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    🌸Sakura

    @sakurax666sword

    MHRのウツハン♀の民。

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    🌸Sakura

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    ウツハン♀
    ワンライ小説『イタズラは、もうしない?』の続きと言うかB面と言うか。

    ※愛弟子宅の作りを捏造気味。カジカさんが使っている正面のお風呂と別に、家の奥か裏手あたりに人間用の風呂場がある体で読んで下さい。

    #ウツハン
    downyMildew

    夜更けの反省会、それから仕返し虫の音だけが、小さな鈴を鳴らすように響いている。
    夜まではしゃいでいた里の子達の声もだんだんと減り、もう聞こえなくなった。今頃はそれぞれの家で寝息をたてている頃だろう。オトモ達やルームサービスも、オトモ広場で眠りについているかもしれない。
    冊子の頁をめくる。
    静かな家で、紙の音が大きく響く。
    紙面を眺めるが、あまり頭に入ってこない。目で追う端から言葉がどこかに消えていくよう。冊子を広げたまま膝に置き、宙を仰ぐ。
    『また後で話しに来る』と言っていた。あの人のことだから、夜遅くなってもきっと来るはず。
    招き入れる準備は整っていただろうかと、家の中を見渡す。この確認ももう何度目だろう。そう言えば、自分の髪や服におかしなところはないか、ふと気になって手鏡を取りに立ち上がる。
    その時、蟲を飛ばす音が微かにした気がした。続いて、土を踏む音、控えめに扉を叩く音。
    「愛弟子…起きてるかい?」
    「はい」
    囁き声に近い教官の問いかけに、同じく小さめに返した返事が聞こえたかどうか。諦めて踵を返されないうちに、と急ぎ扉を開ける。
    「夜遅くにごめんね。話の途中だったから…。でも、やっぱりこんな時間に家に来るのは良くなかったね。あの、また明日にしようか。」
    「教官、私…」
    「キミも、遅い時間に腹立たしい話を改めて聞きたくはないだろうし…」
    まただ。
    昼間のことも思い起こされ、一瞬で苛立ちが湧く。顔が強張りかけるが、私はその思いを別の表情に込めることにした。にこりと笑って見せる。
    「教官?私、そのことには怒ってないんです。」
    「えっ」
    「それより、このぐらいの時間になるだろうなあと思って、晩ご飯多めに作っておいたんですよ。食べていって下さい。」
    「えっ、それは…有難いけど、この時間にお邪魔するのは」
    「教官が食べてくれないと、料理が残って悪くなってしまいます。」
    「そうかぁ…、うーん」
    「どうぞ」
    家に入って下さいと、半歩下がって手で示す。教官は迷いながらも敷居を跨いでくれた。
    「今、温め直しますから。」
    料理に火を入れ直す。くつくつと心地良い音を立て始めた鍋を掻き混ぜているうち、所在無さげに土間で立ち位置を何度も変えていた教官も、囲炉裏の傍に上がって腰を落ち着けた。
    いくつかの小鉢と汁物、主菜の煮物、白米を教官の前に並べていく。
    「すごいね…。いつもこんなにしっかり作ってるのかい?」
    「まさか。狩りから帰ってきた日なんか、作るのも食べるのも最低限だけですぐ寝ちゃいます。普段は大体ルームサービスさんに作ってもらってますし。」
    「それにしても、愛弟子もいつの間にか色んな料理ができるようになったんだね。」
    「ミノトさんに時々教わってるんです。スズカリさんやワカナさんも、短時間で野菜によく味が染みる方法とか教えてくれたり…あ、教官、温かいうちに召し上がって下さい。」
    「それじゃ、有難く。いただきます。」
    ぴしっと手を合わせる教官。
    今日の献立に選んだのはどれも比較的作り慣れた料理で、自分もよく味を確認しながら食べたし、問題は無いはず…。と自分に言い聞かせながら、料理を口に運ぶその様子をそっと窺う。
    「美味い!」
    「…良かった。」
    ほっ、と胸を撫で下ろす。
    「ご飯やおつゆはお代わりありますから。」

    「この肉はポポだよね?随分柔らかくなってるね。」
    「長めに煮込んだのと、ワカナさんに教えてもらった煮込み方のコツがあって…」

    「この味付け、好きだな。」
    「良かった。疲れてる時も食べやすいですよね、私も好きです。」

    「八百屋の野菜以外にも葉物が入ってるね?」
    「昔教えてもらった、食用になる野草です。時々クエストの帰りに摘んできてるんです。」
    「あぁ、教えた時に愛弟子がすごく気に入って、外で見かけたら摘んでそのまま食べようとするからよく止めてたねぇ。」

