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    last_of_QED

    @last_of_QED

    ディスガイアを好むしがない愛マニア。執事閣下、閣下執事、ヴァルアルやCP無しの地獄話まで節操なく執筆します。デ初代〜7までプレイ済。
    最近ハマったコーヒートーク(ガラハイ)のお話しもちょびっと載せてます。

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    last_of_QED

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    主従関係だけれど、友でもある二人に夢見てる💭【マイファーストフレンド】フェンリッヒがヴァル様の部屋の前で聞き耳を立てる話👂

    【補足】吸血鬼は"let me in."と許可をとってからでないと他者の領域には立ち入れない習性があるとかないとか聞いて、書きました。

    #ディスガイア4
    disgaea4

    【マイファーストフレンド】 無尽蔵に沸き上がる灼熱が窓ガラス越し、夕焼けのように赤々と焼き付いている。
     長い廊下の突き当たり。見慣れた光景。見慣れた扉。フェンリッヒは足を止め、目を閉じる。そして良く見知ったドアの向こう側へと耳を澄ました。





     人間との約束を守り、種としての生命線である吸血行為さえも己に禁じた我が主。驚くべきことに血を断ってから既に四百年以上もの月日が流れている。
     オレは主のため心を鬼にして皮肉を放つ。イワシにしつこく血を仕込む。意志を曲げられないというのなら、気付かぬうちに血を口にして仕舞えるように。あなた様に本来の力を取り戻していただけるように。わたくしフェンリッヒが誠心誠意お手伝い致します。……ヴァル様は仕込みに気付く度、この狼めを叱責なさいますがどうかお分かりいただきたい。これは従者なりの心配りに他ならないのですから。

     我が主、ヴァルバトーゼ様の約束を絶対とする旧き悪魔観。現代魔界においてそういった精神はとても希少で高潔なものだ。オレはかつてこの人の放つ強烈な光に魅せられた。それは傭兵として魔界を彷徨い歩いていた根無草にとってある種の救いだった。この人であればこそオレの野望は叶えられると直感した。暴君ヴァルバトーゼの暗殺未遂を経て、オレはヴァル様のシモベに、ヴァル様はオレの主となった。

     そして間も無くして、我が主はあの忌々しい「約束」を結ぶこととなる。人間界の戦争を理由として約束を果たせなくなった主は魔力を保つ術を失い──結果、オレたちは根城としていた魔界上層区を追われ、中層区、下層区、更にはその下へと堕ちていった。

     数多の追っ手から逃れ、遂には魔界のどん底と称されるこの地獄にまで辿り着いた。いや、辿り着いたなどと響きの良い逃走劇ではなかった。這いずり堕ちた、というのが正確な表現だろう。あれだけの暴を誇った吸血鬼は力を喪い、姿かたちまでも変貌を遂げた。けれどそんな状態にあってなお、主が交わした約束が軽んじられることは一度たりともありはしなかった。オレの必死の説得にも首を横に振り、主は約束を守り続け……今となってはイワシでの栄養補給という摩訶不思議な活路まで見出した。魔力を失い魔界の辺境まで堕ちたとしてもその崇高な精神まで落ちぶれることはなかった。
     ヴァルバトーゼ様は強い人だった。それこそがかつて魅せられた輝きだった。オレの望んだ「主」そのものだった。はずだったのに

     その完璧なまでの強さが少し、寂しかった。

     悪魔として己が内面を隠すのはいたく当然のことである。心を見透かされること、それは即ち相手への隷属を意味する。故に格の高い悪魔であればこそ、窮地に陥ろうが気丈に振る舞うものである。我が主もその例に漏れない存在ではあった。それでも、ヴァル様の心の中にもきっとある、柔らかなところにオレはずっと触れてみたかったのだ。
     遠い過去を想う。地獄への道中、背中こそ貸したものの主は弱音のひとつ吐かなかった。オレは、一言、苦しいと言って欲しかった。それは主の弱みを握ろうなどという姑息な叛心から来るものでは決してない。
     ただ、在りし日にヴァル様がオレを友と呼んでくださったこと。それがずっと心に残り忘れられなかった。オレは友として心根を聞かせてほしいと願ってしまっている。そう、今もまだ。


