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    夢魅屋の終雪

    @hiduki_kasuga

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    夢魅屋の終雪です。推しのRがつくものを投稿してます

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    夢魅屋の終雪

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    #ちょんと一緒 #しーちぇんといっしょ #創作モブ
    新しいシリーズはっじまるよー!
    ちょんと一緒と同じ世界線

    しーちぇんといっしょ暗闇の中で、子供の泣き声が聞こえる。
    どこかで聞いた事のあるような、ないような、そんな曖昧な記憶をたどりながら誰の声だったかを思い出す。
    けれど、やはり聞いたことがない。その涙は遠い記憶で知っていた。
    その涙を見たのは、暗闇ではなかった。水面に光が反射した蓮池が一望できる夏の日差しから守られた大きな廊下だった。
    その声は、聞いた事がない。その涙は、寂しいと静かに流れ零れ落ちていた。

    それでも、俺は―――その涙を知っていた。

    『びぇえええええええええ!!!!!』
    「うるせぇええええ!!!!」

    別の子供の泣き声が、耳鳴りのように脳裏に響いて場所もわきまえずに怒鳴った。
    すると側で働いていた主管と補佐官が、コチラを見て目を丸くしている。
    軽く咳払いをして「少し席を外す」と言って、執務室を出た。
    背後で、二人に不安そうに「うるさかったでしょうか」と声をかけている門下生の声が聞こえた。
    誤解だと弁明をしようかと思うが、頭の中で泣き叫ぶガキを優先した。
    アレがこんな風に泣くのは、初めてだと思うほどに切羽詰まっ泣き声だったからだ。
    二人がどうにか宥めてくれるだろうと、期待を抱いて戸を閉めた。

    「おい、ガキ。どうした」
    『にーにがぁ!!!!にーに、たおれたぁ!!!』
    「はぁ?!」
    『あさから、ずっとおねつだったの!!だけど、らいじょうぶらよってぇええ!!!!」

    先ほどからびえんと泣き叫ぶ子供は、俺の分身である。
    魏無羨の金丹を移植した時に、万が一にでも俺の金丹が復活した時の受け皿にするために作った術式だ。
    本来なら魏無羨の金丹が、俺に定着すれば肉腫としてとれるはずだったのだが
    幸か不幸か肉腫ではなく、俺が我慢してきた願望が疑似人格を持って人型になって生まれたのだ。
    俺の願望なんて始末してしまおうと思ったのだが、逃げられた。
    そして、あの人が『江宗主。君が必要ないと言うのなら、君の心を私に下さい』と言って保護をした。
    あのガキの記憶は、俺にとっては鮮明に覚えている夢のよう。
    しかも驚く事に、俺が眠るか意識を失えばあのガキの所に俺の魂は移行される事になった。
    そう、夜な夜な俺はあの人の所に居るのだ。
    悪夢にうなされているあの人の霊力は、無茶な閉関修業により不安定に膨張していた。
    その為、俺は分身が器であった事も利用してその霊力を食らって安定させていたのだ。

    ―――それが、どんな作用を引き起こすのかも知らないで。

    「魏無羨は側に居ないのか?含光君は?!」
    『みっかまえから、よがり!!」
    「ぱーぱは?!あと杏林医聖は?!」
    『ぱーぱもいしゃも、いないのー!!』
    「あー…あと、あれ!!騒がしいのとおとなしいのは!?」
    『いゆけど、やくただずぅううう!!!』

    思いつく限りのメンツの名前を挙げていくが、ことごとく留守か役に立たないと言う。
    まぁ、親のように慕っている宗主が倒れたとあれば、あのガキ共は役に立たないだろう。

    「おい、俺!ガキ共に、ぱーぱと杏林医聖に連絡を取らせろ!」
    『ん』
    「今から、そっちに行くから!にーにの側に居てやれ。できるな?」
    『ん!』

