11/19私の上司は諦めが悪い というわけで、イエティの説得である。朝起きてメフィスト様にふわもこを着せて写真を撮って出発した。
「〜〜〜」
私はイエティと対話を試みるメフィスト様の斜め後ろで両手を上げて害意がないことを示しつつ、たまに翻訳の手伝いをしたり周囲の魔力の流れを探って対話中のイエティ以外の魔獣の動きを確認したりしている。
「〜〜〜〜、よろしく、ね」
「……説得、できました?」
「たぶん」
メフィスト様は汗ビッショリでちょっと息が上がっていた。穏やかな顔を維持しつつ、慣れない言語を魔術で変換しながら、極寒の中長時間やりとりしていたのだ。かく言う私も長時間魔術を使っていたのでちょっとフラフラする。
帰ろうかとイエティ氏に頭を下げると、唸り声が響いた。
「えっと、〜〜〜」
「なんと?」
「対話を試みてくれてありがとってさ」
「……メフィスト様が無事で良かったです」
「今度こそ、帰ろう」
メフィスト様と私は羽は出さずに立ち去る。イエティ氏の長との交渉は上手くいったけど、他のイエティ達が必ずしも好意的かはわからないので刺激しないように配慮している。あとやっぱり吹雪がきつくて上手く羽ばたけないし。
ログハウスに戻り地元の方々に交渉の結果を報告してお仕事おしまい。まだ夕方前だから帰ろうと思えば帰れるけど、ご厚意でもう一晩部屋を貸してくれるそうなので泊まることにする。
「お疲れ様です」
「疲れちゃったからお風呂入ろ♡」
「……用意して参ります」
「背中流し……え、いいの?」
「嫌ならいいです」
「嫌じゃないです。すぐ行こう」
メフィスト様に引っ張られて風呂へ向かう。別に元から嫌なわけではない。ただただ恥ずかしいし、なによりここで良しとしたら帰ってからも当たり前のように風呂まで一緒になるに違いないから拒否し続けたのだ。
とはいえ私も疲れている。ハチャメチャに疲れて震えている。吹雪の中で朝から夕方まで立ちっぱなし腕上げっぱなし、魔術使いっぱなしである。
「……風呂は、一緒に入るので早めに寝かせてくださいね」
「ずいぶん誘うのが上手くなったね♡」
「そ、そんなつもりじゃ!?」
メフィスト様がニコーっと笑った。言い方間違えた。いや、多分どんな言い方でも結果は同じだっただろう。このヒトがやろうと思ったことを諦めたところを、私は見たことがないから。