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    ムー(金魚の人)

    @kingyo_no_hito
    SS生産屋

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    POIPOI 61

    モクチェズワンライ0109「おやつ」で参加です。
    パンケーキを一緒に食べるふたり。甘ーいジャムをたっぷり付けて

    #モクチェズ
    moctez

    「ふぃ〜〜。疲れたあ……って、ん?」
    セーフハウスの玄関に立って、被った雪を払い落としていたモクマの鼻はほのかに甘い匂いが漂っているのを感じ取った。鼻をすんすん鳴らしながら匂いの元を辿る。足は真っ直ぐキッチンに向かった。
    「おや、モクマさん。雪かきお疲れ様でした。丁度いまパンケーキが焼けたところですので、ティータイムとしませんか?」
    「おお〜、いいね!」
    丸皿の上にはミニサイズのパンケーキが数枚扇形に並べられていた。フライパンから甘いバターの香りが立ち、満月のような薄黄色の円が次々膨らんでいく。
    モクマの心も浮き足立ち、跳ぶように洗面所へ走り手を洗う。
    リビングへ戻ってきた時にはテーブルの上に二人分の丸皿が乗っていた。皿にはミニパンケーキが行儀よく並び、皿の端っこにブルーベリージャムとクリームチーズが盛られていた。その脇にコーヒーカップが並ぶ。どちらもカフェ・オ・レだ。
    時刻は午後三時。昼下り、ひと仕事を終えた身体が休息を取るに丁度良いタイミング。セーフハウス周辺に積もった雪を除雪するのに体力を使った後のパンケーキは有り難い。チェズレイが用意していなければモクマ自身がキッチンに立って何かおやつを見繕うところだった。
    「しかし、お前さんがおやつなんて珍しいねえ」
    モクマが問うと、チェズレイは瞳を持ち上げて瞬きをひとつ返した。フォークで刺したパンケーキにナイフで濃紺色のジャムを塗る手が止まる。
    俯いた瞳の色が郷愁を帯びる。モクマはじっとチェズレイの顔から視線を外さない。
    「ふと、懐かしくなりまして……」
    チェズレイがポツリと語りだした。
    「今日のような雪深い冬の午後にはよく母が焼いたパンケーキとジャムを囲んでいました。当時はコーヒーは未だ飲めなかったのでホットミルクだった」
    穏やかなチェズレイの声に耳を傾ける。ヴィンウェイでの出来事を経てから、チェズレイは時折モクマへ母との思い出を語るようになった。雪の降る地方へ拠点を張ることも多くなってきた。
    「思い出の味なんだね。……うん、ジャムの甘さとマッチして美味い!」
    「フ……」
    チェズレイが思わずといった風に吹き出す。モクマは自分の感想が見当違いだったかと焦った。
    「ん?」
    チェズレイの視線はモクマの手元に注がれていた。パンケーキをフォークで2つに折りたたんで、ジャムの山にダイブさせているところを紫水晶に映す。
    「いえ、当時の私はジャムをたっぷり付けることが忍びなかったんです。母が時間と手間暇をかけて煮詰めたモノが減ってしまうのが悲しかったんだと思います」
    「ごめんね。おじさん、がめつくて」
    「あァ、そちらのジャムは市販のものですからお構いなく。残されるほうが面倒です」
    あっさりと返事したチェズレイもパンケーキを2つに畳んでフォークで突き刺す。そのままジャムの山へ飛び込ませ、ナイフを使ってたっぷりと盛り付けた。
    赤い舌がパンケーキを迎えにいく。白い歯がシャッターのように下り、艷やかな唇が波打つ。
    「美味しいですね」
    ほろりとチェズレイが笑う。
    つられてモクマも笑みを深くした。
    「だよねえ!」
    モクマは作った人以上に自慢げに賛同した。

    それから、ふたりの間では雪が降った日のおやつ時にミニパンケーキが並ぶことになった。
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    rio_bmb

    MOURNINGけっこう前(6月か7月?)に書いてたけど新情報が出るたびにお蔵入りにせざるをえなかったモクチェズのラブコメ。読み返したら一周回って記念に供養しとくか…という気持ちになったのでお焚き上げです
    同道後のラブコメ「おじさんを好んでくれる子はいないのかなあ……」
     などとわざとらしく鎌をかけてみたこともあったのだが、あの時は正直なところ半信半疑だった。
     何せ相手が相手だ。都市伝説になるような詐欺師にとって、思わせぶりな態度を取るなんてきっと朝メシ前だろう。そう思うのと同時に、自分を見つめる瞳に浮かぶ熱が偽りとも思えなかった。
    (ひょっとして、脈アリ?)
    (いやいや、浮気って言っとったしなあ)
     その浮気相手にあれだけ心を砕く律儀者が、本命を前にしたらやはり相討ちも辞さないのではないだろうか。あなたと違って死ぬ気はないとは言っていたものの、刺し違えれば勝てるとなればうっかり命を懸けてしまいかねない。彼の律儀さはそうした危うさを孕んでいた。だからその時は脈があるかどうかより、ただ復讐に燃えるチェズレイの身を案じていたのだ。約束で縛ることは叶わず、己では彼の重石にはなれないのかとじれったく思ったのも記憶に新しい。
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