    俺も心なしか焦っていたから、俺が意識を飛ばせばよかったのだ。
    執務室の戸を乱暴に開くと、補佐官の襟をつかんだ。

    「観世!俺を雲深不知処に送ってくれ!!」
    「へ?!」
    「沢蕪君が倒れた!!!」

    どうして知っているんだ?と言う質問なら、あとで聞く!問答無用で、転送符を使わせた。

    ―――雲深不知処の中ではなく、一番離れた麓に現れる。

    補佐官は霊力を使った疲労で、地面に手と膝をついていた。
    二人で飛ぶなんて事は、滅多にない。術を習得していたとしても、使いこなせるかは術者次第だ。

    「すみません、このような所で……」
    「いや、大丈夫だ。助かった」

    御剣で飛ぶよりも早くたどり着いた事に感謝をして、山道を登っていく。
    すでに姑蘇藍氏の結界内であるために、三毒で飛ぶ事は適わない。
    「私は、少し休んでから行きますので」と、補佐官に手を振られてる。
    まだ門前であるため、走って山道を登った。
    土と草の道から、玉砂利の道になる頃にようやく門が見えてきた。
    肩で息をしている俺を見つけた門番が、駆け寄ってきた。

    「江宗主!?いかがなさいました!」
    「沢蕪君に、藍宗主にお目通りを願いたい。火急の用だ」

    こんな時に、騒がしいのと大人しいのの字を覚えていなかった事に痛恨の失態だと思える。
    仕方ないだろう、他家の門下生の字まで覚えられるか!
    連絡が言ったのか、ちょんが騒いだのか解らないが、すぐに大人しいのがやってきた。

    「お待ちしておりました、江宗主!」

    丁寧な拱手ではあったが、焦りが顔に出てしまっている。
    藍氏門下生としての手本のような修士だが、まだまだガキと言う事だ。
    いや、焦っているのは俺も同じか。

    「つい先ほど、藍先生と杏林医聖がお戻りになって診察を」
    「俺が来た意味あったか?」
    「はい。少々、大変な事が起こりまして」

    大人しいのは、俺を寒室に案内する道なりで現在の状況を説明した。

    ああ、うるさいな。頭の中で先ほどから子供の泣き声が聞こえている。

    俺の分身であるちょんではない、子供の泣き声だ。

    泣くんじゃない、俺が来たぞ

    寒室に、たどり着くと子供の泣き声が響いていた。
    静かな雲深不知処には、不釣り合いな騒音だ。
    お陰で、寒室の周りには様子を見に来ている仙師や門下生がちらほらいる。

    「江宗主ぅうう!!!」
    「騒がしいの!お前まで泣いて、どうする!」

    びえぇええと泣いているちょんを抱きしめながら、不安げな顔で駆け寄ってくるのはいつも騒がしい奴だ。
    藍氏らしからぬ門下生だと、俺は常々思っている。
    ちょんをそいつから、抱き上げる。本体である俺が来たからなのか、泣き声が収まる。
    しかし、子供特融の大きな目からはぼたぼたと涙がこぼれている。
    こいつに触れていれば、不安だと心配だという感情が流れ込んでくる。
    疑似人格であるのに、不思議で仕方ない。しかし、その感情は少なからずとも俺にもあった。
    ゆえに、子供のような俺は感情が膨張しているのだろう。

    寒室に入り、寝室に向かう。
    沢蕪君の霊力が、まるで嵐のように感じる。
    どうして、騒がしいのが外に居たのか解った。耐え切れないからだ。
    しかし、この感覚は俺は知っていた。

    「失礼する」

    やっとの思いで寝室にたどり着くと、臥牀を結界で覆っている藍啓仁先生と杏林医聖の藍悠瞬が居た。
    そこはまるで、嵐の中心部のように無風であり霊力の塊が苦しんでいる藍曦臣の腹のすぐ上にあった。
    二人は、まるで俺が天の助けと言わんばかりの顔で振り返った。

    「よぉきましたな!!」
    「江宗主、忙しい所すまぬ」
    「いえ、どうなっているのです」

    状況説明を求めれば、藍先生は教えてくれた。
    先生曰く、閉関修業で霊力が膨大に膨れ上がり沢蕪君が耐え切れなくなった。
    ちょんが来てからは、ましになっていたのだが今朝から急に不安定になったのだと言う。
    昨晩は、確かにいつものように霊力を食らったはずなのだが?どういうことだ?

