2期5話「私アレ行きたい!!!」
夏休みということもありいつもよりも人の多いショッピングモール。セレナーデが人だかりの出来ている方向を指差す。『恐怖の館』とおどろおどろしい字体で書かれた看板の前には家族連れやカップル、ジャージを着た学生の集団など様々な人がワクワクとした表情であるいは不安げな表情をしながら列を作っていた。
「へー!今年もやってるんだ、これ」
わかめだが配られていたパンフレットを一枚手に取るとカバンの中に入っていたフガがピョコンと耳を覗かせる。
「クレソン!あれなにフガ?」
「お化け屋敷って言ってオバケが脅かしてくるアトラクションみたいなやつ、怖いけど楽しいよ。フガ行ってみる?」
「オ、オバケ?!オバケは嫌いフガ!!」
オバケ、という単語を聞くや否や顔を青ざめて何かから隠れるようにモソモソと鞄の中に戻っていくフガとは逆になしなのカバンに入っていたポコが勢いよく顔を出す。
「ポコ行ってみたいポコ!」
「ポコは怖いの平気なの?」
「ポコの好奇心は誰にも止められない!ポコっ!」
「じゃあ、はい!わかめだ行ってらっしゃ〜い」
そう言うとなしなは大きな目を爛々と輝かせるポコをわかめだへと差し出す。
「え〜!なしなちゃん行かないの〜!?」
「ワタシはパス!!!あんなの絶対無理!!」
「そっかぁ〜、わかめちゃんとユーロちゃんは?」
「私もあんまり怖いの得意じゃなくて…なしなさんとフガと一緒に待ってます!」
「まあ私は別に平気だし2人について行くよ、ゆーちゃんフガのことお願い」
「ユーロさん!待ってる間にアイス食べに行こう!アイス!」
「アイスフガ!!!」
なしなの言葉に再びピョコッとフガの耳が鞄から飛び出る。
「じゃあ終わったら連絡ください」
「は〜い!行ってきま〜す!」
「あれ?そういえば共ポはどうするの?」
まるでその場から自分の存在消そうとしていたかのように一言も発さずにユーロの後ろに隠れて(?)いた共ポに全員の視線が集まる。
「わ、我はあんなもの興味ないネ」
お化け屋敷とは逆方向に視線を向け手を体の前でぎゅっと握っている共ポの様子を見てなしながニヤリと意地の悪い笑顔を浮かべる。
「共ポも怖いんだオバケ」
「我はそんなの信じてないネ、あんなもの時間の無駄ネ、我は行かないアル」
「へぇ」
「何アルか、そのむかつく顔」
「いやぁ?共ポもオバケ怖いんだなぁって思っただけ〜」
「だから我はそんなもの信じてな「怖いんだ」」
「〜〜〜ッ!!!!!怖くないアル!!!!!」
「やったぁ〜〜!!じゃあくるっぽーちゃんも一緒に行こ〜〜!!!」
セレナーデが無邪気な笑顔で共ポに飛びつき、その横でなしながニヤニヤと共ポを見る。
「怖いなら無理しない方がいいんじゃない?」
「怖くないネ!!!!!!行くアル!!!!」
わかめだが声をかけると共ポは引っ付くセレナーデをペイっと引き剥がしトレードマークの三つ編みを左右に揺らしながらお化け屋敷の方へとズンズンと歩いて行く。
「な〜し〜な〜」
「お守り頑張れ〜」
わかめだがなしなを睨みなしなが笑顔でヒラヒラと手を振る。
「くるっぽーちゃーん!!!待ってよお〜〜〜」
「こっち来んナ!!!!!!」
セレナーデがパタパタと共ポの後を追う背中を見てわかめだは小さくため息をついた。
〜〜〜〜〜
「ワクワク!」
「ワクポコ!」
30分ほど並びようやくわかめだ達の番が回ってきた。セレナーデは待ちきれないという様子でその場で足踏みをし、ポコも興奮のあまりぬいぐるみに擬態することを忘れて触角をピョコピョコと動かす。係員は一瞬驚いた表情でポコを見たがそういうおもちゃだと思うことにしたのかポコから視線を外しわかめだ達の方に向き直った。
「あなた達が迷い込んだここは『恐怖の館』。館の主人は魂を求めてこの館を彷徨っています。鍵を見つけ出し主人に見つかる前にこの館を脱出するのです。どうか御武運を」
係員は声を顰めてそう言うとバタンと扉を閉じ、暗闇が訪れる。
「怖くない怖くない怖くない…」
「くるっぽーちゃん行くよ〜〜!」
ぶつぶつと呟く共ポの腕を掴みルンルンと鼻歌が聞こえてきそうな足取りで前に進むセレナーデ。
