12/22味の決め手は メフィスト様は深々と息を吐きながら手を合わせた。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
「美味しかった」
「お口に合ってなによりです」
昼ごはんのお皿やカトラリーをワゴンに下げているとメフィスト様はぐったりとテーブルに上半身を投げ出している。ずいぶんお疲れのご様子だ。
昨晩も貴族会だったし、年末進行で忙しいし。一緒にゆっくり食事をするのも久しぶりだ。食事自体は出来るだけ一緒に摂るようにはしているけれど、互いに仕事をしつつ報告をしつつの片手間だったから。
「昨日のごはんは全然おいしくなかった」
「そですね」
昨日のごはんとは貴族会で提供されたメニューである。立食形式であることもあり、まあ、素材は悪くないんだろうけど、手はかかっていない、見た目重視な感じのアレだった。
「だから美味しいごはんを作ってくれて嬉しい」
「そうですか?」
「うん。君が作ったごはんは美味しいから」
「それは……頑張っている甲斐がありました」
最近忙しくて我ながらごはんが手抜き気味というか雑になっていた自覚がある。だから申し訳ない半分、美味しいと言ってもらえて嬉しい。
自分では、どうであれ自分で作ったものなので、良くも悪くも普通でしかない。
「それにさ」
テーブルにぐでっと伏せたまま、メフィスト様は顔だけ上げる。
「君の顔を見て食べるごはんが一番美味しいよ」
「……そういう、ものですか」
「そうなんだよ」
真っ直ぐにそういうことを言われると、めちゃくちゃ恥ずかしい。そろそろワゴンを厨房に運びたいのだけど、どんな顔で下がれば良いのかちっっともわからない。
「あの」
「さて、仕事に戻ろうか」
私の困惑を読み取ってかメフィスト様はすくっと立ち上がった。困惑っていうか、照れたというか。食堂を出るメフィスト様を見送ってから、私もそうだと言えば良かったことに気がついた。
あなたと食べるごはんが一番美味しいと、夜ごはんのときに言おうと決意してワゴンを押した。