    「今日は、曦臣の霊力が最も高まる日なのだ」
    「なんと」
    「ちょん殿がいても、抑える事ができぬ。むしろ、ちょん殿が壊れてしまう」

    あにぐるみと呼ばれるちょんから漏れた霊力の器すら今は、ずたずたであった。
    あの、砂がこぼれてるんだが、幼子に砂袋背負わせてたのか?!いや、今はそれどころじゃない。
    霊力を食べすぎたからなのか、ちょんの疑似人格は不安定で泣いているのだろう。
    「ぱーぱ」と泣くので、藍先生にちょんを預ける。

    「私ら、藍氏の気だと抑えるので精いっぱいなんよ。金氏やと、すこしばかし問題があってなぁ」

    金光瑶…頭に浮かんだ人物。沢蕪君が閉関を行う事になったきっかけだ。
    ゆえに、彼と似た金氏の霊力で藍氏の霊力をそごうとしても悪化する可能性が高い。

    「……試してみましょう」

    二人が結界を張ってくれている中で、俺は沢蕪君の霊力の塊に向かって手を伸ばした。
    ここから、子供の泣き声が聞こえる。

    そうか、貴方は―――……。

    「大声で泣きたかったんだな」

    ただの霊力の塊が、小さな子供の手の形となる。徐々に霊力は収縮して幼子の形になっていく。
    ぽふっと、俺に抱き着く幼子は鹿のような角をもち青白い鱗に覆われた蛇のような鯉のようなしっぽを持っていた。

    「青、龍?」
    「ちがいまし!しーちぇんでし!」

    舌足らずな子供の声が、その場に響いた。

    ―――生まれた青龍ことしーちぇんは、ちょんが沢蕪君から離れないように俺から離れなかった。

    霊力を放出させた沢蕪君は、目を覚ましたが体調が芳しくない。
    泣き疲れて眠っているちょんの頭を撫でながら、俺に礼を告げてきた。

    「江宗主、ありがとうございます」
    「礼を述べられるようなことはしていない」
    「その子、預かっていただけるのでしょう?」

    にっこりと、藍先生に支えられながら微笑むその人に『無理』とは言えなかった。
    肉腫のちょんとは違って、このしーちぇんは霊力の塊。空中をふよふよと漂いながら、俺の側を離れない。
    無理だと拒絶しようものなら、ちょん顔負けの大声で泣きだすのだ。
    そもそも、なんで俺なのだ。
    甘える相手なら、藍先生でもそこにいる貴方の再従弟でもいいじゃないか!

    「江宗主ー!お供の方が来てますよー」
    「霊力強すぎて、気持ちわる……よくこんな所に居れますね」

    寝室の窓越しから、騒がしいのと大人しいのに支えられている補佐官は口元を抑えていた。
    霊力に酔ったらしい。
    しかし、沢蕪君の膝に居るちょんを見て「私の願望かな……お世継ぎが見える」とほざいたので、客坊に連れて行かせた。
    どうせ、杏林医聖が診てくれるだろう。
    沢蕪君は、ちょんと藍先生に任せるとして……だ。
    浮遊しているしーちぇんに、言い聞かせなければならない事がある。

    「しーちぇん」
    「あい」
    「俺は、夜はこちらに来ている。ゆえに、夜中は相手をしてやれん」
    「らいじょうぶでしよ。しーちぇんは、あーほあんらから、ねんねはあーほあんところらもの」
    「そうか、そうか……なら、安心か」

    ぎゅっと顔に抱き着いてくるしーちぇんを、片手で支えるように添える。
    霊力だが、実態があるような気分だ。
    しかし、がたっと臥牀から音が鳴る。
    真っ青になって今にも血を吐きそうな藍先生と真っ赤になっている沢蕪君。

    「どうかなさいましたか?」
    「き、聞いてません!」
    「何を?」
    「夜な夜なちょんが、君になっているなんて、私、聞いてません!!!」

    そう雲深不知処ではあまり聞きなれない沢蕪君の大声に、目を丸くした。
    そして、貧血を起こしたのか藍先生へともたれかかる。
    ああ、大声出して、興奮するから……。
    呆れたように見つめていると、ちょんが沢蕪君に抱き着いた。

