そういう奴「忘れないうちに返しておくよ。まーさーか、中等部の教科書持ってこい、って言われるなんて思わなかったよ」
「生徒会室の忘れ物の在庫が役に立っただけだよ」
樹果がうるうに中学国語の教科書を渡した。
白い制服を着た四人の生徒たちはもう食べ終わって、食器も下げ終えてしまったのに、誰も教室へ戻る様子はない。
「でもさあ、「君はつまりそういう奴なんだな」って言われたら、俺立ち直れないよ〜」
樹果がおおげさに嘆いてみせると、焔が話題に乗ってきた。
「ああ、あのいけすかない金持ち、ああいうイヤミの言い方するやつ、ここにもいるよな、どこの誰とは言わねえけどよ」
「盗みを働き規律を乱した人間は、罰を受けて当然だろう? 相変わらず火炎族は情に流されやすく出来ていると見える」
うるうが冷たく言い放つ。
「あいつは充分な罰は受けただろう」
「どうだか」
二人の言い合いに樹果が体ごと割って入る。
「教科書の話なんだから、俺らの話じゃないじゃん、ケンカやめなよ〜!」
うるうが薄く笑った。
「陸岡は「そういう奴」だから、ケンカを止めてくれる」
「だな」
焔が短い同意を返す。
「なんだよ〜、本気にしちゃったじゃないか。最近仲良くなったと思ったらグルになって俺のこと騙そうとしてさあ……蘭丸?」
いつもぼうっとしている蘭丸は、窓の外を見上げている。
「蘭丸? なに見てるの?」
蘭丸はただニコニコしているだけで、返事はない。つられて樹果、うるう、焔も蘭丸の視線の先を追うと、向いの校舎の給水塔の上に、どうやって登ったのか、銀髪の少年が立っているのが見える。焔が一瞬顔をしかめる。うるうは何でもなかったような顔をして教科書をめくり始める。
「いいかげん観念して、こっちくればいいのに」
樹果はつぶやく。そういえば、蘭丸も、あいつも「そういう奴」だったな。