バーテン新茶とJKぐだ♀原稿だったものの冒頭。自分が場違いだと思いながら立香は店内に入った。青を基調とした店内。店内にいるお客は皆、大人の人だ。それはそうだ。ここはバーだ。高校生の立香にはまだ早すぎる。
「ね、ねぇオルタ……」
目の前をどんどんと歩いていたジャンヌオルタに声をかける。声だけじゃなくちゃんと止まって欲しいので彼女の服の裾も掴んだ。
「……何よ」
ちゃんと立ち止まってくれたジャンヌオルタは立香の方を振り返った。他人が聞けば不機嫌そうな声だが、彼女と家族である立香には怒ってないことは分かっている。
「ここ私がきてよかったの……?」
辺りをキョロキョロと見ながら小声で尋ねる。よほど不安げな表情をしていたのだろう。ジャンヌオルタはため息をついてから、自分の服の裾を掴んでいた立香の手を掴んだ。
「私達の連れだから問題ないわよ」
「でも……」
「何、あんた一人家でお留守番になってたでしょう」
「だよね……」
ジャンヌオルタの言うとおり、今日は家族は皆仕事や他の予定でいなかった。彼女の家のルールで立香が夜に一人家で留守番することは厳禁なので、今日はジャンヌオルタの仕事についてきたのだ。
ジャンヌオルタの仕事はシンガーだ。今日はこのバーで歌を披露する予定になっていたので、立香以外の家族による会議によって決定したのだ。(一番安全な所がジャンヌオルタの今日の仕事場だったせいだ)
「どうした?」
立香達に話しかけたのはさっきまで店長と話していたサリエリだ。サリエリが演奏、ジャンヌオルタが歌。二人はそんなコンビを組んでいる。ジャンヌオルタと立香が動かないので、不審に思って二人の方へ来たようだ。
「こいつが場違いすぎて怖いってびびってるのよ」
「ちょっとオルタ言わないでよ」
ジャンヌオルタの言っていることは本当のことだが、サリエリに正直に伝えられるのは別だ。
「なに、私はただ本当のことを言っただけよ」
「だから」
「ここで喧嘩をするのは止めないか」
さらに言い合いになりそうなジャンヌオルタと立香にサリエリは釘を刺す。それを素直にごめんなさいと答えたのは立香。ふんっとそっぽを向いたのはジャンヌオルタだ。
「立香。オーナーに言って控え室で舞っていることも出来るがどうする?」
サリエリからの提案に立香は少し考える。そして首を横に振った。
「ううん。二人の演奏見たいからこっちがいい」
立香が二人の演奏と歌を聴く機会は中々ない。せっかくなので、見ていたい気持ちはある。立香が伝えれば、サリエリがこっちに着なさいと一緒について行く。連れて行かれたのは店内の奥に設置されているバーカウンターに連れて行かれた。
「オーナー曰くここなら、あまり目立たないらしい」
「分かった」
二人が控え室で準備をするらしいので、小さく手を振って見送る。
二人がいなくなった後、立香は恐る恐るカウンター席に座る。店内出入り口からは立香が座る位置は見えにくいが、ピアノが置いてあるスペースは見やすい。
立香のことを考えてくれた位置らしくて心の中でサリエリに感謝した。
(時間が来るまでどうしよう)
持ってきた鞄からスマホを取り出して時間を確認すれば、二人が演奏する時間にはまだ時間がある。立香が悩んでいれば、
「お一人かな、お嬢さん」
バーテンダーから声をかけられた。
「あ、は、はい!」
いきなり声をかけられて、緊張してしまった。声が変に高くなってしまう。
「そう緊張しなくても、取って食べるつもりも店から追い出すつもりもないさ。まずはお近づきの印にこれでもどうぞ」
そう言いながらバーテンダーは立香の目の前にグラスを置いた。オレンジ色の飲み物だ。
「私、未成年ですけど……」
アルコールを渡されても飲めない。そう伝えると、バーテンダーの男は笑った。
「安心しなさい。アルコールではないノンアルコールのカクテルだよ」
「いいんですか?」
「もちろん。君のために作ったのだから、飲んでもらわないとカクテルが悲しいからね」
パチンと片目を閉じてウィンクをしてお茶目にバーテンダーの男が言う。それに飲まないのは申し訳なくなって
「……あ」
そうだ。こんなきれいな飲み物写真に撮りたい。持ってきた鞄からスマホを取り出す。
「あの、きれいだから撮ってもいいですか?」
「いいとも」