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    ムー(金魚の人)

    @kingyo_no_hito
    SS生産屋

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💛 💜 🌜 🍶
    POIPOI 61

    同道後、1年くらい
    実家に帰らせていただきますと書き置きを残して消えたチェズレイを追ってヴィンウェイに来たけど見つからず途方に暮れたモクマさん
    実はミカグラ島の海岸にいたチェズレイ
    のモクチェズ(まだ付き合ってない)
    だいぶ書き散らかしてる。
    初夜の前に結婚させな!

    #モクチェズ
    moctez

    ヴィンウェイ国 とある酒場 店内――
    身が痺れるような真冬の寒さをアルコールで癒そうと度数の高いお酒が次々と注文される。
    注文を受け取った店員が大きな声で復唱するのをモクマはぼうと眺めた。
    目の前にはウイスキーロックが注がれている。
    手慰めにグラスを揺らした。琥珀色の液体が波打つ。
    ガタリと、隣の席が引かれる。
    あ、そこは相棒の席だから――と言いかけて口をつぐんだ。
    モクマの相棒はこの店には居ない。いや、この国にもいない――
    「おーおー、今日もダメだったのか?おっさん」
    モクマの隣に座った筋肉質の男が項垂れるモクマへ声をかけた。
    既に見知った間柄だ。この店に何度か通ううちに仲良くなった。人生相談もした仲だった。
    だから、モクマは緊張を解いて唇を尖らせた。
    「もう途方にくれちゃう……。俺、あいつのこと何も知らないなあって」
    「ははは」
    快活な笑い声に怒る気力も湧かなかった。
    「その人、知り合いですか?」
    筋肉質の男の脇からぴょこりと眼鏡の若い男が顔を出した。初めて見る青年だ。どうやら筋肉質の男の後輩らしい。
    「飲み仲間だよ。実家に帰るって書き置き残したヤツを探してるんだと」
    先輩のざっくりとした説明に後輩くんが少し考え込んでから、ふと口に出す。
    「奥さんに逃げられたんですか?」
    奥さんーーなんて呼べる穏やかな関係じゃないけれど、否定するのも面倒でモクマは適当に相槌を打った。
    「うん、俺がふがいないせいかなあ」
    モクマは胸ポケットから折り畳まれた紙片を取り出す。何度も取り出して開かれたメモ用紙はしわくちゃだった。
    『実家に帰らせていただきます』
    あいつらしい――チェズレイらしい几帳面な細い字が真っ直ぐ並んでいる。
    ある日、ショーから拠点としていたホテルに戻ってきたモクマはテーブルにこの書き置きが残されているのを見つけた。
    最初はいたずらか何かだと思った。だけど、翌日になっても戻ってこない、電話をかけても繋がらない様子に、モクマはいよいよ拠点を飛び出していた。
    モクマが知りうる限り、チェズレイの実家というのは「ヴィンウェイ」という国にある、ことしか分からない。
    正確な住所も、そもそも生家が残っているのかさえ分からない。
    地道な捜査を求められた。
    今くだを巻いているこの酒場も捜査場所のひとつだった。
    ヴィンウェイに来て3日。
    チェズレイの生家がある住所は分かったが、そこに家屋はなかった。ただ真っ白な雪原が途方もなく続いているだけだった。
    チェズレイが頭を張っていたマフィアグループ――ニコルズファミリーはもう十年以上前に壊滅していて、当時の構成員も皆死んでいる。正確にいえば、チェズレイに成り済ましたファントムによって壊滅させられた。
    この国では「チェズレイ・ニコルズ」という名は史人扱いだ。
    誰も彼も「彼は十年も前に死んだ」と信じている。生きたチェズレイを知る者はモクマ以外誰もいない。
    手詰まりだった。
    「タブレットに連絡は?」
    眼鏡の若い男の問いにモクマは力無く首を横に振った。
    「実は家に戻ってるんじゃ」
    「うーん、俺ら国を跨ぐショーマンで、ずっと各地のホテルを転々としててね。居なくなる最後のホテルには、あいつが戻ったら教えて欲しいと頼んであるんだ。さっき確認したけど戻って来てはないってさ」
    「とっくに愛想を尽かしたんだろ」
    筋肉質の男が中ジョッキに溢れるほど注がれた樽ビールを一息で煽って、言った。
    「今ごろ、別の男でも見つけて浮気してるんだろうさ。そんな酷いヤツのこと忘れて自由を楽しんだほうが良いとも思うがね?」
    情念深いあいつが浮気なんて、と食ってかかる寸前で、脳裏にチェズレイと見た月が浮かぶ。
    ――浮気をしているようでおぞましくってね
    マイカの里でモクマを覚醒させたチェズレイが明かした胸の内。
    (そうだ、俺があいつに出会った当初、しつこく腹を探られたのだって、あいつに言わせれば『浮気』だったんだ)
    焦がれてやまない仇であるファントムにどこか似ているからと、そんな理由でファントムに執心していたチェズレイはモクマに付きまとった。
    あの浮気がなかったら、モクマは守り手として覚醒することなく、今も死んだように生き恥を晒していただろう。
    チェズレイには返しきれない恩義がある。
    だけども、チェズレイの気が変わったら?モクマに出会った時みたいに、別の誰かに惹かれて『浮気』していたとしたら?
    良くない考えを打ち消すように首を左右に揺らす。
    チェズレイの向ける情念の相手は自分に間違いないはずだ。
    「……あいつとは一生ものの約束、したんだ」
    モクマは小指をじっと見つめた。
    DISCARD壊滅のあと、チェズレイと指切りをした。共に同じ道を歩むことをこの小指に誓った。
    チェズレイはモクマ以外の下衆を殺さない。
    モクマはチェズレイがモクマ以外に手を下さないかそばで見張る。
    物騒な契約だったが、お互いが生きている限り有効なそれは、一生共にいることを誓った淡い約束ごとだった。
    「結婚までした相手に浮気されたら悲しいですね。おじさんはこんなに必死にお相手のこと探してるのに」
    同情から目を潤ませる眼鏡の青年の言葉にハッとする。
    「けっこん、か……」
    口内で転がす。
    かつてのモクマには縁遠い言葉だった。
    自身の生すら重荷なのに、他人の生まで背負える気がしなかった。過去のモクマであれば。
    「お相手のこと、愛してるんですよね」
    眼鏡の青年が純粋な目で問いかける。
    「そうさねえ……」
    モクマは肩をすくめて薄く笑った。眼鏡の青年や筋肉質の男には、浮気されても相手を恋しく思う哀れな男の苦笑いみたいに映っただろう。
    チェズレイのことをどう思っているのか。
    それは、モクマがこのヴィンウェイに来てからずっと自問自答してきたことだった。
    大事な相棒、同じ道を歩む仲間、一蓮托生を誓った友、それから愛すべき人。
    どれもこれも正解のようで、だけどもピタリとピースが嵌まる感じでもない。
    モクマはずっと煩悶していた。
    何故自分はこんな必死にチェズレイのことを探し回っているのか。
    いくら言葉を並び立てても、その全てがモクマの理性によって真っ白な白紙に戻されてしまう。
    足跡が直ぐに吹雪で掻き消される、まっさらな雪原みたいだ。

