年越しの二人「今年の年越しバトルは、ダンデ・キバナペアの優勝です!!!」
ナレーションの声とともに、会場からの声援と拍手が響いた。画面越しでも、二人のバトルが盛り上がったことが伝わってくる。
「あれ?寝過ごしちゃった」
まだ、準決勝だったはずなのにいつの間にか終わってしまっていた。こたつの心地よさに負けてしまったのは今回だけじゃないけど、なんだか悔しい。
うー、とうなりながら、身体を伸ばすと、キッチンからいい匂いがしてくるのに気づいた。
おしょうゆとおだしの香りだ。最初はなじみのない味と香りにおどろいたけど、今では食卓にお醤油がないと寂しいくらいだ。
そのまま、伺うようにキッチンをのぞき込めば、コンロの前に立つ彼がちょうど振り返った。
「遅くなってごめんね。少し手間取ってしまって」
「いいえ、私の方こそお手伝いもせず、ごめんなさい」
実はこたつで眠ってしまったと伝えると、
「えっと、僕の国では12月31日の夜に、このおそば、年越しそばを食べる習慣があります。そばは細くて長いので、来年も健康で長生きできるようにという願いと、」
彼はひとすくい麺を持ち上げると少し力を入れる。麺はプチリと簡単に切れてしまった。
「そばは切れやすいから、一年の厄を断ち切るという意味もあります」
「素敵ですねぇ」
「僕は小さい頃から食べてきたものだけど、君も良ければ」
「はい、もちろんいただきます」
箸をとって、
「すごい、具だくさん。エビの天ぷらに、たまご、お肉・・・他にもたくさん入ってる」
具がたくさん入っていて、なかなかそばにたどり着けない。それでもそばを掬い出して、一口すする。だしといろんな具材からでたうまみが口一杯に広がる。美味しい、それにとっても温まる。
「これが、カブさんの家の味なんですね」
早く作れるようになって、今度は私が彼に作ってあげたいという思いを込めて伝えると、彼は露骨に目をさまよわせる。
「ごめんなさい。張り切ってしまいました」
「え?」
「君がいると思って、いろいろと入れてしまいたくなって。・・・普段はそばとネギしか入っていません」
なぜか頭を下げるカブさんに笑ってしまうけど、それもどこか彼らしい。
「去年もですか?」
彼は記憶をたどるように上を見上げると、苦笑いをした。
「あぁ、そうだね。・・・去年は、飲み会が終わった後、寝ようと思ったんだけど、何か決まりが悪くて、麺だけゆでて食べました」
ネギも入れませんでした。と白状するかぶさんは本当に生真面目でそこが愛おしい。
「来年は一緒に作りましょう、豪華じゃなくていいから」
「うん、そうだね」
少し恥ずかしそうに笑う彼が頷いてくれたことに安心しながら、あたたかい湯気に目を細めた。