私のお兄ちゃんはなんと言うか・・・正直言って嫌な人。薄ら笑いを浮かべて相手に対して嫌みとか小言とかをまくし立てて、相手を不愉快にさせるのが趣味みたいなところが見えるけど、結構正論が混じったりするから反論もしにくいって言う感じ。前に当たり屋に鉢合わせした時には
「ちょっとぶつかっただけでスマホの画面が割れたとかってしょうもない当たり屋の手口だろ?そうやって相手から金巻き上げて自分の懐に納めるんだろ?ちゃんと税金払ってるか?払ってないもんなどうせ確定申告で数十万位戻ってくるんじゃね?いつかバレて差押えとか食らうよ、そしたらホームレスだもんね」
なんて言いながらその人を撃退してたっけ。
でも、そんな事を言った後で
「まあ、僕には関係ない事だけどさ」
なんて付け加えていた。確かに関係無いよね。私達兄妹とは全然無関係だし。前にもバイト先でのクレーム対応で
「髪の毛が入ってたっていつ気づいた?普通ならすぐ気づくよな?もしかして自分の髪の毛引き抜いて入れてないか?入れてるもんな~だって前に見たからさ~あとこの前僕の後輩の女の子にも同じようなことしてくれたらしいじゃん?あの子僕のお気に入りだからやめてくれるかな?」
って凄い笑顔で言い返していた。後輩の子の顔真っ青になってた。さらにお兄ちゃんの知り合いから聞いた話だと大学で
「そんなジャンクフードばっか食べてて大丈夫なのか?栄養偏るぞ?お前の母さん心配するだろうなぁ、それに太ったらどうすんの?母さんの作ったご飯の方が美味しいと思うんだけどなぁ」
って相手の神経逆撫でするようなこと言って怒らせてたりもしたみたい。ちなみにその時のお兄ちゃんのお弁当が栄養バランス整っててとても綺麗だった。
私はお兄ちゃんと一緒に居られる時間が大好きなんだけれど、最近少しだけ不満があったりする。それは私が勉強をしている時にお兄ちゃんが何をしていたのか聞いてみた時のことだった。
「何してるかって?麻里には関係の無いことだろ?そんなことより勉強に時間をかけたらどう?もうじき定期テストだろ?だったら今のうちに少しでも点数上げないとまずいんじゃない?」
って言われた。確かにそうなのだけれども・・・それでも気になるものは仕方がないじゃないか!別に成績が悪くても問題はないけど、出来れば良い方がいいし
「こんな風に無駄なことに時間を使わないで自分のために時間を使ったらどう?僕は暇つぶしになったからいいけどさ」
と言われた時は流石にカチンときてしまった。そして思わず言ってしまったのだ
「お兄ちゃんはいつもそうだよね!そうやって相手にネチネチ嫌味ばかり言って自分は楽をしてるんでしょ!?本当は自分が一番大変なはずなのに!」
と叫んでしまった。するとお兄ちゃんはため息をつきながらこう答えてきた。
「じゃあ聞くけどさ、もし仮に麻里が僕の立場に立って考えてみてごらんよ?もしもだよ?僕が麻里の立場に立ったとしてさ、自分のせいで家族がバラバラになってしまったとしたらどんな気持ちだと思う?きっと辛いよ。寂しくて悲しくて死にたくなって何もかも投げ出したくなるんじゃないかな?でもね、それと同じくらい大切なものがあるんだよ。それが何か分かるかい?」
と言われて私は黙り込んでしまう。分からないわけが無い。だって私の大切な人だもの。でもそれを口に出す勇気が無かった。するとお兄ちゃんが続けて言葉を口にしてきた。
「それはね、残された家族の幸せを願う事なんだよ。たとえ自分自身を犠牲にしてもさ。だから僕は麻里のことをずっと見守っているよ。例え離れていても心の中で繋がっているからさ。今度のお墓参りの時に報告しておくよ。僕の妹はとても優秀で将来が楽しみだってさ」
と微笑みながら言ってきたので恥ずかしくなってしまい顔が熱くなったのを感じた。ああ、やっぱり敵わないなぁと思いながら私も負けじとお返しをするのであった。