     ドアの向こうからは物音ひとつ聞こえてこない。もしや眠っておられるのだろうか。
     そんな憶測が胸を過ぎるもすぐに思い直す。就寝には早過ぎる。いつもの主ならば棺桶入りはもう一時間は後だ。


     オレはシモベとしてヴァル様への接し方は十二分に心得ているつもりだ。しかし友としての接し方となると、途端にどうしたら良いのか分からなくなってしまう。いつもより親しげに呼ばれる己の名にとくとくと脈拍が上がり、顔が熱くなり、なんとも形容し難い、むず痒い気持ちになった。
     一方で我が友はといえば、こちらの気も知らず好き勝手に「友」として振る舞うのである。……こんなのは不公平だ、オレばかりが意識をして……この人の胸の内を、それこそ弱いところでも暴かなければおいそれと隣に並び立つことも出来やしない。

    「……そこにいるな、フェンリッヒ」

     突然、扉越しに良く知った声が響いて肩が跳ねた。声の近さから主が扉のすぐ内側に構えているのだと悟る。ドアにぴたり付けていた耳を離し、平然とした声色で反応した。

    「閣下。お呼びでしょうか」
    「お呼びでしょうか、ではない。扉の前に張り付いて一体ご主人様の何を盗み聞きしようというのだ?」

     お見事、とつい口角が上がる。気配は完全に遮断していたつもりだったが、主にはお見通しだったらしい。
     今打つべき最善の一手は謝罪、そして迅速にこの場を去ることだろう。しかしそう判断する脳とは裏腹に別の言葉が口を突いて出る。

    「シモベが懇願しているというのに血を飲んでくださらないものですから……いつか魔力を切らし倒れてしまうのではないかと心配でならないのです。聞き耳ぐらい大目に見てくださいませ」

     恨み節のような言い分をすらすらと舌が紡ぎ出す。皮肉混じりの言い訳に呆れのニュアンスを含んだ重たいため息が聞こえたような気がした。

    「……毎晩勝手に部屋に忍び込んでおいて良く言う」
    「おや、気付いていらっしゃったのですね」
    「あれだけ凝視されれば嫌でも気付く! いつ棺桶に穴が開くか、気が気でならん」

     主の安眠を守るのもシモベの役目。寝込みを襲う不届者がいないか、棺で眠る主人に異常はないか、この部屋を来訪するのが日課となっていたのだが、既に毎夜の不法侵入に気付いていたとはさすがは我が主、安心致しました。しかし、わたくしにも乙女心ならぬシモベ心がございます。……大層気恥ずかしいのでもう少し早く指摘するなり、咎めるなりしていただきたかった。
     扉越しにひとり照れていると、あまり関わりたく無さそうな声色の主に問いかけられる。

    「で、何か言うことは?」
    「ああ、そうでした。今宵も我が主の安眠のためのルーチンを執り行いたく……」
    「それならいつも通り一時間後、黙って部屋に入ってくれば良かっただろう。何か用があって来たのではないのか? まさか聞き耳を立てに来ただけではあるまい」

     いつも相手を言いくるめる己の口が、珍しく閉じる。そうだ、オレは今日、此処に何をしに来た? 自分が今、なすべきことは。

     ごくり、喉を鳴らしてドアノブに手を掛ける。このドアはいつもこんなに重たかっただろうか。控え目に押し開けると、やはりすぐそこにいた主人と目が合う。待っていましたと言わんばかり、赤い瞳がこちらを見上げていた。