    ピリリ……
    着信を告げるモクマのタブレットにモクマだけでなく、筋肉質の男も眼鏡の男もバーの店員すら固唾を飲んだ。
    モクマがタブレットに表示された名前を確認する。
    「ナデシコちゃん……」
    「お、奥さんから?!」
    女性名を聞いて沸き立つ青年に「違う違う」と弱く笑った。
    息を深く吸う。いつもの軽薄な男の仮面をかぶって、モクマは通話ボタンを押した。
    「もしもし?久しぶりだね、もうおじさんのこと、恋しくなっちゃった?」
    淀みないモクマの軽口を受けて、電話口の相手から軽くびっくりしたような息遣いが零れる。
    「……久しいな、モクマ。元気そうで何よりだ」
    元気じゃないと弱音を吐くのは簡単だったけど、ナデシコの前ではプライドが邪魔をする。
    「へへ、それでおじさんに何か用かい?」
    「やはりお前たち、なにかあったのか?」
    お前「たち」――複数形で括られて、モクマの心臓がざわりと騒ぐ。
    「なんのことだい? 」
    僅かにモクマの声が硬くなったのをナデシコが聞き漏らすはずもなく。
    重いため息がモクマの耳を撫でた。
    「道理で……」
    続く言葉を耳にした途端、モクマはバーから矢のごとく飛び出していた。