    料理に関することをあれこれ話しながら、和やかに食事の時間が過ぎる。
    お代わりもして全てきれいに平らげた教官は、折り目正しく頭を下げる。
    「ごちそうさま。本当に美味しかったよ、ありがとう。」
    真っ直ぐなお礼の言葉に、思わず顔がほころんでしまう。
    「いえいえ、お粗末さまでした。」
    「あ、片付けと洗い物は俺がするよ。」
    「え?でも…」
    「すぐ済ませるから、座ってて。」
    「…それじゃお願いして、ちょっと失礼しますね。」

    勝手場に戻ってくると、もう洗い物は一段落したようだった。
    「もう終わったんですか?ありがとうございます。」
    「あ、うん…。さっきからたびたび席を立ってるけど、何か忙しいのかい?」
    「いえ、もう大丈夫です。」
    「そう…?あの、お茶も淹れたから、昼間の話の続きをしてもいいかな。」
    「はい」

    望むところだ、とことん説明するぞ、と意気込んで『話の続き』に臨む。
    教官が尚も謝罪と弁解を重ねようとしたのを制し、
    私が怒っているのは、教官が私の気持ちを聞かずに先走って行動してしまうことであって、今回のイタズラとやらには全然怒っていない、と言葉を尽くして訴える。
    「私の留守中も家に入ってもらって全然構いませんし、装備でも何でも触って下さい。」
    「いや、愛弟子、待って。そう言われると、むしろとんでもないことした気になってくる。」
    「そうですか?」
    「うん…」
    「私は教官がしてくれることは何でも嬉し」
    「愛弟子」
    唇にそっと指を当てられた、と理解するのにしばらくかかった。
    急に近くなった教官の顔。囲炉裏の揺らめく炎を映して、その目がとろりと蕩けそうな色味に見える。
    「いけないよ。そういう言い方は誤解を招く。」
    囁くように落とした声で言葉が紡がれる。
    教官の近さと、唇への温かな感触で頭の中が占められていたところに優しく窘めるように言われ、思わず「はい」と従いそうになってしまう。
    「ま…」
    「ま?」
    「負けない!!!」
    教官の目に吸い込まれそうな感覚や、窘めの言葉を受けてぞくりと背を這った快さを振り切り、勢いよく立ち上がる。
    「…何に?」
    先程の熱っぽい表情はどこへやら、教官はポカンとこちらを見上げている。
    「流されそうな自分自身にです!教官、とんでもないことをしてしまったと言うなら、謝罪じゃなくて1つお願いを聞いて下さい。」
    「うん、俺にできることならお詫びに何でもするよ。」
    「お風呂に入っていって下さい。」
    「…えっ?」
    「さっきから火の様子と湯加減を確認していましたが、今ちょうどいいぐらいになっていると思います。こんなこともあろうかと、教官が着られそうな浴衣も用意してあります。」
    「えっ?」
    「どうぞ!」
    教官は疑問点が多過ぎたようで最早聞き返しもせず、「それでキミの気が済むなら…」と呟きながら手拭いと着替えを受け取り、風呂場に向かっていった。