    「Let me in. ……でしたか?」
    「いつの間にお前は吸血鬼になったのだ?」

     目の前の人が屈託なく笑う。
     この顔をもう少し見ていたくて、だから、となけなしの勇気を振り絞る。いつも平然と入り込むこの部屋にわざわざ許可を取って立ち入ろうとする理由はもう自分で分かっていた。

    「ヴァルバトーゼ様のことはこのフェンリッヒ、良く良く存じ上げているつもりです。けれど……オレは友としてのあなたのことを、まだ何も知らない」

     つまりはあなたのことを知りたいと、暗に白状すれば胸の辺りが熱くなった。汗ばみ、グローブが微かに湿る。吸血鬼は何のことかときょとんとした顔を見せ、けれど数刻後、少し照れ臭そうに、真っ直ぐにこちらを見据えるものだから気恥ずかしさが伝播する。「ヴァルバトーゼ」という悪魔。この瞳に、かつてオレは代え難い輝きを見出したことを思い出す。

    「フフ、突然どうしたと言うのだ。歓迎しよう、我が友よ。……夜は長い、俺より先に寝てくれるなよ?」

     手始めに枕投げでもしてみるか? 何処からかイワシの抱き枕を取り出し、からかって目尻を上げる目の前の人。彼は友の顔となってオレの腕を掴み、扉の内側へと招き入れた。
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    MOURNING世の中に執事閣下 フェンヴァル ディスガイアの二次創作が増えて欲しい。できればえっちなやつが増えて欲しい。よろしくお願いします。【それは躾か嗜みか】



    この飢えはなんだ、渇きはなんだ。
    どんな魔神を倒しても、どんな報酬を手にしても、何かが足りない。長らくそんな風に感じてきた。
    傭兵として魔界全土を彷徨ったのは、この途方も無い飢餓感を埋めてくれる何かを無意識に捜し求めていたためかもしれないと、今となっては思う。

    そんな記憶の残滓を振り払って、柔い肉に歯を立てる。食い千切って胃に収めることはなくとも、不思議と腹が膨れて行く。飲み込んだ訳でもないのに、聞こえる水音がこの喉を潤して行く。

    あの頃とは違う、確かに満たされて行く感覚にこれは現実だろうかと重い瞼を上げる。そこには俺に組み敷かれるあられもない姿の主人がいて、何処か安堵する。ああ、これは夢泡沫ではなかったと、その存在を確かめるように重ねた手を強く結んだ。

    「も……駄目だフェンリッヒ、おかしく、なる……」
    「ええ、おかしくなってください、閣下」

    甘く囁く低音に、ビクンと跳ねて主人は精を吐き出した。肩で息をするその人の唇は乾いている。乾きを舌で舐めてやり、そのまま噛み付くように唇を重ねた。
    吐精したばかりの下半身に再び指を這わせると、ただそれだけで熱っぽ 4007

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    DOODLEディスガイア4に今更ハマりました。フェンリッヒとヴァルバトーゼ閣下(フェンヴァル?執事閣下?界隈ではどう呼称しているのでしょうか)に気持ちが爆発したため、書き散らしました。【悪魔に愛はあるのか】


    口の中、歯の一本一本を舌でなぞる。舌と舌とを絡ませ、音を立てて吸ってやる。主人を、犯している?まさか。丁寧に、陶器に触れるようぬるり舌を這わせてゆく。舌先が鋭い犬歯にあたり、吸血鬼たる証に触れたようにも思えたが、この牙が人間の血を吸うことはもうないのだろう。その悲しいまでに頑なな意思が自分には変えようのないものだと思うと、歯痒く、虚しかった。

    律儀に瞼を閉じ口付けを受け入れているのは、我が主人、ヴァルバトーゼ様。暴君の名を魔界中に轟かせたそのお方だ。400年前の出来事をきっかけに魔力を失い姿形は少々退行してしまわれたが、誇り高い魂はあの頃のまま、その胸の杭のうちに秘められている。
    そんな主人と、執事として忠誠を誓った俺はいつからか、就寝前に「戯れ」るようになっていた。
    最初は眠る前の挨拶と称して手の甲に口付けを落とす程度のものであったはずだが、なし崩し的に唇と唇が触れ合うところまで漕ぎ着けた。そこまでは、我ながら惚れ惚れするほどのスピード感だったのだが。
    ……その「戯れ」がかれこれ幾月進展しないことには苦笑する他ない。月光の牙とまで呼ばれたこの俺が一体何を 3613

