2/26潤いを移す その朝、先に起きようとしたらメフィスト様がしがみついてくる。いつものことなので、引き剥がして起きつつキスをしたら、めちゃくちゃ痛かった。
「いったあ」
「ん……、どしたの」
思わずつぶやいてしまい、メフィスト様が起きてしまった。
「あ、すいません。その、キスしたら何か痛くて」
「え」
いつもはなかなか起きてこないメフィスト様がパッと起き上がる。
「なんで、どうして」
「そんなに慌てなくても。たぶん、メフィスト様の唇が荒れてるんですね」
メフィスト様は指で自分の唇を触って顔をしかめる。
「――ほんとだ」
「リップクリームってお持ちじゃないですよね。じゃあ、今は私のをお貸ししますね」
ベッドサイドに置いてあるリップクリームを手に取り、メフィスト様の頬に手を添える。
「え、なに」
「リップクリームを塗ります。保湿ですよ」
「や、優しくしてね」
「もちろん」
ゆっくりゆっくり、メフィスト様の唇にリップクリームを塗りこんでいく。唇が濡れたように光って、なかなかえっちな眺めだ。メフィスト様がちょっと怯えた顔をしているから、余計に。
「いかがですか?」
「なんかベタベタする」
まあ、初めてだとそうかもしれない。
メフィスト様は上下の唇を擦り合わせている。
「違和感あるなあ」
「慣れてもらうしかないですね。嫌ならキスできないですけど」
そう言うとメフィスト様は口をへの字にする。
「それ言われちゃうとさー」
「ふふ、意地悪でしたね」
じゃあ、お詫びをしようか。
唇にちょっと多めにリップクリームを塗って、メフィスト様に覆いかぶさる。
くちくちと、音がして唇が擦り合わされる。
けど、すぐに舌が絡んで口端から唾液が漏れる。
「痛くなかった?」
「痛くはなかったですけど、リップクリーム剥がれちゃいました」
「キスされたらさ、嬉しいからついね」
「……やっぱり、普通に塗りますね」
「俺も慣れるようにします」
最後にもう一度キスしてベッドから降りる。
――寝直そうとしているメフィスト様から布団を引き剥がした。