    室内にも入り込む秋の冷ややかな夜気に逆らうように、もうもうと湯気が立ち上っている。
    白く煙った浴槽に、手足を伸ばして…いるかと思いきや、膝を抱えて居心地悪そうにしている男性が一人。
    「…あの、愛弟子?」
    「はい」
    「普通に返事しないで!何でそこにいるの…?」
    さすが教官、振り返らなくても私の位置が分かるらしい。
    「下着泥棒のお返しは、風呂覗きくらいがちょうどいいと思いません?」
    「下着じゃないし、泥棒もしてないよ!?」
    教官の声が風呂場に反響する。
    声量の割に、動くに動けないのか湯気の向こうの後ろ姿は縮こまったままだ。太い腕や首、少しだけ見える背筋が全体的に前に傾き、窮屈そうに見える。なんだかその不釣り合いさがとても教官らしい。
    「教官、寒くないですか?全部開け放ったら寒いかと思って、少し開けた隙間から覗いていますが、見えづらい方が却ってずっと見ていたくなってくるものですね。」
    「俺はキミの育て方を何か間違えたのかな…」
    大袈裟に項垂れたと思うと、続けて嘆息が聞こえた。
    教官は少し諦めたのか、体に入っていた力を少し緩めたようだ。浴槽に片手をかけ、小さくなっていた体を寛げている。
    汗か、濡れ髪から落ちた水か、首筋を雫がゆっくりと流れるのが見えた。首の付け根から更に隆々とした背中へ移っていくところをじっと目で追う。
    「愛弟子?」
    「え?あ、はい」
    「何か良からぬこと考えてない?」
    「…良からぬことって、どんなことでしょう?」
    「分からないけど、なんだかすごく強い視線を感じる…。」
    「教官は気配に敏感ですね。」
    二度目の嘆息。
    「里で、哨戒中でもないのにこんなに背後を気にしたのは初めてかもしれないよ…。」
    疲れの滲んだ声音に、悪戯心一色だった頭が少し落ち着く。やり過ぎてしまった自覚が申し訳無さとともに今更ながら湧いてくる。
    「ごめんなさい。教官お疲れなのに。」
    「あ、いや、ご飯やお風呂まで用意してくれて、嬉しかったよ。料理の腕は本当に上達したね。」
    「本当ですか!時々練習していた甲斐がありました。」
    「うんうん。狩りのこと以外でも、日々努力を重ねているキミは素晴らしい!」
    話に熱が入った教官は、風呂の中でパシャッとお湯を跳ねさせながら振り返る。目が合う。
    「………。」
    「………。」
    気まずそうに、そろそろと元の姿勢に戻っていく。
    「裸で、キミと普通に話しているのがすごく恥ずかしくなってきた…。」
    「楽しそうですね。私も一度経験してみたいです。」
    「俺は覗かないよ!?」
    「お風呂場の外にいてお話ししてくれるだけでもいいです。」
    「そうなの?それなら…。」
    いいのか。
    確かに、キャンプで着替える時にすぐ外に教官や他のハンター達が待っていることは珍しくない。教官からしたらそれとあまり変わらないのだろうか。
    まあ、やってくれるようだし、また今度お願いしてみよう。教官と色々なことをしてみたい。
    「ねぇ、愛弟子」
    「はい?」
    「愛弟子こそ寒くない?」
    「大丈夫ですよ。」
    「キミはもうお風呂は済ませたの?」
    「えぇ、まあ。あ、教官を残り湯に入れる訳にもいかないので、1回お湯を抜いて浴槽もざっと洗いましたよ!」
    「あ…そうなんだ。いや、わざわざそんなに準備してくれてたんだね。」
    「そろそろ、向こうに行って待ってますね。」
    こんなに困らせておきながら、普通に労われるとむず痒い。教官の入浴場面は充分に堪能したことだし、囲炉裏の傍に戻って待っていよう。

    「お風呂、ありがとう。」
    「いえいえ。浴衣の大きさは大丈夫でしたか…わっ」
    土間から上がってすぐのところに座り込み、読むともなく冊子を眺めていた。冊子を置いて振り返ろうとしたら、太い腕が後ろから巻き付いてきた。
    「やっぱり体が冷えてるじゃないか。」
    「…お風呂上がりの人に比べたらそうかもしれないですけど…」
    ますます腕に力が込められ、頭の上には教官の頭がこてんと乗ってきた。体の大きさが全然違う、全身包まれてしまっているようだ。温かいを通り越して、熱い。
    「それに、さっきキミがじっと見てきた時、触れたかったのかなって思って。」
    「あの時は…」
    触りたいどころか、教官の首筋から背中を伝う雫を舐めたいと思ったなんてさすがに言えない。言えないし、今は抱き着かれているだけでもどうしていいか分からない。教官にきつく抱き締められるのはいつものことだが、浴衣一枚だと何と言うか体温や感触が生々しいような…。
    「キミは極端なことする割に、自分がされるとすぐ真っ赤になって固まっちゃうよね。」
    熱かった顔にますます血が上るのを感じる。
    「教官にだけですよ…。」
    悔しいのか恥ずかしいのか自分でも分からず、返した言葉も消え入りそうな声になってしまう。
    「だから、そういうことを言わないの。」
    頭を一撫でされ、教官が離れる。
    温かかった教官が離れると間に空気が流れ込み、確かに少し肌寒さを感じる。
    「今日は、ご飯とお風呂どうもありがとう。ちゃんと温かくして寝るんだよ。」
    「はい」
    「…俺も、愛弟子にご飯作ったりお風呂の用意してあげたりしたいなぁ。」
    「教官の作ったご飯、久しぶりに食べたいです。」
    「それじゃまた今度、家においで。」
    「お風呂の時は戸のすぐ外にいてお話しして下さいね。」
    「それ、本当にするの…?」
    教官の眉がハの字に下がり、よく見る困り顔になる。あまり困らせたくないけど、この顔も好き。ふふ、と思わず笑いが零れると、教官も穏やかに目を細めた。
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