    『チェズレイがな、ミカグラ島に来ているんだ』



    ミカグラ島 海岸――
    祭り屋台もメテオサラウンドもない、まっさらな砂浜の上にひとつの影が伸びている。
    オレンジ色の夕陽に焼かれて、すらりとした長身の男が一人佇んでいた。
    「チェズレイ!」
    モクマの呼び声に長身の男が振り返る。
    モクマの記憶どおりの優雅な笑みを称えて、チェズレイはモクマへ向き直っていた。
    「お久しぶりです、モクマさん」
    「どうして。なんで黙ってミカグラ島に」
    「おや、書き置きは残していきましたよ。実家に帰らせていただきます、と」
    呑気なチェズレイの声にモクマが苛立つ。
    「実家じゃないでしょ、ここは。おじさん、どんだけ探したと思って」
    「いいえ、新生チェズレイ・ニコルズの実家はここですよ」
    ファントムへの復讐心に濁っていた「チェズレイ・ニコルズ」はミカグラ島で死に、そして生まれ変わりました。
    だから、ミカグラ島は新たなチェズレイの生家だと真顔で宣う。
    モクマは相棒の突飛な考えに驚いてしまって、ここに至るまでに用意していた責める言葉も言えなかった。
    呆れられたと思ったのかチェズレイが常より早口で二の句を次ぐ。
    「ここで、あなたと指切りした日が遠い昔のようです」
    チェズレイの目は静かに波間を見つめていた。
    「……もう1年か」
    決戦の地だったメテオフロートは半壊の状態で取り残されたままだった。
    「正確には11カ月と7日、ですがね」
    「そこはほぼ1年カウントでいいじゃないのよ」
    ざざーん、と波が退いては戻る。1往復したのを眺めた後で、モクマは再び問いかけた。
    「おじさんのこと、嫌になったかい?」
    軽口のつもりで出した言葉は、意外と必死な響きを以て空気を震わせた。
    驚きに丸まった目がモクマに刺さる。
    「なぜ……?」
    「急に実家に帰らせていただきますなんて、三行半突き付けられたのかと思うだろ」
    「ミクダリハン……マイカの言葉で意味は『離縁状』でしたか。フ……私と契約しておいて今更縁が切れるとお思いで?」
    静かな波打ち際に落ちる言葉で、モクマは決意を固めた。
    「チェズレイ、約束の条約さ、いっこ追加して構わないかい?」
    チェズレイから持ちかけられた同道の約束に従うに当たって、モクマが持ち出した条約はみっつだった。
    ・ルークたち表のヒーローの邪魔をしない
    ・ニンジャジャンショーを続けても構わない
    ・モクマの晩酌に時々付き合う
    どれもチェズレイは良しとした。
    これに、今日、もうひとつ付け足したい。
    モクマの申し出にチェズレイが聖母のような微笑みで返す。
    「どうぞ」
    「えーと、できればノーとは言ってほしくはないんだが、簡単にイエスとも言ってほしくなくてだね」
    言い出しておきながらゴニョゴニョと続きを渋るモクマの様子にチェズレイは眉をしかめた。
    「煮えきりませんねェ。色んなものを捨ててきたあなたが望むものですから。私はそれが何であれ、掬いとってみせたい」
    あまりの意気込みに一瞬尻込みしたが、逆にチャンスだとモクマは思った。
    相手が勝手に逃げ場を無くしている今ならば。
    「じゃあ、言うね……」
    モクマの緊張が伝わったのか、チェズレイが小さく息をのむ。

