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    ぐ@pn5xc

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    月よりも綺麗なあなた
    初めて書いた七五です。Twitterに載せました。2022.11.18

    #七五
    seventy-five

    月よりも綺麗なあなた「月が綺麗ですねって…」
     ベランダに面した窓から空を見上げて、こちらを向かないまま五条が言う。
    「…漱石ですか?」
     酒の入ったグラスの氷をカランと鳴らし、七海は恋人の方を見た。
    「うん、それ」
    「愛の告白…でしたっけ」
    「うん、そう、それそれ」
     確かに洒落てるなあとは思うんだけどさ、と五条はまた窓の外を見る。
     
    「月、ほんとに綺麗だったらどうするの? たとえば誰かと一緒にいてさ、月が本当に綺麗だったら」
     
     言えないの? その言葉。
     
    「ちょっと面倒だと思うんだよねえ、僕は」
    「言いたいですか? 誰かに」
    「うん。たとえば硝子でも。悠仁とか恵でも」
     ふっと笑って、
    「パンダでもさ」
     綺麗なものを綺麗だって言いたいじゃない。まああんまりそんな場面はないかもしれないけど。
     何故パンダくんで笑うのですかと七海は思ったが、月の下のパンダは想像すると何だかほのぼのしていて、自身もふと口元が綻んでしまう。
     
    「言えばいいんじゃないですか?」
    「誤解されるかもしれないのに?」
    「思わせぶりに言わなければいいんでしょう」
     ああ、でも、この人が、
     その言葉を口にすれば、多くの人が誤解してしまうのかもしれない…
     惚れた欲目かと思いながらも、それは困ると思う自分もいる。
    「五条さん」
     グラスを置いて七海は恋人を真っ直ぐに見た。
    「私に向かってそれを、思わせぶりにしないで、言ってみてください」
     
     五条は七海を見た。唇は弧を描いて碧い瞳は揺蕩うように揺れた後、わずかに細められた。
    「ななみ」
     月が綺麗ですね
     
     七海は立ち上がって恋人をかき抱いた。
     
     月の光が白い。五条は笑いながら、ほんとうに綺麗なんだって。ななみ、見てみなよ。
     窓の外の月を、見てみなよ、と、五条さんは言っているけど、七海は恋人の首に顔を埋めて、もうそれ以外見る気はないのだった。


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