「絵梨佳!どこ行ってたのよ!!」
絵梨佳はアジトに戻るなり凛子やKKに心配されていた。メモだけを置いていき、音信不通になっていたから当然だ。
「ちょっと確認したいことがあるって書いたけど」
「はぁ!?あんたね!」
「大丈夫だよ、ちゃんと収穫はあったから」
「じゃあ教えなさいよ!」
「・・・お父さんの所に暁人さんがいるのが本当だった、嘘を言ってなかった」
「は?」
絵梨佳の言葉の意味を理解するのには少し時間がかかった。
「なっ・・・」
「マジかよ・・・下手すりゃ監禁されて変な実験に使われてたかもしれねぇ」
「いや、それが・・・」
「どうした?まさか・・・!?」
絵梨佳は言葉に詰まりながら話し出す。
「・・・ううん、そういうことはされなかったみたいだけど」
「何されたんだ!?」
「えっと・・・その・・・」
「言いなさい!!場合によっては許さないわよ!!」
「実は・・・暁人さん、お父さんと一緒に暮らしてたみたいで。お母さんが生きていたときに住んでた家にいるみたいで、何事もなかったみたいなんだけど・・・」
「・・・は?」
「つまり、暁人はアイツに保護されているってか?」
「多分そうだと思う。服装とか整えられてたし、髪の毛も綺麗で、顔色もよくなってた」
「それはそれでムカつくな」
「なんにせよ無事ならよかったんじゃないのか?」
「まぁそうなるかな」
絵梨佳の報告を聞き、一同は安堵する。しかしそれとは別に、KKはある疑問を感じていた。
(そもそもアイツは何の目的で暁人を匿っているんだ?)
今までの行動を考えると、暁人が生きているという情報を得た時点で殺しているはずだ。それをしなかった理由とは一体何なのか。
「はぁ・・・わかんねぇ」
ため息をついた途端、不意に窓ガラスが割れて何かが飛んできた。
「伏せろ!!」
俺は咄嵯に反応して避けたが、その物体は壁に刺さっていた。それは数本のナイフだった。
「何だよいきなり!?」
「敵襲か!?」
「わからない!」
突然の出来事に全員が混乱していた。するとベランダの方に見覚えのある長髪で小柄な少年の姿があった。
「チッ、外したか・・・」
「お前は・・・」
「久しぶりだな、KK・・・」
そこにいたのは紛れもなく暁人だった。先端からエーテルの結晶が立ちのぼる細い鉄パイプを片手に髪をポニーテールにして鋭い目付きでこちらを見つめていた。
「暁人くん!?」
「テメェ何やってんだ!?」
「お兄ちゃん!?」
「暁人さん!!」
全員驚愕しているが、暁人の表情は全く変わらない。
「さっきまで盗み聞きしてたけど話しやがったな絵梨佳!」
爪を噛んでイラついている様子だった。どうやら聞かれてしまったらしい。
「お兄ちゃん・・・」
「黙れ!!誰が喋っていいって言った!!?」
「ごっ、ごめっ・・・」
暁人は怒りの形相で怒鳴ると、麻里は怯えて縮こまった。
「暁人、何でここにいるんだ?」
「決まってんだろ、テメェら殺す為だ」
「はぁ!?俺達がなにしたって言うんだよ!」
「ケッ!あんな扱いさせたくせにどの口が言ってんだよ。オレがどんだけ苦しかったと思ってんだ?なあオイ、答えろよ!!」
暁人が鉄パイプを振り上げた途端、俺は暁人の胸ぐらを掴んでそのままベランダから飛び出した。勢いのまま地面に叩きつけると、暁人は一瞬呼吸困難に陥った。
「お前が何を考えてるか知らんが、俺達は別に悪いことはしていない」
「ハッ、よくもまあそんなことが言えるねぇ。俺がどんだけ我慢したと思ってるんだよ」
「知るか。それに俺達の行動に悪意はない。ただ純粋に仲間として接しようとしただけだ」
「それが気に食わないんだろうがぁ!!!!」
暁人がそう叫ぶと、鉄パイプを投げつけてきた。
「だからなんなんだよ!お前が何に怒ってるのか全然わかんねえよ!」
「あーそうだな。じゃあお前は俺がどんな気持ちだったかわかるか?毎日毎日子供みたいに扱われてたけどなぁ、それでもなお笑顔を絶やさなかった。だけどな俺は限界だったんだよ!!」
「お前・・・」
そこまで悩んでいたとは思わなかった。確かにあれだけの扱いを受けて平然としている方がおかしい。その上高校時代にいじめられたことも合間って、自分の感情を押し殺して生活するのは苦痛でしかないだろう。だがそれを俺達にぶつけられても困る。すると麻里が割って入ってきた。そして思いっきり暁人を殴り飛ばした。
「お兄ちゃんのバカ!!」
「痛ぇな・・・」
「どうして私に相談してくれなかったの!?お兄ちゃんは私のたった一人の家族なのに!!そんなに信用できなかったの!?」
「あぁ・・・そういうことか。悪ぃ・・・でも仕方ないだろ?お前はいつも自分の感情を優先して動くから、こんな話しても無駄だとばかり思ってたんだよ・・・」
「それで全部抱え込んで辛くなるなんて馬鹿じゃないの!?私はお兄ちゃんの妹なんだよ!?お兄ちゃんの力になりたいと思うし助けたいって思うよ!!」
「麻里・・・テメェ俺にあんな格好させといてよくそんな事が言えたもんだな・・・」
「うぅ・・・それは・・・ごめんなさい・・・」
「今更謝っても無駄なんだよ!!」
暁人はそう吐き捨てると、上着を全開にして中からナイフを取り出して麻里に投げつけた。
「きゃああああ!!!」
「麻里!!」
俺は咄嵯に動いて突き飛ばして庇ったが、脇腹を掠めて出血してしまった。
「ぐっ・・・」
俺は怒りで我を忘れていた。傷の痛みなど忘れて暁人に掴みかかった。間合いに入られて暁人も少し焦っているようだった。
「っ!やばっ!」
「よそ見してんじゃねえ!!」
「くっ!」
拳を叩き込むと、隙を逃さず追撃を加えた。
「この野郎!!」
鉄パイプでガードするのに精一杯で反撃する余裕がないようだ。
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(そんな!俺が負ける!?嫌だ!嫌だよ!負けたら僕は、また・・・)
暁人の頭の中にある出来事がフラッシュバックしていた。
(舐められる、軽んじられる、標的にされる、あの頃のように。嫌だ・・・もうあんな思いはしたくない!!)
暁人がそう思った瞬間、叫びながら鉄パイプを投げつけた。
「俺をいじめるなぁあああああ!」
KKは思わず怯んでしまったが、すぐに体勢を整えた。
「僕を、いじめないで・・・」
暁人は膝から崩れ落ちて泣きながら呟いていた。