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    Deep Desire【悪魔に愛はあるのか】の後日談として書きました。当社比アダルティーかもしれません。煩悩まみれの内容で上げるかどうか悩むレベルの書き散らしですが、今なら除夜の鐘の音に搔き消えるかなと駆け込みで年末に上げました。お許しください…【後日談】


    「やめ……フェンリッヒ……!」

    閣下との「戯れ」はようやくキスからもう一歩踏み込んだ。

    「腰が揺れていますよ、閣下」
    「そんなことな……いっ」
    胸の頂きを優しく爪で弾いてやると、我慢するような悩ましげな吐息でシーツが握りしめられる。与えられる快感から逃れようと身を捩る姿はいじらしく、つい加虐心が湧き上がってしまう。

    主人と従者。ただそれだけであったはずの俺たちが、少しずつほつれ、結ばれる先を探して今、ベッドの上にいる。地獄に蜘蛛の糸が垂れる、そんな奇跡は起こり得るのだ。
    俺がどれだけこの時を待ち望んでいたことか。恐れながら、閣下、目の前に垂れたこの細糸、掴ませていただきます。

    「閣下は服の上から、がお好きですよね。着ている方がいけない感じがしますか?それとも擦れ方が良いのでしょうか」
    衣服の上から触れると肌と衣服の摩擦が響くらしい。これまで幾度か軽く触れ合ってきたが素肌に直接、よりも着衣のまま身体に触れる方が反応が良い。胸の杭だけはじかに指でなぞって触れて、恍惚に浸る。

    いつも気丈に振る舞うこの人が夜の帳に腰を揺らして快感を逃がそうとしている。その姿はあまりに 2129

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    CAN’T MAKE十字架、聖水、日の光……挙げればきりのない吸血鬼の弱点の話。おまけ程度のヴァルアル要素があります。【吸血鬼様の弱点】



    「吸血鬼って弱点多過ぎない?」
    「ぶち殺すぞ小娘」

    爽やかな朝。こともなげに物騒な会話が繰り広げられる、此処は地獄。魔界の地の底、一画だ。灼熱の溶岩に埋めつくされたこの場所にも朝は降るもので、時空ゲートからはささやかに朝の日が射し込んでいる。

    「十字架、聖水、日の光辺りは定番よね。っていうか聖水って何なのかしら」
    「デスコも、ラスボスとして弱点対策は怠れないのデス!」
    「聞こえなかったか。もう一度言う、ぶち殺すぞアホ共」

    吸血鬼の主人を敬愛する狼男、フェンリッヒがすごみ、指の関節を鳴らしてようやくフーカ、デスコの両名は静かになった。デスコは怯え、涙目で姉の後ろに隠れている。あやしい触手はしなしなと元気がない。ラスボスを名乗るにはまだ修行が足りていないようだ。

    「プリニーもどきの分際で何様だお前は。ヴァル様への不敬罪で追放するぞ」

    地獄にすら居られないとなると、一体何処を彷徨うことになるんだろうなあ?ニタリ笑う狼男の顔には苛立ちの色が滲んでいる。しかし最早馴れたものと、少女は臆せず言い返した。

    「違うってば!むしろ逆よ、逆!私ですら知ってる吸血鬼の弱 3923

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    どんな魔神を倒しても、どんな報酬を手にしても、何かが足りない。長らくそんな風に感じてきた。
    傭兵として魔界全土を彷徨ったのは、この途方も無い飢餓感を埋めてくれる何かを無意識に捜し求めていたためかもしれないと、今となっては思う。