    「――結婚しよう、チェズレイ」

    ぱちくりと紫色の目が瞬く。
    それからじんわりと温かな波がチェズレイの瞳に押し寄せた。
    「ふ、ふふ、なんと、陳腐な……」
    「ごめん、これしか思い付かなかったや」
    プロポーズの言葉は何でも良かった。死ぬまで一緒にいられる約束を、保証を得られるのなら。
    いや、「死ぬまで」じゃ生ぬるい。
    「ずっと、どっちかが死んでも一緒にいられる約束が欲しかった。今までの約束じゃ、どちらかが死んだら契約は終了――片方は枷を無くして自由だ。思うも思わざるも」
    たとえばモクマが死んだとして、チェズレイがモクマを偲ぶ約束はない。切り捨てられたら最後だ。
    モクマ亡き後のチェズレイは気兼ねなく下衆を生死問わない方法で自由に処理できるし、新たな相棒を見繕ったっていい。
    だけど、モクマはそれが嫌だと思った。
    チェズレイには自分の死後も白い手を下衆の血で塗らしてほしくないし、隣に自分以外の人間が立っているのは想像したくもない。
    美しい相棒の心までも自分に縛り付ける重りが欲しかった。
    モクマの吐露にチェズレイはふうと軽いため息を吐き出す。呆れからというよりも自身を落ち着かせるための呼吸という感じだった。
    「あなたね……、私を未亡人にしたいんですか?モクマさんが死んでも他の人間になびくことなく、毎日あなたを想って泣く私を見たいと?」
    「そこまでは言って、……いや、そうかもしれん」
    毎日寂しさに枕を濡らす青年の姿を想像して、その残酷なまでの美しさに興奮した。
    「ふ、下衆ですねェ」
    「……否定できんよ」
    自分の中にこんな重い「濁り」――執着心、独占欲が隠れてるなんて知らなかった。
    答えは?と声に出して聞く勇気もなく、モクマは目の色だけでお伺いを立てる。
    読心術を心得た相手には正しく伝わったようだった。
    「充分だったんです、あの時は。あの指切りで私は充分幸せに満たされていた」
    だけどね、とチェズレイが続ける。
    いたいけな少女が母親にひみつだよと好きな男の子の名を囁くみたいに優しい声が言う。
    「今、足りなくなりました」
    チェズレイが白手袋を脱ぎとり、モクマへ拳を差し出す。その小指がぴょこりと顔をもたげる。
    白い指先は微かに震えていた。
    「新たな約束を結ぶにあたって、指切りをしましょうか」
    なんだか懐かしいシチュエーションに、モクマはふっと笑う。袴で汗を拭った手のひらを持ち上げた。
    「いいけどもさ、おじさんの手、お前さんを必死に探し回ったから汗と垢だらけだよ」
    「…………」
    「洗ってからにするかい?」
    「冗談ですよ」
    チェズレイの右小指がモクマのものにそっと絡まれる。
    モクマがぎゅっと指を曲げると同じ力だけチェズレイの小指が曲がり、ふたりぶんの熱が溶け合う。
    見たことない顔してる、と言いかけてモクマは止めた。もうすでに一度見た顔だ。
    だけども、問わずにはいられない。
    「お前それ、どういう感情?」
    「……おわかりでしょうに」
    ほろりと表情を崩してチェズレイが笑った。
    「あまりの汚ならしさに涙が出そうなんですよ」
    「好きだよ、チェズレイ」
    脳内で留めておこうとした想いがするっと舌に乗る。
    音に出すとモクマの心の形にしっくり馴染んだ。
    そう、好きなんだ。モクマはチェズレイのことがこの世で一等大事なのだ。
    チェズレイの瞳の防波堤はすでに決壊していた。綺麗な鼻筋を透明な雫が走っていく。夕陽に照らされてキラキラと輝く様は流星のようだった。
    「私も、モクマさんを愛しています」
    「……キスでも、しちゃう?」
    おどけた口調で、指切りよりももっと進んだ、愛の形を提示してみる。
    「ふふ、そんなことをしたら最後、あなた本当に逃げられませんよ」
    なんだかこのやり取りもデジャブを感じる。
    ミカグラの海岸から今度は飛行船のハッチへ。脳裏のメモリーが巻き戻る。
    チェズレイも同じことを考えていたのか、頬が弛むのを止められないようだ。
    「あの時は指切りし損ねてしまって、あとあと酷く後悔したものですから――」
    後悔した時のことを掘り下げたい気持ちを堪えて、モクマはチェズレイの言葉の続きを待つ。

    「しましょうか、結婚」

    チェズレイが身を屈める。
    熱く震える吐息がモクマに春を告げる。

    ふたつの影がひとつに重なった――




    おまけという蛇足

    「ところで、チェズレイ。なんで俺に黙ってミカグラ島に来たの?」
    「あなたも大概しつこいですねェ……」
    「あ、身体しんどい?加減出来なくてすまん」
    「まァ、そう仕向けたのは私ですしね。何度こちらが押してもかわされてきたのに、こちらから引いた途端、あんな必死になるなんて。一足飛びに結婚を持ち出すとは思いませんでしたよ」
    「もしかして、ずっと我慢させてた?」
    「……我慢してたのはあなたの方でしょう。私は、私の濁りが、情念が重すぎるばかりに受け取っていただけないだろうと思って。整理をつけるためにここへ」
    「不安にさせてごめんね?でも、書きおきだけ残して消えるお前さんも悪いからね?」
    「はい。昨晩、充分おしおきされましたので、もうしません」
    「初夜をおしおきとか言わないでえ!」
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