ーこの想いは…きっと伝えてはならない…だって…あんなに楽しそうに子供の話をしてるあんたに言えるわけないじゃないか…ー
講義も午前のみで暁人はアジトに向かいKKが散らかしたゴミや資料を片している最中凛子が声を掛けてきた。
「暁人くん最近起きてる怪異事件について調べてきてほしいの」
「怪異事件…?」
凛子は暁人に怪異事件についてと書かれている資料を渡すと一口珈琲を飲む。暁人は資料を受け取ると内容を確認した。
「これは…」
「最近花を吐く呪いにかかった人が続々と亡くなってるらしいわ。偶然にも花吐きの呪いにかかったけれど解呪に成功した人が私達に相談してきたところよ」
凛子が説明書に書いてある内容を説明しつつその説明が書いてあるところを暁人は追いかけるように読んだ。
「解呪に成功したって事は絶対に死ぬ呪いではないんですね?」
「そうよ。その解呪は最後のページに書いてある通り想い人とのキスよ。」
「キス…え?キス?」
暁人は凛子の言った言葉に首を傾げ鸚鵡返しの如く言葉を返した。
「それ以外の被害者が解呪出来ずに亡くなってしまったから情報が少なくて悪いわね…」
「いえ、大丈夫です。被害者の方はどこでこの怪異に?」
パラパラと資料を見ながら凛子に問うと凛子は「429の裏路地らしいわ」と答えてくれた。確かにあそこは人が多い分そういう怪異が出やすい。暁人は納得し資料をボディバッグに仕舞うと札と破魔矢の数を確認する。確認が終わると凛子に「行ってきます」と告げ玄関に向かう。
「暁人くん、絶対に無理はしないで。危険だと思ったら必ず逃げるのよ」
「分かりました。気を付けます」
凛子の言葉に返事を返し暁人は今度こそアジトから出る。目的地は勿論生き残った被害者の言っていた「429の裏路地」だ。
暁人は気を引き締めて辺りを見渡し人がいない事を確認すると霊視を行う。だが穢れなどどこにも無く首を傾げていた瞬間後ろから「すみません」と声がかかり暁人はビクッと肩を震わせ慌てて後ろを見た瞬間後ろを見た事を後悔すると同時に何故霊視で反応できなかったのか理解する。数多の人を呪いすぎて人に溶け込むことが出来るほど力を持った怪異だったからだ。
「貴方、恋してるのね」
「だったら?悪いけど浄化させてもら…っ?!」
浄化する為印を結ぼうとした瞬間どこからともなく蔦が両手を縛り上げる。
「きゃはははっ私の方が早かった。ねぇ、お兄さん?貴方の恋心、私に見せて?」
そう言うと怪異は暁人の鎖骨辺りを強く噛み付き傷を作る。そして数秒も経たない内にその噛み跡は薔薇のような模様に変化した。
「なっ…ぐっ…ごほっごほっ…っ」
薔薇の模様が完成すると同時に暁人は言いようのない不快感が胃から込み上げる感覚に咳き込むと口から花弁が数枚落ちる。それを怪異は1枚摘むとパクリと口に放り咀嚼した。
「嗚呼…美味しい…貴方の恋心はとても美味しいわ…そう…私を捨てたあの人のように温かく…許せない…っ」
怪異は暁人の肩に爪を立てると傷をつける。その痛みに暁人は顔を歪め耐えるしかできなかった。
「あら、ごめんなさい。あの人に似てたの、だから許せなくてつい貴方のタイムリミット少なくしてしまったわ。でも大丈夫、ほんの数時間しか時間がないだけだもの。まだ時間はあるわ。だからそうね…好きな人に最期の挨拶をしてきたら良いわ」
そう言うと暁人を解放して笑い声を上げながら怪異は姿を消した。
暁人は花が込み上げそうになる喉を抑えながらスマホを出すと凛子に電話を掛ける。数回呼び出し音が鳴った後「もしもし、暁人くん?」と凛子が電話に出た。
『すみません、凛子さん…怪異は…力を…ゴホッ付けすぎて、人に紛れてました…不意打ちを、食らって…ゴホッゴホッ…はぁ…呪われてしまいました…』
「そんな…だって貴方…」
『今から……に…向か………すみ………ん…』
怪異からの干渉なのかノイズが激しく凛子は暁人の言葉を最後まで聞けず電話は無慈悲にも切れた。
「暁人くん?!…暁人くん!」
「おい、暁人がどうした」
電話が切れた音を鳴らすスマホを切りゆっくり降ろしながら凛子は声がした方を向く。そして声を掛けた人物を確認すると口を開いた。