1/10貴族宛ての顔を作る さて、新年最初の貴族会である。とはいえ目ぼしい貴族の方々とは既に新年の挨拶で顔を合わせているので、今回は顔見せくらいしかしない。
「俺は! 踊らない!!」
と、出掛けに言い張ったので、
「左様ですか。それであれば上手くお断りください。ご自身で! 軋轢なく!! お断りください!」
と、こちらからも言い含めてある。貴族同士の交流の場で目に余るような喧嘩をしてはいけませんよ? という秘書からの太めの釘だ。
そういうわけなので、メフィスト様は穏やかに踊りの誘いを断っていた。
そもそも貴族会で踊るとはどういうことか。意中の殿方とイチャイチャするためか、もしくは密談のためである。メフィスト様は私以外の悪魔とイチャイチャする気もなければ、秘書である私に聞かせられないような話を聞く気はない、という態度を一貫して取っている。それならそれで良い。良くないのは私に愛人だのなんだの噂が立つことくらいだ。
うるせ〜。うるせえけど、貴族とはそういう生き物なのでスルースキルが重要となる。そこは一応私も貴族の出なので承知している。
承知していないのはメフィスト様で、その手の下世話な噂が耳に入る度にカリカリするのを止めてほしい。先程も私を下品な女と呼ばわった悪魔を威圧していた。放っておきなよ〜。
「帰りたいなあ」
「早いですよ。というか盗聴防止魔術使ってくださいよ」
「もうちょっと君を飾り立ててくれば良かったな」
「……その内、そういうことも必要になるかもしれませんね」
私をかっちり着飾らせて、この娘がいるので他はいらないですというアピールをどこかでした方がいいのかもしれない。そうしたら、メフィスト様への嫁がせたいコールが少し減るかも。
なりふり構わず妾でも良いヒトたちがむしろ増えるかもしれないけど。
とりあえず一通りの挨拶を済ませて、お腹に軽く入れてから場を後にする。やれやれ、メフィスト様がブチ切れずに終わって良かったなあ。
家に向かってパタパタ飛んでいたらメフィスト様がやけに機嫌良さそうに私を覗き込んだ。
「約束、覚えてる?」
「約束ですか?」
なんかしたっけ、約束。
「給仕服」
「あー。明日ですね。承知しました」
言われて思い出した。やたらヒラヒラで裾の短い給仕服を、また着てくれって言われてたんだったわ。……ろくな事にならないんだろうなあ。