クリスがふと目を覚ますと、時刻は午前六時だった。
日の光で明るくなった室内。隣にはまだぐっすりと眠る恋人がいる。
喉がカラカラに乾いていて、クリスは静かにベッドを抜け出した。ベッドの外の世界は、僅かにひやりとしている。最近は、半袖では寒いと感じる日が少しずつ増えてきていた。
朝の家の中はしんと静まり返っている。クリスは冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して、喉を潤す。窓の外は青空が広がっていて、今日はどうやら良い天気のようだ。
寝室へと戻ってきたクリスは、静かに恋人の寝顔を見つめる。今日はオフだ。時間ならたっぷりある。このまままたベッドに潜って、もう一眠りしてしまうのも良いだろう。
「……古論?」
「すみません、起こしてしまいましたね」
眠っていたはずの雨彦の目がゆっくりと開いて、クリスを見上げた。まだ眠たげな様子の雨彦は、日の光の眩しさに少し目を細める。
「今、何時だい?」
「まだ六時ですよ」
「そうか……」
クリスにそれだけ尋ねた雨彦は、再び目を閉じてしまう。寝起きの雨彦はいつもより無防備で、早起きなクリスはそんな雨彦を眺めるのが好きだった。
ゆっくりと時間が流れていく。それから少し経って、雨彦の様子をじっと見つめているクリスに気づいてしまった雨彦は、ふっと笑みを浮かべた。大きな手がぽん、と軽くベッドを叩く。
「おいで」
まだ半分夢の中にいるかのような、柔らかな声がクリスを呼ぶ。ここに来いというように、少し空いたスペースに腕が置かれる。
呼ばれるがままに、雨彦の腕を枕代わりにして身体を横たえると、雨彦はそのままクリスを抱き寄せた。
「暑くはありませんか?」
「いや、もうそんな気温じゃないだろう?」
ぴたりと身体が密着すると、雨彦の体温が伝わってくる。雨彦は暑がりだから、夏の間はこんな風に抱き合ったりすることは避けていた。本人は気にするなと言うけれど、クラゲのように溶ける雨彦を見ていては、そうもいかないだろう。
クリスも四六時中くっついていたい、なんてタイプではない。付き合いたての年若いカップルというわけでもないのだから。
それでもこうして、何も気にすることなく雨彦と身体を寄せ合うことができるようになるのは嬉しい。雨彦に触れられる回数が増えるにつれて、夏が終わっていく。
「雨彦」
「うん?」
「何だかとても、しあわせな気分です」
「……ああ、そうだな」
満足そうな表情を浮かべた雨彦は、また静かに目を閉じる。
その体温の温かさに包まれながら、クリスもゆっくりと目を閉じた。