フガ視点の話深い眠りの中で酷い悪夢を見ていた。
自分の体の中心に小さな穴が空いた。その穴はジワジワと大きくなっていき私の"何か" を侵食していく。穴からポロポロと大切なものがこぼれ落ちていき、気がつけば私は空っぽになっていた。
目を覚ますと私は私自身のことを全て忘れてしまっていた。
セレナーデという少女が私の事について色々と教えてくれた。
私は「フガ」という名前であるということ。
ポコリーヌ星の妖精であり「プリキュア」という魔法の戦士を生み出す不思議な力を持っているということ。
セレナーデはポコリーヌ星の王女であり、私はセレナーデの従者であったということ。
「ポコ」という相棒がいるということ。
そこで思い出した。
ああ、そうだ。
私には大切な人がいた。
自分の命を掛けてでも守らなければいけない大切な人。
どうしてその人が大切なのか、その人とどんな日々を過ごしたのか、その人が誰なのか。
何も思い出せないけれど、名前だけは覚えている。
「ポコ、さんってどこにいますか...?」
私が大切な人の居場所を尋ねると、それまで一言も発さずにセレナーデの膝に座っていたピンク色の妖精が震える声で「ポコがポコだポコ」と答えた。
何も覚えていない、何も分からない、けれど相手を深く傷つけたいうことだけが分かった。
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しばらく経ってからセレナーデとポコがポコリーヌ星を案内してくれた。
ポコリーヌ星には至る所に「フガ」がそこで生活していた証が残っていた。
自分は何も覚えていないのに確かに「フガ」は存在していた、その事実を目の当たりにして得体の知れない恐怖を感じた。
「もう『フガ』のことは知りたくない」
セレナーデとポコにそう伝えると2人は一瞬悲しそうな顔をしたあと「分かった」と笑顔で答えてくれた。
「フガ」にとって大切だったであろう2人を私は傷つけてばかりだ。自分勝手だと分かっていた、それでも、頭がおかしくなりそうだった。
私は本当に「フガ」なのか?
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何も思い出せないまま月日は流れ、私とポコは宇宙の敵に対抗出来るプリキュアを探すために地球を訪れ、その先で出会った錠前とクレソンと共に過ごしている。
2人に出会ってからポコは暗い顔をすることが無くなり、明るくなったように思う。恐らくこれが本来のポコなのだろう。もしかしたらセレナーデも地球に来れば、ポコのように明るく笑うようになるのだろうか、そんな考えが頭をよぎる。
「フガはよくポコの真似っ子をしてたポコ!」以前ポコがそう言っていたのを思い出して始めた語尾に「フガ」と付けて話す話し方にも随分と慣れてきた頃、クレソンがこう話してくれた。
「私ね、プリキュアの事とかまだ全然分からないし、正直最初は面倒臭いな〜って思ってたの。でもね、プリキュアに変身して、自分の命よりも大切な人を自分の手で守れて、すごく誇らしい?っていうかプリキュアになれて良かったって心の底から思ったの。フガ、素敵な魔法を私にプレゼントしてくれてありがとう。私フガに出会えて良かった!」
自分の身を危険に晒してでも大切な人を守れて嬉しいと笑うクレソンに自分自身の命よりもポコを大切に思っていた「フガ」を重ねてしまう。
「クレソンはどうしてそこまでして大切な人を守りたいフガ?」
「んー、その人が居なきゃ今の私は生きていなかったから、かな?」
分からない。
どうして自分が生きているのか。
自分が本当に「フガ」なのか。
それでも、何も覚えていない自分を大切に想ってくれている人がいるならば、生きていたいと思う。
「フガ」の事を、自分自身の事を、もっともっと知りたい。
「ポコ、フガの事もっと教えて欲しいフガ」
例え何度記憶を失おうとも、私のことを「フガ」と呼んでくれる人がいる限り、私はフガとして生きていく、そう誓った。