痛みは愛おしさに劣る 「イーオン?何してるの?」
イーオンの非番である今日、ピークの時間も過ぎそろそろ昼を取ろうかといった時にグツグツと何やらイーオンが煮込んでいたから私はひょっこりとキッチンに顔を出した。
「ティファリア」
「…何か、すごく辛そうね」
香辛料の香りが、刺激臭がすごく思わず顔を顰めると楽しそうにイーオンは笑った。
「これはラティウムという街の名物料理、【ヴォルカノ・ボッカ】というものらしい」
「ラティウムってあれよね…魔法が有名な」
「ああ。実は城の方に今ラティウムからの行商人が来ていてな、それでこの料理を教えてもらって実践しているところだ。良ければティファリアもどうだ?ココナッツミルクを入れて辛さを調節したりするらしいからな」
その提案に少したじろいでしまう私だが、せっかくのイーオンからの提案なのだからと勇気を振り絞る。
「す…少しだけ、なら」
その言葉にイーオンは嬉しそうに笑うものだから承諾してよかった、とほっと胸を撫で下ろすのだった。
***
正直、食べてみると辛いは辛いけれど味を調節すれば食べれないものではなく逆に美味しいと感じるものだった。
「ごちそうさま、イーオン!」
「お粗末様でした、完食するなんてすごいなティファリアは」
「確かに最初は辛くて舌をヤケドしちゃったけど…でも調節したあとはすごく美味しかったし…辛さの調節ができる料理ってのはうちのメニューにも取り入れてもいいかも…って思えるわね」
「…確かにそうだな」
「辛いものだと男性人気が見込めるだろうし、うちはファミリー層や女性客が多いからね。そういう意味でも新規開拓になるかも…」
と、考え込む私にイーオンの笑い声が聞こえて来る。
「イーオン?」
「いや…貴方は変わらないな、と思ってな。…妬けてしまうほどに」
「ーーえ?」
問いかけた時にはイーオンの手は私の頬に触れ、そして顎を小さく上げさせ唇同士がくっついていた。
「っ…」
ヤケドした舌が触れるたび痛みが走るのにイーオンの熱っぽい視線に抵抗することができなかった。
「なっ、にするの…!」
「痛かったか?」
「痛いよ!ヤケドしたって言ったでしょ!?」
「ああ…そうだな、悪い」
そう言いながらイーオンはどこか嬉しそうで首を傾げてしまう。
「…何に、妬いたの?」
「ん?あぁ…そうだなーー」
そう言ってイーオンは私の耳に唇を寄せ小さく耳打ちをする。
『あなたに望まれる新たな男性客に』
そんなことにまで嫉妬するのかと思えば嬉しさがじわじわと広がって、私は思わずイーオンの腕の中に飛び込む。
可愛い人!可愛い人!本当にこんなに可愛い人を私は他に知らない!
そう思って頭をぐりぐりイーオンの胸に擦りつけていると名前を呼ばれ顔を上げる。痛みなんてものより愛おしさが勝って、また私は誰よりも愛おしい彼と口付けを交わすのだった。
-Fin-