    「澄ね、よるになるとちょんになるのよ」
    「……ちょん、知ってたの」
    「ん!」

    元気のいいお返事だ。子供のころの俺は、こんなに素直ではなかった。
    顔を隠して、臥牀に寝込む。

    「何を恥ずかしがってるんだ。
    俺の腹に抱き着いてめそめそ泣いてるくらいか、自分の霊力に負けて魘されてるくらいだろ」
    「とどめ刺さんといてあげて!!」

    杏林医聖、今にも吹き出しそうな顔をして庇っても意味がないぞ。

    「俺だって、貴方に甘えているんだから別に構わないだろ」

    まぁ、甘えるのが増えただけだがな。
    先ほどまで泣いていたしーちぇんが、今はにこにこして俺に頬ずりをしている。

    「時に、しーちぇんはちょんと同じで藍宗主の願望か何かなのか?」

    にやっと笑いながら、臥牀で耳を真っ赤にさせてうつ伏せになる沢蕪君に尋ねる。
    すると、こくりと頷いた。

    「なるほど、悪い気はしないな」

    詳しい事は、後々に魏無羨が調べるだろうし、補佐官もいるからうちでも調べられる。

    「しーちぇん、お前は何ができるんだ?」
    「しーちぇんね、あーほあんがしってることぜんぶできましよ!」

    どやぁと自慢げに言ってくる。つまり、実態があるか無いかの違いだけでちょんと同じようなものか。

    「そうかそうか、なら……移動式の蔵書閣って事だな」
    「あい!」

    よっしゃ!二時間以上かけずに、雲深不知処に通わなくて済みそうだ!
    しかし、我に返った藍先生がしーちぇんに向かって叱咤する。

    「あい!じゃない!!しーちぇんよ!!江宗主に願われたとしても、藍氏の秘密は漏らすでないぞ!」
    「……あい」
    「不服そうな顔をするな!」

    ぷくっと頬を膨らませて俺の背後に隠れるしーちぇんに、藍先生はうつ伏せになってちょんを抱えている沢蕪君に寄りかかる。

    「はぁ…。まったく、三歳の頃のお前とそっくりだ」
    「本人ですからね…」

    幼いころの黒歴史を見せられる気分はどうだ?と言いたくなるが、病人を弄るのはやめておこう。



    ―――のちに、魏無羨と補佐官の調べによって解った事だが、
    しーちぇんは、沢蕪君の願望を叶えれば叶えた分だけ、沢蕪君の霊力が安定して還元されると言うらしい。
    また沢蕪君の願望が増えたり霊力が不必要に増えたりすると、しーちぇんは還元できるまで実態する。

    「藍宗主の願望を叶えれば、しーちぇんは藍宗主に還元されるのか」

    それはいつになるのか、まったく予測がつかないほどに強い霊力だ。

    「ま、沢蕪君には俺が世話になってるし、しーちぇんは俺が面倒見ればいいか」

    ちょんと違って、仕事の補佐ができるのはすでに検証済みだ。
    さすがは歩く蔵書閣。さすがは、沢蕪君の分身。本人が、ポンコツでも分身は言えばちゃんと使える。

    「ふ、ふふふ……。ずっと居てくれて構わんからな、しーちぇん」
    「あい!」

    抱きしめて頭を撫でてやると、嬉しそうに微笑んだ。





    ◆◆◆

    主管「しーちぇん殿は、返した方がよいのでは?」
    梓「ですが、仕事ははかどりますよ」
    主管「それは、まぁ…解るのだが」

    だって、沢蕪君はちょんを甘やかしているのに、家の宗主ときたらしーちぇんを酷使しているようにしか見えない。

    梓「無理に引きはがしたら、ギャン泣きしますし」
    主管「……そうだな。沢蕪君の気が済むまで、御側に置いておこう……」

    こうして蓮花塢に、新たな住人が増えたのであった。
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