もうひとくち(グラエマ) いつかの卵焼きを当てる小さな勝負はあっさりついてしまった事は記憶に新しい。どうして分かったのか純粋に気になって訊ねたら『なんとなくそんな気がした』と答えられて、誤魔化されたのかもしれないとその時は思った。
けれど違うかもしれない、とエマは今になって思い直す。もし逆にグランの作った料理を当てる事になったら、きっと当てられるし、その根拠を訊ねられたらやっぱり『なんとなく分かる気がするから』以外にない。慣れとか、馴染みとか、勘とか、経験則とか。色々言い換えられる感覚の記憶といえるものがあると思う。だから、つい。
「おいしい」
「そう言ってくれるのは嬉しいんだがな」
小皿に取り分けた一口分のスープは塩加減も良くて、飲んだ時にスッと入っていくような味だった。
余った野菜を細かく切って、炒めてよく煮込んで、残り物を無駄なく使ってもう一品作ってしまえる機転の良さも勿論だけれど、味の調整に塩と胡椒くらいしか使っていなかったように思うし、少しずつ足すのではなくて特に迷いもせず適当な量を入れていたから、これがグランが感覚で身につけた、グランの独自の味付けなんだなと噛み締める。
「俺は味が濃かったり薄かったりしないかを聞いたんだが」
多分チーズかけてもおいしいだろうな、みんなはベーコンがもっと入ってたら喜ぶんだろうなと考えていたら、小皿の中は空っぽになってしまった。もうちょっと食べたい。
「もう一口……」
「こら。俺の質問に答えてからだ」
レードルに手を伸ばしたら避けられてしまった。おいしいからもう一口、と言った時点で答えなんて決まっているはずなのに意地悪だ、とエマは僅少口を尖らせる。空腹は過ぎると思考能力や判断力を低下させる。
「おいしくて丁度よかったよ」
「それはよかった」
無言で小皿を差し出せばやれやれと肩を竦めて、グランはまた少しだけ掬ってくれた。
早くみんな帰ってこないと私が独り占めしちゃうよ。なんて、我ながら子供っぽいなとエマは小さく笑った。
〈了〉