「私も頑張るから見ていてよね。絶対にお兄ちゃんの期待に応えられるように」
****
「よくそんなんで生きてられるよね、変な仕事に手を出して家庭を顧みないで妻子をほったらかしにして自分勝手に行動しているような奴なんか死んでしまえばいいのにって思う。僕は両親を亡くした今妹のために生きているようなものだし、アルバイトをこつこつとやりながら掃除洗濯家事をこなしつつ妹の面倒を見てあげてるんだからさ見習いなよ。お前なんか家事も奥さんの手伝いもできずに仕事仕事仕事仕事の毎日で家に帰っても疲れ果てて寝てしまうだけだろうに。そんな生活で子供を育てていけると思っているのかね?無理だよね?だって子供の世話どころか自分の面倒すら見れないもんね。挙げ句の果てには愛想つかされて離婚されて今は僕のところで半ば居候してるっていうのにさ」
ソファーに座ってぐったりとしている男性に兄が後ろからネチネチと文句を言い続けている。その人はそれに対して反論する元気も無いようでただひたすら謝っているだけだ。
「あれ?図星つかれて落ち込んだの?KK?じゃあ僕特製の目玉焼き焼きそば作ってあげるからさ、食べて機嫌直して。ほら出来たよ、食べてみなよ。美味しいからさ。って言うか食べろ。食べないなら僕が食べちゃうぞ?」
そう言いながらも兄は既に食べ始めている。この人の名前はKKと言って刑事をやっていて、お兄ちゃんとは別の仕事の方で知り合ったらしい。
「ねえ、お兄ちゃん、もうやめてあげたら?いくら本当のこととはいえそこまで言わなくてもいいんじゃ無いの?」
「ええ?何言ってんの?これくらい言っておかないと駄目なんだよ。それに僕は事実しか口にしていないからさ」
「だからってそんなに責めなくたって・・・」
「それよりも凛子さんや絵梨佳ちゃんとは仲良くやってるの?たまには連絡入れてあげなきゃだめだよ?特に絵梨佳ちゃんなんて君がいないからって寂しがってるみたいだからさ」
「分かってるよ。最近はスマホでやり取りできるからそれで済ませているけど。そういえばお兄ちゃんは最近どうなの?最近忙しいって聞いているけど」
「まあね。最近色々と厄介なことが起きていてね。あ、そうだ。今日はKKとちょっと出かけてくるけど、夕方までには帰ってくるつもりだからさ、それまでに夕飯の準備とかお願いね」
「分かった。いってらっしゃい。気をつけてね」
「うん、いってきます」
そう言い残し玄関から出て行った。
****
暁人と出会ったのは一年前くらいか、マレビト絡みの案件をやっているときに助けたが開口一番俺にネチネチ嫌味を言ってくるし、何よりも口が悪い。
「あなたはいつもそうやって振る舞ってるけどさ、僕もはいつだって命がけなんだ。それを理解して欲しいんだけどなぁ。そもそもなんであんたらみたいなのに協力して貰わないといけないのか意味不明だよね。適合者とかって言ってたけどそれがどう言うものなのかなぁ?一から全部説明してよ」
といきなり言われた時は流石にカチンときてしまったが、エドを呼んだときはさらにエスカレートした。
「あらかじめ話しておく内容をボイスレコーダーに録音するのはいいけどさ、そんなもの持って歩いていたら怪しさ満点じゃないか。僕が犯罪者だったらどうするつもり?まったく。こんな風に怪しい人間と関わっていると僕まで疑われるじゃないか。勘弁してほしいね。あ、でも僕が捕まったら家族や仲間にに連絡が行くように手配してあげるから安心してね。あ、でも、そうなったら僕が今までやってきたことが無駄になるな。それは困るな。仕方がない、僕が協力している間は手を出さないでおいてあげるよ。でも、もしも家族に手を出したりしたらその時は覚悟しておくことだね。僕だって唯一の妹だけは失いたくないんだ。それじゃあまたね」
