を借りるだけなので、いっそ二人で巻き込まれてしまおうかと企んでみる。
    二人で衣を脱いで、湯に浸かるのもいい。

    せっかくの二人きりの休暇。
    この犬は私たちの子のようなもの。
    愛しい道侶と親子水入らずの時間を楽しむために私は来たのだから。
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    PROGRESS長編曦澄17
    兄上、頑丈(いったん終わり)
     江澄は目を剥いた。
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     江澄は鋭い声を飛ばした。ずかずかと房室に入り、傍の小円卓に水差しを置いた。
    「晩吟……」
    「あなたは怪我人なんだぞ、勝手に動くな」
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    月はまだ出ない夜
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     口を吸いあいながら、江澄は押されるままに後退った。
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     全身で壁に押し付けられて動けない。
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    「江澄、あなたに触れたい」
     藍曦臣は返事を待たずに江澄の耳に唇をつけた。耳殻の溝にそって舌が這う。
     江澄が身をすくませても、衣を引っ張っても、彼はやめようとはしない。
     そのうちに舌は首筋を下りて、鎖骨に至る。
     江澄は「待ってくれ」の一言が言えずに歯を食いしばった。
     止めれば止まってくれるだろう。しかし、二度目だ。落胆させるに決まっている。しかし、止めなければ胸を開かれる。そうしたら傷が明らかになる。
     選べなかった。どちらにしても悪い結果にしかならない。
     ところが、藍曦臣は喉元に顔をうめたまま、そこで止まった。
    1437

    takami180

    PROGRESS恋綴3-2(旧続々長編曦澄)
    転んでもただでは起きない兄上
     その日は各々の牀榻で休んだ。
     締め切った帳子の向こう、衝立のさらに向こう側で藍曦臣は眠っている。
     暗闇の中で江澄は何度も寝返りを打った。
     いつかの夜も、藍曦臣が隣にいてくれればいいのに、と思った。せっかく同じ部屋に泊まっているのに、今晩も同じことを思う。
     けれど彼を拒否した身で、一緒に寝てくれと願うことはできなかった。
     もう、一時は経っただろうか。
     藍曦臣は眠っただろうか。
     江澄はそろりと帳子を引いた。
    「藍渙」
     小声で呼ぶが返事はない。この分なら大丈夫そうだ。
     牀榻を抜け出して、衝立を越え、藍曦臣の休んでいる牀榻の前に立つ。さすがに帳子を開けることはできずに、その場に座り込む。
     行儀は悪いが誰かが見ているわけではない。
     牀榻の支柱に頭を預けて耳をすませば、藍曦臣の気配を感じ取れた。
     明日別れれば、清談会が終わるまで会うことは叶わないだろう。藍宗主は多忙を極めるだろうし、そこまでとはいかずとも江宗主としての自分も、常よりは忙しくなる。
     江澄は己の肩を両手で抱きしめた。
     夏の夜だ。寒いわけではない。
     藍渙、と声を出さずに呼ぶ。抱きしめられた感触を思い出す。 3050