「ちょっと怖くなってきたポコ…」
わかめだの腕の中で小さく身震いをするポコ。
洋館を舞台にしたこのお化け屋敷は行列ができるだけあってかなりのクオリティであちこちから叫び声が聞こえる。そしてその中でも誰よりもうるさい叫び声をあげているのは前を歩くセレナーデ、ではなくその横でセレナーデに引き摺られるようにして歩く共ポと泣きながらわかめだの腕にしがみつくポコだった。
「早くおうちに帰りたいポコ〜〜」
「だから言ったのに…」
「怖くないアル!怖くない!!こ、怖くない!!!アイヤー!!!!」
「ちょっと共ポ!??!?!?!?!」
物陰からのそりと出てきたゾンビが共ポに触れようとした瞬間、パニックになった共ポが反射的に強烈なパンチをゾンビにお見舞いし、わかめだが別の意味で悲鳴をあげる。
「ポコーーーーー!!!共ポ何してるポコ!?」
「た、大変!!大丈夫ですか?…ってあれ?」
セレナーデが駆け寄ると先ほど殴られたゾンビの姿はなく代わりに黒い蝶がヒラヒラとその場を飛び回り奥へと消えて行く。
「皆様ご機嫌よう」
蝶が消えていった方向から静かな声が聞こえ、暗闇から美しい少女が姿を表す。
「ウヅゥ…!!」
「今日は皆さんと戦いにきたわけじゃないんです」
「ッ!!」
変身しようと手を伸ばした三人のカラフルアミュレットがウヅゥから飛んできた黒い蝶に弾き飛ばされる。
「何が目的ネ」
キッと共ポがウヅゥを睨み、ウヅゥは妖しい笑みを浮かべる。
「ふふ、そんな怖い顔しないで下さい。お話をしにきただけです。」
「私達はあなたと話したいことなんてないんだけど」
「ひどいですね。少し傷つきました。」
「わかめちゃん!」
突然わかめだの目の前にウヅゥがふわりとまるで蝶のように優雅に現れ、わかめだの腕に抱かれたポコを掴み取った。
「ポコ!!!!」
「ポ!?ポコーーー!?!?」
頭を鷲掴みにされたポコがジタバタと暴れ、ウヅゥはその細い指にグッと力を込める。
「オマエッ!」
「動かないでください。動いたらこの子のこと殺します。」
「触覚が千切れちゃうポコーーーー!!!」
「言ったでしょう?お話にしにきただけって、皆さんが何もしなければ無事にお返ししますよ」
「…話って何」
わかめだがそう言うとウヅゥはセレナーデの方を見てにこりと微笑み、ゆっくりとセレナーデの元へと歩いていく。
「え?私?」
「ポコリーヌ星第3王女セレナーデさん、そうあなたです」
ウヅゥはセレナーデの前に立つとセレナーデの耳に口を近づけ2人にしか聞こえないほどの声でボソリと呟く。
「今度こそお友達のこと守れるといいですね、卑怯者のお姫様」
セレナーデの宝石のようなキラキラとした瞳に一瞬暗い影が落ち、ウヅゥが形のいい唇を満足そうに歪ませる。遠くで叫び声が聞こえ、ウヅゥはちらりと声のした方を見るとポコを掴んでいた手をパッと離す。
「ポギャッ!」
「他の人間に見つかったら面倒なので私はそろそろお暇させて頂きます。素敵なものを見せてくれてありがとう」
セレナーデの目をじっと見つめながらウヅゥの姿が暗闇に溶けていく。
「チッ、待つアル!」
共ポの拳はウヅゥに当たることはなく空を切る。
「セレナーデ大丈夫?」
「…うん!大丈夫!元気元気〜」
「話って「そんなことよりカラフルアミュレット探さなきゃ!」」
「ポコ!他の人に拾われちゃったら大変ポコ!」
「でもこんな暗い中どうやって探すアルか?」
「あの〜何かお困りでしょうか?」
声をかけられ振り向くとゾンビの姿をしたスタッフが心配そうにわかめだ達の後ろに立っていた。
「あ、すみません、落とし物をしてしまっ
「ヤーーーーーーー!!!!!!」
「ポーーーーーーー!!!!!!」
「くるっぽーちゃん!?ポコ!?」
いきなり現れたゾンビに共ポとポコが白目を剥いてその場に倒れ、ぬいぐるみが動いたことにスタッフが叫び、それを見たわかめだとセレナーデが悲鳴をあげる。軽くパニック状態に陥ったお化け屋敷内をその場にいた人達の記憶を一部消すことでなんとか収め、カンカンに怒ったフガからは『お化け屋敷禁止令』が出されたのだった。