と言われた時には呆気に取られてしまい何も言えなかったが、後日改めて話し合いの場を設けて、その際にはお互いに情報交換をして、その後からは協力関係を築くことになったのだ。絵梨佳や凛子に会わせてしばらく経ったときのことは忘れない。暁人がヤンキー座りで凛子にネチネチとして、凛子は土下座をして涙を流して、絵梨佳が暁人の横に立っていた。
「絵梨佳ちゃんねあなたの対応にずーっと辟易してたんだよ。自分も戦いたいのにダメだって言われて、挙句の果てには足手まとい扱いされる始末で。それでも我慢してたんだよ。なのに、そんな態度をとられたら怒るのは当然だよね?そんなことも分からないのかな?本当に馬鹿なの?ねえ、バカなの?バカだよねぇそんなことも知らないで偉そうにして、絵梨佳ちゃんがどれだけ苦労してるかも知らずにさ。少しは反省してくれない?自分の立場を理解してよ。そして今後はもう少し考えて行動してね。僕からの忠告は以上です。あ、あと、絵梨佳ちゃんには自由にさせてあげてよね。あなたの過保護対応のせいでストレスが溜まっているからね。それと凛子さんもあなたもあなたでその対応はどうかと思うけど。もっと絵梨佳ちゃんの気持ちも考えるべきじゃない?あと今度から僕の妹の麻里が遊びに来るのでよろしくお願いしますね」
絵梨佳は泣きながら抱きついてきたし、凛子に至っては号泣していた。絵梨佳はともかく凛子がここまで泣くのは初めて見たかもしれないな。まあ、それだけ暁人の言葉が効いたということだろうな。
****
ある時麻里が般若によって誘拐されてしばらく経ったとき、暁人から連絡が来て見つけたと言うのだがその場所に向かったが、そのとき光景は正直言って般若が哀れだった。
「お前さ、もしかして自分のことを悲劇の主人公か何かと勘違いしていないかな?そういうの迷惑なんだけどさ。だいたいさ、自分の都合の悪いことは他人のせいにするのやめたら?悪いのは全て自分なんだって自覚ある?まあ、無いからそんなこと言えるのかもしれないけどさ」
ワイヤーでグルグル巻きにした般若にネチネチと嫌味を言い続ける。
「そもそもさ、なんで自分が特別だと思い込んでるの?そんなわけが無いじゃん。ああいうのってたまたま運が良かっただけなやつ。それにさ、君は結局何一つ自分で成し遂げたことは無いし、ただの被害者面してるサイコパスキ○ガイ野郎だからさ、マジで消えて欲しいんだけど。正直邪魔だし目障りなんだよね。君みたいな奴がいるとさ、僕まで同類だと思われちゃうの。分かる?そこら辺を僕はね、君のことなんてどうでもいいんだけどさ、周りの人間が巻き込まれる可能性があるからねぇ」
般若の頭をグリグリと踏みつけている。
「そういえば、あの時、何で僕が怒ってたか分かってなかったよね。あれさ、僕の妹に危害を加えたからって言ったよね?それもあるんだけどさ、一番はね、君が僕の大切な妹を侮辱したからなんだよ。あんな風に言っていいと思ってんの?僕はね、家族や仲間を大事に思っているし、それを傷つける人間は絶対に許さないんだ。たとえそれがどんな人間であってもね。もう二度と僕の前で家族を悪く言うな。分かった?てか死んで欲しい。だからさ、大人しくしていてくれる?そうすればすぐに楽になれて死んだ奥さんのところに行けるんだしさ。てかさ、僕が殺してあげた方がいいかなぁ。でも、それはそれで面倒くさいんだよな。とりあえず、しばらくはこのままで我慢してね。そのうちに殺す方法を考えることにするよ」
「はい・・・分かりました。ごめんなさい。申し訳ありませんでした。すみません。私が間違っていました。全て私の責任です。本当にすいませんでした。私が悪いんです。全部私がいけないんです」
完全に心が折れてしまったようだ。まあ、こうなるまで暁人は徹底的にネチネチと責め続けたから、トラウマを植え付けられたのかもしれないな。