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    無名@本物

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    無名@本物

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    シーズン2第9話

    #CPP

    終わりの一歩目「あれ〜?“の“ってどっち向きだったけ?ま、いいや。ぱ、り、ん、ちゃ、ん、は…」

    静かな部屋にカリカリとペンの走る音だけが響く。
    数百年ぶりに文字を書くせいで文字を思い出すのに一苦労する。
    う〜ん、と唸りながらやっと書き終えた頃には外はすっかり夜になっていた。

    「思ったより遅くなっちゃった、いや、むしろ暗い方が好都合、か」

    散らかった机の上を片付け、苦労して書いたお姉ちゃんへの手紙、というにはお粗末な紙切れを改めて見る。
    決して綺麗とは言えない、が、読めないこともない。それにこれ以上時間をかけてもいられない。

    「atm~」

    すると何もない空間にポッカリと穴が開き、その穴から寝ぼけ眼のatmが顔を覗かせる。

    「カキン〜?」

    睡眠を妨害されたatmは不満そうな声を上げながら穴から出、パリンの膝に座った。

    「起こしてごめんね。atmに頼みたいことがあるの。」

    手に持っていた手紙をクシャクシャと丸め、atmの小さな手に乗せる。

    「お姉ちゃんが“全てを思い出したら“この手紙をお姉ちゃんに渡してほしいの」

    一人ぼっちで寂しかったから“オトモダチ“を作ったの、ウヅゥに初めてatmを紹介された時、atmはただの魂の入れ物だった。だが、アタシやお姉ちゃんと一緒に過ごすにつれて、言葉は話せないものの、感情を覚え、妖精に比べれば劣っているがそれなりの知性もついた。これくらいのことなら容易にこなせるだろう。
    atmは渡された紙屑とパリンの顔を交互に見た後、大きく口を開け、手紙を飲み込んだ。

    「いい子ね、atm、お姉ちゃんをよろしくね」

    atmの頭をそっと撫で、膝から下ろし部屋を出る。
    何かを感じ取ったatmがカキン〜!!と大きな声でなきながらアタシの後をつけてくる。

    「ちょっとatm!シー、大きな声出さないでよ、お姉ちゃんが起きちゃうでしょ「パリンちゃん、こんな時間にどこ行くの?」

    コソコソとatmを宥めていると突然後ろから声をかけられ、思わず肩が跳ね上がる。

    「わっ!…びっくりしたぁ」

    振り向くとお姉ちゃんが少し眠たそうな顔でこちらを見ていた。

    「ごめん、起こしちゃった?なんだか眠れなくて、ちょっとお散歩してこようかな〜って思って」

    誤魔化そうとして思わず早口になってしまう。怪しまれてしまったかもしれない。

    「そう。危ないから早く帰ってきなさいね」

    お姉ちゃんはあくびを噛み殺し、そう言うと自分の部屋に戻ろうとする。

    「お姉ちゃん!」
    「なぁに?」

    窓から差し込む月明かりがお姉ちゃんを照らす。
    陶器のように白い肌、月明かりを透かしてキラキラと輝く故郷の美しい青空を思わせる空色の髪、吸い込まれそうな深い青の瞳、少しでも眼を離せばそのまま淡い月明かりと共に消えてしまいそうな、そんな儚げな美しいこの少女はあまりにも残酷な運命に翻弄され、普通の幸せを享受することすら許されなかった。
    ずっと昔に捨てたはずの憎しみの炎が轟々と燃え出す。

    「行ってきます!」

    何故だか泣いてしまいそうで、精一杯の笑顔をお姉ちゃんに向け、玄関に向かって歩き出す。

    「行ってらっしゃい」

    atmはもう追いかけてこなかった。

    〜〜
    魔王を倒す方法はたった一つ。
    それは“プリキュアの光の力で魔王の悪の魔法を消し去る“こと。

    錠前達は確実に強くなった。
    今、宇宙中で魔王を倒せる可能性が最も高いプリキュアは錠前達だろう。
    だが、まだ足りない。
    魔王に消し去るには、せめてあともう1人、プリキュアの力が必要になる。
    今から協力してくれるプリキュアを探す時間も手段もアタシは持っていない。お姉ちゃんをプリキュアに戻す、それが勝率を上げる唯一の道。

