さよなら、俺の(2)そう言って、席を立つ暁人さんに母はでは、玄関までと言って、玄関へ案内する。
俺はもうちょっと、暁人さんと話していたくて、コンビニ行くので途中まで一緒に行くことにする。丁度和歌コーラが切れてたのだった。
「旦那のこと、ありがとうございます。どうか、どうか元気で…」
「ありがとうございます。」
暁人さんはぺこりと頭を下げ、歩き始めた。
自分も途中のコンビニまで行くことを母に伝えて、暁人さんの隣まで走って並ぶ。
「コンビニまで送ります。」
「ありがとう。」
それから、また少し色んなことを話していると、急にピタリと暁人さんが歩みを止める。
どうかしたの?と聞こうとすると、暁人さんが人差し指立てて口元に持ってく。
「静かに…。いる…どこだ?」
「あ…暁人さん?…あれ?」
遠くの方の鳥居の近くに、傘を持ったサラリーマンがふらふらと立っている。おかしいな、今日の天気は1日通して晴れだと聞いていたのに。
それとも日傘だろうか、とりあえずふらふらしてるから声をかけに行こうとしたその時、
そのサラリーマンがこちらを向いた。
その顔はのっぺらでーーーー
「え…?」
「ーーくん!!くそっ!飲み込まれる!」
瞬間、景色がぐるんと変わって、交差点だろうか。その真ん中に俺と暁人さんは立っている。
それを取り囲むかのように、首のない制服姿の人や、先程見たサラリーマン、更には多分OLらしき人まで、ざっと10人いるであろう。
「な、なんだコイツらっ!」
「コイツらはマレビトって言って怪異のもの…とりあえず攻撃してくるから、絶対に僕から離れないで。」
そう言って暁人さんは背中に背負っていた物を取り出した。弓矢だ。
それをマレビトと言うものに向けて放つと、綺麗に頭にヒットし、まず一体消えていった。
そこからは暁人さんの独壇場だ。
弓矢を飛ばしたかと思うと次は右手の人差し指と中指を立て、風、水、火をどんどん出しては、攻撃していく。そして相手がボロボロになって胸のところが光ると、次に金色に光る糸を相手に放ち、それを壊して消す。圧巻だった。
何より、先程までのふわりとした笑みとは一転して、真剣な顔つきがとてもかっこいい。
俺に敵1人近づけないように立ち回る。
動く度に、細く見える彼には靱やかな筋肉が付いている事を実感させられる。
同じ男でも惚れてしまう。これは完全なる一目惚れだ。敵の陣地のど真ん中と言うのも忘れて、ぼーと見蕩れてしまう。
「ふぅ…これで全部かな。」
そう呟いた為、周りを見るとあんなに居たマレビト達は姿を消していた。
無事?と聞かれたので頷くと、またふわりと笑って良かったと暁人さんは呟く。
するとまた、来た時のように視界が変わり、僕達は鳥居の前に立っていた。時間を見ると2.3分くらいしか経っていないだろう。
なるほど、時の流れは違うらしい。
暁人さんは鳥居を見ると、右の指で宙をなぞり、その後両手を鳥居の前でバンっと出す。
「何したの?」
「鳥居が穢れてたから浄化したんだ。これでもう大丈夫だよ。」
暁人さん曰く、鳥居が穢れるとマレビトが集まって来てしまうらしい。暁人さんはそっちの関係の人だったのか…。
でも、そこからどうやって父と出会ったのだろうか。
「…君は見ちゃったから、もう教えちゃうね。これは君のお父さんから習ったんだよ。」
「え…?これを?」
「そう。マレビトのことや、戦い方、印の結び方まで、全部習った。君のお父さんは警察官の仕事だけじゃなくて、この仕事もしてた。だから、帰れなかったんだ。」
「…そうだったんだね。」
「…だから、お父さんを恨まないでやってくれ、とは言わないけど、家族を想っていたことだけは知っててね。」
そう言って暁人さんは静かに笑って僕の顔を見る。その目にはまた、悲しげに俺を…いや、俺ではなく、俺を通して父を見ている。
きっと暁人さんは…。
そう思うと胸がきゅうっと締め付けられる。
これは多分失恋の痛みだろう。
俺は、告白も出来ずに彼に失恋してしまった。たった一瞬の恋だった。
「コンビニ寄るんでしょ?行こっか。」
「…うん。」
暁人さんは父のことを考えてると思われてるみたいで、重く考えないで。と言ってくれたが、失恋が確定した今、しょんぼりと返事することしか出来なかった。暁人さんが背中を摩ってくれるので、今は甘えていようと、そのままでいることにした。
そして、コンビニで別れたあと、俺は無事に和歌コーラを購入して、帰路に着く。
鳥居の前を通ると、何の変哲もない神社が見えるだけだった。
確か、ここは恋愛祈願でたまに人が訪れるところだったな…。
とりあえず、お賽銭箱の前まで来た俺は、五円玉を投げて、祈る。俺の恋は成就しなかったけど、暁人さんにまた良い人が見つかりますように。ついでに俺も新しい恋が出来ますようにと。
すると、なにか綺麗な音が鳴った気がしたが、周りを見回しても何も無い。気のせいかと、神社の階段を降りていく。
んー、とひとつ背伸びをして、気合いを入れる。とりあえず、帰ったら先程あったことを母に言おう。信じて貰えなくてもいいから、暁人さんが伝えたかった、父の本当の素晴らしい所を俺が母に伝える。そうしたら、もうちょっと父の想いは報われるだろう。
あと、失恋したことも伝えよう。
きっと一緒になって悲しんでくれるだろうから。きっと明日には悲しくはない。
ありがとう、暁人さん。
そしてさよなら、俺の初恋。
また逢う日まで。