サクラ「ええっ、ばーえふ? カレーがおいしいあのおみせ?」
「ようせいさんが願いを叶えてくれるって、いまSNSで話題らしいよ……ていうか、焔、声が大きいのはいいけど、棒読み」
bar Fの店内。カウンター前のスツールには、焔と樹果が座っている。
「しょうがねえだろ、嘘がつけない性格なんだからよ」
言いながら、焔がタンブラーの水を一気に半分ほど飲み干した。
「君たち、バイト代出すんやさかい、あんじょうやりや」
カウンター内から、寶が有無を言わさぬような笑顔を浮かべている。
「金の亡者め…。SNSとリアル口コミ併用で店の宣伝、とか上手くいくのかよ」
樹果は携帯をいじり始めた。
「ばーえふは、都内にあるちいさなおみせです。不定休、ランチ営業あり、くらい書いときゃいいだろ、ねえ寶」
「そんな感じでよろしく頼むで」
「わかった、じゃあ行ってくる、焔、行こう」
「おう」
外はまだ寒い。だが夭聖のふたりには気にするほどのものではない。ふたりが外に出ると、午前中のせいか、人通りはまだ少なかった。
「もうちょっと人の多いところ行こうか。ところでうるうは?」
「知るかよ。今日は卒業式で、在校生送辞を読まされるとかで学校に行った」
「知ってんじゃん……」
「何か言ったか? そういえば蘭丸は?」
返事をためらっていた様子の樹果が、ぎこちなくしゃべりだした。
「チ……リウスと出かけてる。桜を見にいくんだって」
焔は一瞬眉をしかめたが、平静を取り戻したようだ。
「仲がいいのか、自分を虐めたいんだかわかんねえな、あいつ」
「あいつって誰、蘭丸?」
歩きながら焔は考えているようだった。
「どっちもかもな。つうか、あんまり喋ってると宣伝文句を忘れちまいそうで」
「ごめん焔、それ俺も」
確かに「どっちも」かもしれない。自分が見えていないくせに、自分を傷つけたがるところが、チルカと蘭丸、あの二人はとてもよく似ている。