5/29mfst5月30日の昼から夜の話 目の前には豪華な食事。その奥には、笑みを浮かべた貴族の一家。
「メフィスト様を我が家にお招きできるとは、光栄の至りにございます」
「こちらこそ、お招きいただき、ありがとう」
ふくよかな悪魔に穏やかに笑い返す。
相手は「ところで……」と手を揉む。
「よろしければ、娘の話し相手になっていただけませんかな? 13冠のメフィスト様が我が家にお越しになると聞いてから、楽しみにしておりまして」
ワイングラスに手を伸ばし、悩んでいる振りで軽く揺らしてから香りを確かめる。
答えなんて、決まっているけれど。
「あいにく、お嬢さんを楽しませるような話題なんて、持ち合わせてないんだ。ぜひ、同世代の男の子を薦めてあげてほしい」
遠まわしに断るつもりが、つい直球で言ってしまった。
正直、面倒なんだ。俺は若い女の子を侍らせるために13冠になったわけじゃない。求めるのは王で、この娘がそれにふさわしいとは思えなかった。
というか、先日の貴族会でも散々踊ることを勧められたから、知っている。とてもじゃないけど祭り上げる気にはならない、わかりやすい貴族の娘だった。
どこかに、俺の好奇心をくすぐるような面白い女の子がいれば話は別だけど。
単なる好奇心ならイルマくんで十分だ。育てたい王も、イルマくん以外に思いつかない。
性欲のはけ口に面白い女の子がいればとは思うけど、別に積極的に探しているわけでもない。皿の上の魔牛のステーキみたいに、美味しそうな女の子が目の前に転がってこないかな……。
そんな馬鹿なことを考えている間にも、貴族の悪魔は自分の事業や領地の豊かさについて延々と語っている。
……つまり、自分を味方にしておけば間違いないと、俺に思わせるために。
「美味しい食事をごちそうさま」
ひと通り食べ終えて、フォークを置く。
何かを言いかけていた貴族の口が、中途半端な形で固まっている。
「さっき話していた事業のことだけど、北部の山地に住んでいるスノウマンに相談すると、たぶん解決するよ。美味しい食事のお礼だ。では、失礼」
立ち上がって、勝手に屋敷を出る。背後がが騒がしかったが、無視して転送魔術でその場を離れた。
「あー、疲れた」
適当な繁華街に飛んで、最初に目についたバーに入る。
最高に面白くて、美味しい女の子に出会うまで、あと三十分。