近くの公園でかき氷を食べていると灰原が舌を見せてきた。青い。小学生かよ、と国母も速瀬も笑いながら、それでもベエと舌を出す。黄色と緑。レモンとメロンだった。猪原も黄色。自分では見えないが俺も青らしい。ゲラゲラみんな笑っている。何か楽しいのだろう。
国母が少し離れてベンチに座っている臼井に声をかけた。臼井も見せろよ、と。しかし臼井は取り合わない。残念だ。いいよ臼井は見せなくて、と速瀬が言った。イチゴだもんなと灰原が言う。そうか、赤だからあまり変わらないのか。うーん。それでも見てみたいな。
「……水樹、無言で目の前に立つのはやめてくれないか」
俺を見上げて臼井が言った。いつの間にか臼井の前に移動していたらしい。自分のことなのに他人事みたいだ。臼井が喋ったので舌が見えるかなと思ったけど、よく見えなかった。
「……」
じっと臼井を見ていると、臼井は溜息を吐いた。それから舌を少し出して、ほら、と言った。赤い。
もっとよく見たいなと思って顔を近づける前に臼井は舌をしまった。
「見たところで面白くもなかっただろ」
臼井はそう言ったが、そんなことはなかった。なんというか、なんだろう。興奮した。
臼井はかき氷を再び食べ始めた。俯きがちである。多分照れてるんじゃないか。そう思ったとき、耐えられなくなって。
「外周走ってくる」
「は?」
臼井が顔を上げ、他のみんなもこっちを見た気がしたが、気にしていられなかった。走ろう。走ったら落ち着くと思う。多分。
水樹が公園を飛び出して走り始めた。速瀬は、あーあと呆れた声を出す。
「だから臼井はいいって言ったのに」
「体勢もまんまアレっぽかったしな」
速瀬が言うと国母が応じた。
「ベロ出しただけでエロい雰囲気出すなよな」
灰原がぼやく。
「水樹が勝手におかしくなっただけだろ。俺は何もしてないのに好き勝手言いやがって……」
臼井が低い声と常ならぬ荒れた口調で怒りを示す。猪原は何も言うまいと、溶けたかき氷を飲み干したのだった。