2/14もらう分とあげた分は釣り合うだろうか 今日はバレンタインデー! ということで数日前からいくつかのチョコレートのお菓子を用意しておいた。おやつ時にコーヒーと一緒にお出しする予定だ。
昼過ぎ、コーヒーを淹れながら鼻歌まじりでガトーショコラを切り分ける。チョコレートプリンにココアを振って、ビスコッティを添える。生チョコは小さなグラスに盛り付ける。
「よし、完璧」
我ながら美しいデザートプレートができたと思う。あとはメフィスト様にお出しするだけ!!
――というタイミングで玄関の呼び鈴が鳴った。
厨房を出ると玄関から声が聞こえる。
「?」
メフィスト様が出た? 今までそんなことしたことないのに……?
首を傾げつつ玄関に向かうと、大きな箱を抱えたメフィスト様がニコニコしながら立っていた。
「そちらは?」
「これはバレンタインです」
「バレンタイン?」
メフィスト様はニコーっと笑って食堂へ向かうのでついていく。
食堂のテーブルで箱を開けると中には、たくさんの小さな箱が入っていた。
「これはピエール魔ルコリー二、こっちはベル鬼ースイーツ、滅サージュ・ド・ローズ」
「有名所ばかりじゃないですか」
「他にもあるよ。取り寄せできるものは一通り取り寄せたからね」
マジか……。さっき作ったプレートどうしよう。いらなかったかな……。
「うん。バレンタインって大切なヒトにチョコレートを贈る日ってイルマくんに聞いたからね」
メフィスト様の手にチョコレート細工のバラが乗せられている。
「だから、俺の大切な娘にチョコレートを。どうぞ」
「……ありがとう、ございます」
バラを受け取る。メフィスト様が花びらを一枚外して私の口元に差し出す。花びらは甘くて、ほんのりバラの匂いがする。
「おいしい」
「よかった」
「それで?」とメフィスト様が私の顔を覗き込む。
「用意はできた?」
用意? なんの? ポカンと見上げると、メフィスト様は笑顔だけど、目は笑っていなかった。
「なんの、ですか?」
「バレンタイン。俺に用意してくれていたでしょう?」
「用意……しました、けど。なぜ、それを知ってるんですか。……それに、ここに、こんなにたくさんあるのに」
そう答えるとメフィスト様はきょとんとした。
「これは全部君のだよ。全部君のために用意したものだ。俺が食べるためじゃない。俺の分は君が用意してくれているでしょう?」
「……お持ちします」
厨房から先ほど用意したコーヒーとプレートを持っていく。食堂で待つメフィスト様の前に並べると、嬉しそうにするから、どうしていいかわからない。
だって、どうしても山と積まれた高級チョコレートと比べてしまう。
「いただきます」
「どうぞ、召し上がれ」
けどメフィスト様はニコニコと並んだチョコレート菓子を平らげる。
「おいしい」
「そうでしょうか」
「もちろん。だって君が俺のために用意してくれたんだよ。俺だけのために、俺を想ってね。美味しくないわけないでしょ」
「そもそも――」とメフィスト様は続けた。
「普段から君が作ったごはんとおやつばかり食べてるんだ。美味しいことくらいわかってる」
メフィスト様がこちらを向いて腕を広げるので、おずおずと収まる。頭を引き寄せられて唇が重なり、口の中が甘くなる。
「ね、おいしいでしょ」
「……甘いです」
「そりゃそうだ」
メフィスト様は目を細くして笑った。
「この皿には、君から俺へのとっておきの愛が、たっぷりこもってるからね。甘くないわけないだろう?」
見透かしたような言い方に、なにか言い返したいけれど、まったくそのとおりでなにも言えなかった。