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    yukuri

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    yukuri

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    🐑🔮2
    付き合っている二人のお話が続きました。

    #PsyBorg

    紡ぐ軌跡よ永遠となれ ゆるい意識の波がゆっくりと引き起こされ、目が覚めた。
     カーテンから漏れ出た光が心地よい朝を告げている。
     一つ伸びをしてリビングへ向かうと、軽やかな鼻歌が聞こえてきた。
    「おはよう、浮奇」
    「ふーちゃん、おはよう」
    「紅茶?」
    「いや、コーヒーを頼む」
    「ふふ、了解」

     三年付き合った恋人、浮奇ヴィオレタと婚約をしたのが数週間前。
     お互いの仕事の様子を見つつ、新居や入籍準備など自分たちのペースで進めている。
     今日は浮奇の親族と初めて会う日だった。

     浮奇は生まれてすぐに両親を事故で亡くし、遠い親戚に引き取られた。山と川に囲まれた小さな田舎で高校までを過ごしたが、集落としての同調、協調性を重んじる人間関係にうまく馴染めず、高校卒業と同時に都会へと一人赴いた。
     上京をして、右も左も分からない浮奇に手を貸してくれたのが、浮奇のはとこに当たる人物だった。

    「二人の結婚なんだから挨拶なんて気にしなくてもいいのに」と浮奇は遠慮したが、二人の結婚だからこそ挨拶をさせてほしいと頼んだ。
     浮奇には一人でも多くの人に祝福されてほしいという俺の勝手な我儘だ。

    「ふーちゃん、緊張してる?」
    「そんなに分かりやすいか」
    「何か大事なことがある日の朝は大体コーヒー頼まれるから」
    「…本当だな。無意識だった」
    「ふふ、そうなの?」
     何か気合の入るものを、と浮奇のイメージが強いコーヒーを選んでいたことに言われて初めて気がついた。
     当然のように自分を見てくれている存在が暖かい。


     待ち合わせに指定されたカフェに着くと、その人物は浮奇が入ってきたことに気がつき、こちらに手を振ってくれた。
    「はじめまして。ファルガー・オーヴィドと申します」
    「はじめまして、闇ノシュウです。浮奇も直接会うのは暫くぶりだね」
    「うん」
     仕草や姿勢、言葉の節々から品の良さが伝わる男性は、浮奇と同じように優しく目を細めて笑う人だった。
     見知らぬ土地で一人、生活を始めた浮奇の側に、心優しい人が居てくれたことに感謝する。

     自己紹介もそこそこに、結婚の話題へと移り、婚約したこと伝えた。浮奇が交際していることを事前に伝えておいてくれたからか、シュウは特別驚いた様子もなく微笑んだ。
    「親戚の僕にまでわざわざ会いに来てくれてありがとう。浮奇の幸せそうな顔が見れて嬉しいよ。二人とも結婚おめでとう」
    「ありがとうございます」
    「ありがとう」
    「…さてと。堅苦しいのはここまでにしてスイーツでも注文しない?ここのアイスケーキは絶品なんだ」
    「はは、いいですね」
    「ふーちゃんも敬語なんかやめてさ。多分だけど、僕と同世代でしょ」
    「ふーちゃんって呼ばないで」
    「ははは、ごめんごめん」
     悪戯に笑うシュウが、時折いたずらを仕掛けて来る浮奇の姿に重なる。
     浮奇の魅力的な人柄の一部はこの人に影響されたものだと知る。

     薦められたアイスケーキを食べながら、シュウは浮奇の昔話を楽しそうに話してくれた。浮奇は恥ずかしそうにしていたが、今では会うことが叶わない時代の浮奇のことを聞けて大満足だ。
    「僕ね、浮奇が声を上げて笑うのが好きなんだよね」
    「そうなの?」
    「いつも落ち着いているから、感情が見えると嬉しくなって。それでね、ここ最近電話で浮奇はよく声を上げて笑うようになったなって気付いて。何か理由があるのかって考えていたんだけど、今日ファルガーに会って納得しちゃったよ」
    「…?」
    「ファルガーも声を上げてよく笑うじゃない。恋人って一緒にいると似てくるっていうでしょ」
     真正面からの指摘に二人して照れ、沈黙。シュウの上品な笑い声が店内に心地よく響いた。

    「ふーちゃん、今日はありがとう」
    「こちらこそ」
    「俺はほとんど話を聞くだけだったけど」
    「青年期の浮奇の話が聞けて楽しかったよ」
    「……ふーちゃんが喜んでくれたならよかった」
     穏やかな雰囲気のまま帰宅し、浮奇は紅茶を二つ淹れた。
    「シュウがさ、言ってたでしょ。俺がふーちゃんに似てよく笑うようになったんだって」
    「ああ」
    「…人と話す時もね、人を否定しないふーちゃんの話し方が好きで、倣ってみようって心掛けてたの。そうしたら、前よりも人の話がすんなりと耳に入ってくるようになって。話をするのがもっと楽しくなった。これもふーちゃんのおかげ」
    「……俺も浮奇に怒られてから水回りの掃除が得意になったな」
    「最初に出るのがそれなの」
     不満げにぷくりと頬が膨らんだ。宥めるようにキスを落とせば、ふわりと笑顔が咲く。自分の前で心を許してくれるこの人は、こんなにも愛おしい。
     この愛おしい人の心中に自分の居場所があると、自惚れてもいいだろうか。




