2/21何度だって愛してる ある日ののどかな昼時。食器をワゴンに積んでいたら、コーヒーを飲んでいたメフィスト様がパッと顔を上げた。
「愛してるゲームのリベンジがしたい」
「愛してますよ、メフィスト様」
「不意打ち!!」
メフィスト様が口を尖らせて目を逸らした。弱すぎると思う。
ランチョンマットを畳んで、カトラリーを回収する。メフィスト様のコーヒーカップを待とうかどうしようか。
――と、メフィスト様が立ち上がり、机の上に上半身を押し倒された。
「愛してる」
「存じております」
メフィスト様の胸ぐらを掴んで口付ける。離れた瞬間に「わたくしも愛しておりますよ」と、囁く。
「ズルいでしょ、それは」
そう言ってメフィスト様はフラフラと壁にもたれかかった。
「先に仕掛けたのはメフィスト様でいらっしゃいますからね」
「そうなんだけどさ」
起き上がって、空になったコーヒーカップとソーサーを回収する。ガラガラとワゴンを押して厨房に向かうとメフィスト様もついてきた。
「俺ばっかり照れてるの、嫌だ」
「……メフィスト様の本領はそこじゃないですからね」
「うん?」
遂に拗ねてしまったので、私も説明をすることにする。別になんとも思ってないわけではない。
ただ、その言葉がゲームで言っていることだと思っているだけだ。
「ゲームですからね、あくまで」
「それは、そうだけど」
「どちらかと言えば、仕事をされているときや、正装の時に、私はドキドキしたり照れたりするんです」
「……好きだもんね、俺がスーツを着てるの」
「好きです。そもそも、メフィスト様の顔と体が好きなので」
「言い方さあ」
ろくな言い方でないのは承知しているけど、事実なのでそのまま言う。
「メフィスト様の真骨頂は言葉には現れないんですよ」
「……」
メフィスト様が固まってしまったので皿を洗う。洗い終えたらランチョンマットを洗濯機に入れに行って、戻ってワゴンを拭く。
「あのさ」
「はあい」
ワゴンを拭き終えたら、やっとメフィスト様が寄ってきた。
「俺、めちゃくちゃ愛されてるね」
「ええ、愛してますよ」
メフィスト様は「キャパシティオーバー」と呟いて厨房を出ていった。