    そんな記憶の残滓を振り払って、柔い肉に歯を立てる。食い千切って胃に収めることはなくとも、不思議と腹が膨れて行く。飲み込んだ訳でもないのに、聞こえる水音がこの喉を潤して行く。

    あの頃とは違う、確かに満たされて行く感覚にこれは現実だろうかと重い瞼を上げる。そこには俺に組み敷かれるあられもない姿の主人がいて、何処か安堵する。ああ、これは夢泡沫ではなかったと、その存在を確かめるように重ねた手を強く結んだ。

    「も……駄目だフェンリッヒ、おかしく、なる……」
    「ええ、おかしくなってください、閣下」

    甘く囁く低音に、ビクンと跳ねて主人は精を吐き出した。肩で息をするその人の唇は乾いている。乾きを舌で舐めてやり、そのまま噛み付くように唇を重ねた。
    吐精したばかりの下半身に再び指を這わせると、ただそれだけで熱っぽ 4007

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    DOODLE【10/4】ヴァルバトーゼ閣下🦇お誕生日おめでとうございます!仲間たちが見たのはルージュの魔法か、それとも。
    104【104】



     人間の一生は短い。百回も歳を重ねれば、その生涯は終焉を迎える。そして魂は転生し、再び廻る。
     一方、悪魔の一生もそう長くはない。いや、人間と比較すれば寿命そのものは圧倒的に長いはずであるのだが、無秩序混沌を極める魔界においてはうっかり殺されたり、死んでしまうことは珍しくない。暗黒まんじゅうを喉に詰まらせ死んでしまうなんていうのが良い例だ。
     悪魔と言えど一年でも二年でも長く生存するというのはやはりめでたいことではある。それだけの強さを持っているか……魔界で生き残る上で最重要とも言える悪運を持っていることの証明に他ならないのだから。

     それ故に、小さい子どもよりむしろ、大人になってからこそ盛大に誕生日パーティーを開く悪魔が魔界には一定数いる。付き合いのある各界魔王たちを豪奢な誕生会にてもてなし、「祝いの品」を贈らせる。贈答品や態度が気に食わなければ首を刎ねるか刎ねられるかの決闘が繰り広げられ……言わば己が力の誇示のため、魔界の大人たちのお誕生会は絢爛豪華に催されるのだ。
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    CAN’T MAKE11/5新月🌑執事閣下🐺🦇【俺の名を、呼んで】今、貴方を否定する。
    「呼んで、俺の名を」の後日談。お時間が許せば前作から是非どうぞ→https://poipiku.com/1651141/5443404.html
    俺の名を、呼んで【俺の名を、呼んで】



     教会には、足音だけが響いている。祭壇の上部、天井近くのステンドグラスから柔い光が射し込んで、聖女の肌の上ではじけた。神の教えを広め、天と民とを繋ごうとする者、聖職者。その足元にも、ささやかな光を受けて影は伸びる。
     しんと凍えそうな静寂の中、彼女はひとり祭壇へと向き合っていた。燭台に火を分け、使い古しの聖書を広げるが、これは決してルーチンなどではない。毎日新しい気持ちで、彼女は祈る。故に天も、祝福を与えるのだろう。穢れない彼女はいつか天使にだってなるかもしれない。真っ直ぐな姿勢にはそんな予感すら覚える眩しさがあった。

     静けさを乱す、木の軋む音。聖女ははたと振り返る。開け放っていた出入口の扉がひとりでに閉まるのを彼女は遠目に見つめた。風のせいだろうかと首を傾げれば、手元で灯したばかりの蝋燭の火が揺らめき、何者かの息によって吹き消える。不可思議な現象に、彼女の動作と思考、双方が同時に止まる。奏者不在のパイプオルガンがゆっくりと讃美歌を奏でればいよいよ不穏な気配が立ち込める。神聖なはずの教会が、邪悪に染まっていく。
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