    ウヅゥ城を出て数時間後、アタシは魔王城に到着した。
    分厚い灰色の雲がどこまでも空を覆う。時々その雲の隙間から雷が落ち、一瞬薄暗い空をピカッと照らす。
    真夜中だというのにカラスに似た生物がギャアギャアと騒がしく鳴き、“何か“が地の下をウゾウゾと蠢くような、あるいは城の中を徘徊するような、そんな気味の悪い気配を感じる。
    パリンは辺りに何もいないことを確認すると、城の正面にドンと構える自分の身長の何十倍もありそうな巨大な門はくぐらず、城の裏手に回った。
    裏手にある雑木林は、魔王の魔法によってもはや木ではない、何か別の生物に作り替えられている。ぐにゃぐにゃと曲がった長い枝は自らの幹や周囲に生えている木の幹にぐるぐると巻き付いており、幹は毎秒毎に太くなっていく枝に締め付けられパキパキと音を立ててひび割れていく。まるで人の顔のように見える木目が苦しげな表情をし、風の音とざわめく葉の音に紛れて、悲鳴のような泣き声のような声が聞こえてくる。

    (ほんといつ来ても趣味の悪いお城だわ)

    心の中で悪態を吐きながら、石造りの城壁の一部の石をそっと引き抜く。
    すると、ゴゴゴと重苦しい音と共にただの壁だった場所に扉が現れる。

    (うん、前来た時と同じね)

    扉を開け通路を少し進むと暗闇の向こう側まで続く長い長い螺旋階段にたどり着く。
    なるべく音を立てないように慎重に階段を降りていく。
    下に降りれば降りるほど空気が重くなっていき、じっとりと張り付くような湿気に嫌悪感が増す。
    どれくらいの時間が経ったのか、やっと下まで降り切ることができた。
    壁に灯されたわずかな灯りを頼りに通路を進み、重厚な扉を開ける。
    部屋は牢屋のようになっており、鉄格子の向こうには茶色い肌をした、手は異常なほどに長く、逆に足はアンバランスに短い異星人が閉じ込められていた。

    (こいつがお姉ちゃんの記憶を消したET星人)

    昔、化物が言っていた言葉を思い出す。
    アタシは“成功作“でお姉ちゃんは“失敗作“
    お姉ちゃんが上手く悪の魔法に染まりきれなかったのは、お姉ちゃんの中にプリキュアとしての力が残っているから。
    ならば、お姉ちゃんがプリキュアに戻る鍵はきっとお姉ちゃんの記憶の中にある。
    確証はない。
    けれど、これに託すしかない。

    鉄格子の手前に立つとET星人は「e~~~~~t~~~~~~」と言いながらアタシに人差し指を差し出し、近づいてくる。
    ET星人の人差し指がアタシに触れそうになった瞬間、アタシはET星人の手首を掴み、もう片方の手で指をパチンと鳴らすと、ET星人は牢屋から忽然と消えた。
    アタシがET星人を倒せば魔王にすぐこの計画がばれ、アタシとお姉ちゃんは殺されてしまう。
    ET星人は魔王の手下の中でもトップクラスの強さだ。今まで錠前達が戦ってきた敵とは段違いなほど。それでも、ET星人を倒せないようでは魔王を倒すことなど夢のまた夢。

    「証明して見せてよ、アンタたちが本物のプリキュアなんだってことを」


    「ああ、可愛い我娘よ。私を裏切るなど、パリン、貴女はいつの間にそんなに“悪い子“になってしまったのでしょうか」

    突然声がして扉の方を振り返る。
    肩上で切り揃えられた金色の髪を煌びやかな髪飾りでまとめ、上質な布で織られた美しいドレスの上にまるで女神が身につけているようなベールに身を纏った、女性とも男性ともつかぬ老人が言葉とは裏腹に穏やかな笑みを浮かべて立っていた。

