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    mona5770

    Twitterに投げたネタをちょっとまとめたメモ置き場
    燭へしと治角名が混じっています。ご注意ください。

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    mona5770

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    (燭へし)バレンタインポストにつけていた小話(再編・加筆)
    リーマン光忠×長谷部主任
    まだ両片思いのふたりwith早く付き合え!なモブ。

    (燭へし)しかたないオトナたちそれはバレンタインの朝、始業間際の出来事だった。
    以前からチョコを受け取らないと公言しているにも関わらず、ここ営業一課の長船さんの席には色とりどりの包みを手にした女性が押しかけてきていた。
    「ごめんね。誰のも受け取らないって決めてるんだ」
    「みなさんに一律配っているものですから」
    いやいやそれ絶対違うよね。
    そのチョコレート、初日に完売してたやつじゃん。
    毎年のことながらバレンタイン特設会場がそのまま移動してきたかのような、今年のイチオシとカタログに書かれていたもの総動員って感じ。
    受け取らないって言ってるのにねえとPCを立ち上げながら、その押し問答をぼんやりと見ていると背後から一人の男が姿を現した。
    「長船、ちょっといいか」
    姿を見せたのはこの会社で経理を一手に引き受ける長谷部主任だった。
    「長谷部くん!」
    小さい会社ゆえに人事からシステム、マーケティングまであらゆる「どこの部署かわからない」仕事を引き受ける総務に所属する長谷部主任は、実は長船さんが中途入社したときの採用責任者だった。
    どうやら存外に情が深いらしい長谷部主任は、自分が採用を担当した長船さんのことを何かにつけ気にかけていたようで、長船さんも長谷部主任にすっかり懐いていた。
    どうやら年齢が近い二人は見た感じあまり気が合うようには見えないのだけれど、どうやらそうでもないらしく、たまにふたりで食事に行ったりもしているようだった。
    気が付くと「長谷部主任」が「長谷部くん」になっていたことには驚いたけれど。

    ごめんねと周囲に誤り、長谷部主任に近づいた長船さんにコンビニの袋を差し出すと、主任は長船さんの耳元に唇を近づけた。
    「ありがたく受け取れ。本命チョコだぞ」
    かすかに漏れたその言葉、おそらく周囲の女性たちには聞こえていないだろう小さな声が届いたとたん、まるで色つき水を吸い上げた花のようにみるみる長船さんの顔が朱に染まり、チョコを手に囲んでいた女性たちが息を呑んだ。
    そらそうだ。
    陶器のように白く美しい長船さんの頬がこんなに赤らむところは初めて見た。
    長谷部くん長谷部くんと尻尾を振るように懐いていたように見えていたけれど、実のところその「好き」はもっと違う「好き」なの?
    動揺する長船さんの姿にフッと笑みを浮かべると、じゃあなと立ち去る主任の背に向かって長船さんが投げた声に、周囲は興奮か動揺かボタボタと手にしていたチョコを取り落とした。

    「長谷部くん!本命ってほんと?」

    詰め寄るようなその声はまるですがるような、本当だと言ってくれと言わんばかりの必死な色がにじみ出ていた。
    うそでしょと言う文字が見えそうな女性たちの顔、なかには「え、まじで」と笑みを浮かべている子もいた。同志だな。

    「ばーか冗談だ。義理だよ。見ればわかるだろ」

    白いコンビニの袋から見えるのは確かにコンビニで買える安価なスイーツだけれど、甘いものをあまり食べない長船さんが去年好んで食べていたものだ。
    「義理…」
    そのことよりも義理という言葉に打ちのめされるのだから、その本気度が見えるってものだ。まったく。
    すっかりしょぼくれた犬みたいになった長船さんの頭を優しく撫でると「仕事しろ。揶揄った詫びに飯でも奢ってやるから」そう言いながら長谷部主任はフロアを後にした。
    「あーあいつまでも新人扱いだよ」
    小さな声でそう呟きうなだれる長船さんの目には入らなかったのかもしれないけれど、にやりと笑って立ち去った長谷部主任の耳が真っ赤になっていることに私は気づいてしまった。
    長船さんは全然わかっていない!
    長谷部主任の赤くなった耳のことも、数日前に人で溢れる百貨店のチョコレート売り場で長谷部主任が何周何周もぐるぐると歩き回っていたことも。
    どちらも社内で一二を争うモテ男のくせに、本命には慎重なのか臆病なのか。
    中学生でももうちょっとなんとかなりそうなものなのに。
    まったく仕方ないな。
    ため息をひとつつくと私は長船さんを取り囲む女性たちを引き剥がし、仕事仕事とデスクに追い立てる。
    しょぼくれたまま席に座った長船さんに「高くつきますからね」と小さな声で耳打ちした
    全部は明らかにはしてあげない。
    でもヒントはあげるね。

    長谷部主任の鞄にはちゃんと本命チョコが入っていたこと。
    そしてそのラッピングはどう見ても長船さんっぽいものだったということくらいは。

    「それって…」
    「長谷部主任、最近焼き鳥が食べたいって言ってたらしいですよ。奢ってもらうならそれくらいがいいですよね?そうですね、おすすめの店は後で送っておきます。あ、あと明日休むなら届けは早めにお願いしますね」
    「休みってなに?え?」
    「長谷部主任は代休がたまっているようです」
    「は、あ、うん」
    休み?え?と動揺する姿は社内も取引先も女は全員抱いたらしいとかいう噂とは真逆のものだ。
    夜は長い。
    ゆっくりとお互いの気持ちを突き合わせればいい。
    まあそのあとなんやかやあって、明日動けないこともあるじゃない?
    休みは取っておいたほうがいいと思う。
    ま、そんなことは刺激が強すぎるから言わないけど。
    「とりあえず仕事してください」

    話がついたのか夕方「お礼はまたいつか」とささやくと、長船さんは早々にフロアをあとにした。
    それを見送った私は総務部の同期にチャットを飛ばす。
    長谷部主任が溜まりきった代休を明日取ることを決めたこと、そしていそいそと席を立ったことを確認すると思わず笑みが漏れた。
    お礼は惚気話でいいですよ。
    総務部の同期と祝杯をあげるべく私もPCの電源を落とす。
    よい夜になりますように。
    ハッピーバレンタイン




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