    『この度はご応募いただき誠にありがとうございました。厳正なる審査の結果、ーー様はーーー』




    「浮奇、すごいぞこれは」
    「うん…すごいねこれは」
     二人して語彙力がなくなってしまうほどの露天風呂付きの豪華な部屋に舌を巻く。
     1週間の休みをとってやってきたのは日本。
     二人で話し合い、結婚式はしないことに決めた。その分豪華な新婚旅行にしようと計画したのだ。
     ファルガーは仕事を区切りの良いところまで終わらせ、有給を使って休みを取った。
     浮奇は、バーテンダーの仕事を暫く前から休ませてもらっている。
     実のところ、浮奇はバーテンダーとしての仕事を辞めるつもりでいるのだ。胸の内に潜めたある思いがあるのだが、まだファルガーには話せていない。
     俺が自分の言葉で話せる時を待ってくれている。彼のそういう深い優しさが心の底から大切で愛おしい。

     長時間のフライトで疲れた体をお風呂で癒し、彩り豊かな日本食を堪能した。
     英語対応をしている宿にした為、不自由なく過ごすことができたが、夕食の際、一生懸命覚えた日本語で「ノーたこ焼きですか?」と尋ねていたふーちゃんは可愛かった。

    「どれも美味しかったね」
    「ああ、絶品だった」
    「ふーちゃんもう寝る?」
    「浮奇はどうしたい?」
    「もう一回部屋のお風呂入ろうかな」
    「じゃあ俺も」

     ひんやりと静まる夜の空。まん丸な月がぷかぷかと浮かぶ湯に、二人は体をゆくり寛げた。

    「ふーふーちゃん」
    「うん?」
    「聞いて欲しいことがあって」

     仕事について、自分が本当にやりたいことについて。
     歌を仕事にしたいという夢があった。バーテンダーをしながらいくつかオーディションを受けたことはあったけれど、仕事を辞めてまで夢を追いかけられる自信がなかった。
     仕事を休んでいるこの期間、浮奇はデビューオーディションにこっそり応募した。そして今朝、出掛ける直前に二次審査を通過したとの連絡が届いた。
     最終審査は1ヶ月後。各自オリジナル曲を用意しなくてはならない。
     最終オーディションまで残ったこと、旅行後は仕事を辞め、歌に専念しようと思うこと。

     全てを聞いたファルガーは、自分のことのように喜び、おめでとうと抱きしめた。服が間にない分、彼の暖かさが直に触れて心地よい。
    「オリジナル曲なんてすぐに作れるものじゃないだろう。旅行は一度中断して延期ということもできるぞ」
     どこまでも優しい対応に笑みが溢れる。
    「ありがとう、でも旅行はやめたくない。沢山一緒に計画して楽しみにしてたし。それとね、オリジナル曲はもうほとんど完成してるんだ」

     恋を知り、自分を知り、心に触れたものを書き溜めてきたノートがある。それを元に、星空をモチーフにした物語調の曲を書き上げた。

    「それは楽しみだな」
     ファルガーは一息置いて、もう一度おめでとうと笑った。


    「結婚式、本当にしなくてよかったのか」
    「うん。周りの人からはもう充分すぎるほど祝福の言葉を貰ってるし。二人だけで式を挙げるより、この旅行が豪華になった方が嬉しいから」
    「じゃあここで誓っても?」
    「結婚の誓いの言葉…?」
     ファルガーはこちらに姿勢を正して向き直った。蜜を溶かしたような目で、彼は優しく誓う。

    「私、ファルガー・オーヴィドは浮奇ヴィオレタを一生愛し、支え、側にいることを誓います」

     滲む視界の奥でふわりと笑う彼の手を取り、誓う。

    「ふーふーちゃんに一生愛されることを誓います」

     微笑み合い、互いの色を混ざり合わせるような甘いキスを味わう。
     ただ幸せだけを享受する二人を煌々と照らす月が、揺れる水面に沈んでいく。
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    Replies from the creator

    yukuri

    DONE🦁🖋
    ボスになりたての🦁くんが🖋くんと一緒に「大切なもの」を探すお話です。
    ※捏造注意(🦁くんのお父さんが登場します)
    題名は、愛について。「うーーん」
    「どうしたの。さっきから深く考えてるみたいだけど」
     木陰に入り混じる春の光がアイクの髪に反射した。二人して腰掛ける木の根元には、涼しい風がそよいでいる。
    「ボスとしての自覚が足りないって父さんに言われて」
    「仕事で何か失敗でも?」
    「特に何かあったとかではないんだけど。それがいけない?みたいな」
     ピンと来ていない様子のアイクに説明を付け加えた。
     ルカがマフィアのボスに就任してから数ヶ月が経った。父から受け継いだファミリーのメンバー達とは小さい頃から仲良くしていたし、ボスになったからといって彼らとの関係に特別何かが変化することもない。もちろん、ファミリーを背負うものとして自分の行動に伴う責任が何倍にも重くなったことは理解しているつもりである。しかし実の父親、先代ボスの指摘によると「お前はまだボスとしての自覚が足りていない」らしい。「平和な毎日に胡座を描いていてはいつか足元を掬われる」と。説明を求めると、さらに混乱を招く言葉が返って来た。
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