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    lin_co10ri

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    #降志ワンドロワンライ 第16回参加作品です。
    CP「降志」
    所要時間 約2時間
    お題『台風』『手』『待ってた』

    #降志
    would-be

    嵐の後「…ねえ知ってる? 台風も、ど真ん中にいるとね。強い風も雨も何も感じないのよ」

     それは常識として把握されていることだ。台風の目に入るとどんな嵐の中でも、瞬間穏やかな青空が広がることもある。だが彼女が言っていることは、そういうことではなかった。

    「黒い渦のような殺伐とした環境もそれが当たり前だとね。異常や異変に気づかずのうのうと過ごせるのよ」
     それが、私よ。そうして出来た、異端者だわ。
     そう言って。彼女は、姿を消した。



     台風一過の朝。昨晩までの荒れ模様が嘘のように、空は青く澄み渡り眩しい日差しが降り注いでいる。
     降谷も連勤明けの朝を、迎えていた。台風接近の前から任務で詰めていたのだが、引き続き非常時対応の体制に入っていたわけだ。大きな被害が出なくて良かったと、一息つく心地で水たまりが光を浴びて輝く、路面を歩く。
     嵐が過ぎると。暗雲を全て取り払ってこうして、目映く美しい世界に出会わせてくれる。彼女だって。そうして光の当たる場所に、元々与えられて当然だったありふれた幸せに、出会っていい、出会うべき存在であるのに。
     彼女、宮野志保が姿を消して。5年の月日が経過していた。

     もちろん容易く姿を消せる立場には。彼女は、いなかった。
     でもそれが実現できてしまったのは。公安警察という組織を凌駕する、同等の機関か国家権力が動いたのと、公安内部にも綻びがあったからだろう。だいたいの見当は降谷にもついた。でも彼はその事実を受け止めた。彼女のもっと身近な人たちが。それを受け入れて、いたからだ。
     彼女は、どうしているのだろう。あんな後ろ向きな発言を残し。姿を消したのに、不穏で不安な予感は、何も抱かなかった。悔しいが。見当がついている彼女の行き先に、相応の信頼を、降谷自身も置いているのだ。実は秘密裏に裏も、取っていた。
     ……不安なのは。このまま二度と会うことがない可能性。それが頭に過ると。足元から崩れ落ちるほどの不安定さに襲われる。
     雨上がりの景色が水滴とともにぐらりと揺らぎそうになった時。そこに華奢な黒のパンプスが映り込んだ。

     濡れた路上に立つその足先から目線を上にあげると。目に飛び込んできたのは、思い描いていた、かの女の姿。
    「………」
     黙って見つめてくる降谷に。記憶よりもさらに輪をかけて美しくなった面輪をすっ、と伏せて。彼女が、志保が言葉を紡ぐ。
    「…別に。気まぐれで来ただけよ。驚かせたなら、ごめんなさい」
     何故謝るんだ。それも姿を消したことではなく。姿を見せたことに対して。


    ──『君が、好きだ』
    『知れば知るほど好きになる。目が離せなくて気になって仕方がない。君のことが大切なんだ』
    『俺のそばに、いて』

     あの頃ようやく叶った彼女との邂逅を経て。
     降谷の感情は初めて知ると言ってもいい、激情の渦に飲み込まれていた。渇望と憧憬が交差し、扱いきれない熱く逸る気持ちが、刹那的な彼女の姿に不安を煽られ、溢れ訴えることしか、できなかった。
     それを最後に、彼女は姿を消した。…彼女は。明らかに降谷からも、逃げたのだ。

     志保の意思を、選んだ道を。尊重しようと身を律し自らを抑え、長い年月を過ごした。だけど。
     降谷はすっ…と、志保に向けて手を差し出した。
    「…待ってたよ。ずっと」

     その手を彼女は驚愕で見開く瞳で見つめ。そしてみるみると涙を溢れさせる。
    「ば…、ばっ、かじゃないのっ!?」
    「……うん」
     そうだな、莫迦な男だよ。君を近くで支えることさえできず。みすみす見送ることしかせず。
     …だけど。待ってた。信じてた。
     2人の中で通じ合い、引きつけ合った鮮烈な印象は。互いに何にも代えがたい忘れがたく必然であった、ものだと。
     求めずには、いられないんだと。

     …その時は。君も戻って来てくれると、信じていた。
     手を引っ込めようとしない降谷に。涙で濡れた瞳で、その手を信じられないもののように見つめていた志保だったが、やがて震える自らの手をそっ…と重ねてきた。
     わずかに触れた瞬間。降谷は力強くその手を捕らえ、思い切り志保の体を引き寄せた。
     互いに感極まって声にもならない。ただ自らの胸に、この腕の中に、志保がいて彼女もか細い腕を降谷の背に添えてくれた時。
     あるべき場所に、互いに戻ってきた気がして。そのぬくもりを、幸福を確かめるように大切に抱きしめた。
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    黒護にゃちょこ

    MAIKINGかきかけの降志小説から抜粋解毒薬が無事必要在るべきところに渡った後は、私は恐らく然るべき処分を受けるだろう。そうなる前に、母からのテープを最初から最後まで聞かなければと思い、部屋で一人、ベッドに横たわりながらカセットのスイッチを付けた。

    古ぼけた音が途切れ途切れに響き渡る。このテープは、そろそろ限界なのだ。眼を瞑りながら母の音にひたすら集中すると、この世とあの世が繋がる感覚に陥る。途切れる度に現実に押し戻されるので、まるで「こちら側にくるにはまだ早いわよ」と言われているようだ。音の海に流されていると、ふと「れいくん」という単語に意識が覚醒させられた。

    「れいくん」

    その名を自分でも呼んでみる。誰だろう。巻き戻して再度テープの擦る音を聴くと、どうやら母に懐く近所の子どもらしかった。

    「将来は貴女や、日本を護る正義のヒーローになるって言ってたから…もしかしたら、もしかするとかもしれないわね」

    もし、叶っていたら、その「れいくん」とやらは、警察官にでもなっているのかしら。…いえ、きっと、そんな昔の約束なんて…白鳥警部じゃあるまいし。それに、今更だわ。

    「もう決着は着いちゃったわよ…れいくん」

    あまりにも 676