    (あーあ、思ったより早くバレちゃった)

    「魔王サマ」
    「貴女はこれまで私の為に身を尽くしてくれていたではないですか。

    なのに、どうして、

    どうして、

    私を裏切った!!!!!!!!!!!!!!!!!」

    魔王はパリンの首をガッと掴むとぎりぎりと締め上げる。
    先ほどまでの穏やかな笑顔の見る影がないほどに怒りで顔を歪ませ、落ち着いた貴婦人のような声は空気をビリビリと振動させる低く恐ろしい声に変わっていき、次第に身体は人間ではない異形の姿に変化していく。
    地下牢で収まり切らなくなった魔王の身体は床を貫き城はミシミシと音を立てて崩壊する。

    「魔王サマ!アタシと遊んでよ!」

    パリンはニッと笑う
    耳をつん裂くような大きな爆発音と共に吐き気のするほど甘い香りが破裂した

    〜〜
    「手作り夏祭り、案外楽しかったわね」
    「ね〜!雨で夏祭り中止って聞いた時はどうしようかと思ったけど結果オーライ☆だったね!」

    夏の雨上がり特有の地面から這い上がって来るような熱気を帯びた湿気を肌で感じながら、浴衣を着た錠前とクレソンが並んで歩く。下駄のカラン、カランという音が夜の住宅街に響き渡る。

    「あ〜あ、ワタシもみんなと深夜まで第6やりたかったな〜、労働クソ〜」
    「一緒に仕事やめるか〜」

    まあ、無理だけどね〜、はは〜、と2人は乾いた笑い声をあげお互いを励ますようにバシバシと背中を叩き合う。

    「ねえ、わかめだ?」
    「なに」
    「プリキュアになったこと後悔してない?」
    「はあ?後悔もクソもあんたに巻き込まれたからこうなってるんですけど?」
    「うっ…ごめん…」
    「冗談よ。後悔なんてしてるわけないでしょ。なしなは?」
    「うん、ワタシも同じ」
    「ねえ、わかめだ。ワタシさ最初は戦うのも下手くそで、みんなに助けられてばっかりだったけど、いつかみんなを助けられような、そんな強いプリキュアになりたい」

    星の見えない夜空を見上げながら歩く錠前の横顔をちらりと見る。
    バカでドジで、無神経そうに見えて人一倍他人の感情の変化に敏感なこの友人が、セレナーデ達から彼女達の身に起こった出来事の話を聞いてから少し元気がないことにクレソンは気づいていた。

    「助けよう。フガも、ポコも、セレナーデも。ドジなあんたの背中は私が守ってあげるから」
    「わかめだのくせに生意気〜!!でもありがと、って何アレ」

    錠前が指差した先をクレソンも目で追う。
    夏の暗闇に茶色い何かが立っていた。
    〜〜
    「わかちゃん!わかちゃん!」
    「錠前!しっかりするアル!錠前!」

    明日仕事だから帰るね、そう言って錠前とクレソンが名残惜しそうな顔で帰っていった数分後、錠前から、助けて、と連絡が入った。
    電話の向こう側で激しい戦闘音と微かに聞こえた助けを呼ぶ声に只事ではない、と急いで錠前達の帰路を追う。
    そこには変身が解けたのか、それとも変身する暇さえ与えてもらえなかったのか、人間の姿で怪我を負い、気を失っているなしなとわかめだ、そして1体の敵の姿。

    セレナーデは直感で分かった。
    アレはウヅゥに仕掛けられたまやかしなんかじゃない。

    「e~~~~~~~~t~~~~~~~~~」

    異星人がセレナーデ、ポコ、そしてフガを指差し、ニヤリと、笑った、そんな気がした
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