「……眠れないのか?」
カーテンの隙間から漏れる街灯の明かりの下、檀がぼんやり目を開けていた。
布団の中で、背を向けている太宰に声をかける。
「うん、ちょっとね」
太宰の声はかすかに揺れていた。
「雨音がうるさくて?」
「ううん。違う。……生きてると、時々“やりすごした日”があるなって思って。今日が、まさにそれだった」
檀は眉を寄せて、少し身を起こす。
「……やりすごしただけでも、立派だと思うぞ」
「……お前は、やさしいね。ほんとに」
太宰はぽつりと言って、少し笑ったようだった。
「やさしいっていうか……お前がここにいてくれてる、それだけで、俺としては万々歳だ」
「ふふ。それ、言ってる本人は簡単でも、受け取る方は泣きたくなるんだよ」
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