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    raixxx_3am

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    raixxx_3am

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    付き合ってるきすひよ。怪我の手当。
    (2023/04/28)

    #きすひよ

    いたくない いたくない「日和どうしたの、それ。怪我?」
     いつものように通学のバスに揺られる最中、吊り革を持った右手をちらりと横目に見た郁弥がどこか怪訝そうなようすで声を掛ける。
    「あぁ、これね」
     人差し指にはぐるりと、半透明の防水素材の絆創膏が貼られている。
    「紙の端でスパッて切れちゃって。大したことじゃないよ、そんなに」
    「ならいいけど、包丁か何かで切ったのかなって思ったから」
    「そこまでじゃないよ、心配してくれてありがとう。でも結構痛かったから、郁弥も気をつけて。乾燥してるとなりやすいみたい」
    「へぇ」
     揺れる車内の中、すこし動かしづらくなった指先を思わずぼうっと眺める。

     絆創膏の下の傷の正体と、そのきっかけはほんとうのことだった。それでも――話すつもりがないことがひとつ、このささやかな傷の下には隠されている。


    「痛っ」
     机の上にいつのまにか溜まっていたダイレクトメールを整理しようと思っていた時だった。すぱん、と鋭い切れ味は人差し指の腹に真一文字の切り傷を浮かび上がらせ、鮮血を滲ませる。
     参ったな、そこまで深くはなさそうだからまだよかったけれど。ひとまずはティッシュできつめに抑えてようすを見ていれば、絶妙なタイミングを見計らうみたいに、お手洗いから戻った鴫野くんがそっと姿を現してくれる。
    「遠野くんどうしたの、怪我?」
    「あぁ、紙で――」
     不十分な説明でも、状況を見てすぐに察してくれたらしく、「あぁ、よくあるよね」だなんてやわらかな微笑みまじりの答えが返される。
    「叔父さんのところで書類の整理のお手伝いがよくあるんだけどさ、怪我するといけないからっていつも指サックとか手袋とか貸してくれて」
     ちょっと見せて。何気ない風にそっとこちらの指先を捕えると、じっくりと傷口を確認してくれる。
    「よかった、そんなに深くまでは切れてなさそうだよ。まだ痛い?」
    「そんなには」
    「そっか、ならよかったや。絆創膏ってどこ?」
    「そこの引き出しの二番目の」
     答えるや否や、こちらよりも即座に動いて、目的のものをすっと取り出してくれる。
    「ありがとう、わざわざ」
     受け取ろうとするこちらを前に、わざといじわるをするみたいにひらりと指先は宙を舞う。
    「……鴫野くん」
    「いいから」
     しばしばそうするみたいに得意げに笑いながら、ぺり、と音を立てて封を開ける。
    「出して、手」
     請われるままに指先を突き出すようにすれば、長くてしなやかな鴫野くんの指が、包み込むみたいなやわらかさでこちらのそれにそっと触れる。
    「だいじょうぶ、だいじょうぶ、いたくない。すぐよくなある」
     歌うように軽やかに囁きながら、半透明の絆創膏がくるりと巻きつけられる。
    「えっと……」
     ぱちぱち、と戸惑いを隠せないままにゆっくりのまばたきとともに答えれば、すこし照れくさそうな笑顔がすぐさま溢れる。
    「あぁ、ごめん。くせで。やだったよね」
    「……ううん、そんな。ありがとう」
     すこし掠れた声で答えれば、眦をきゅっと下げたやわらかに花の綻ぶような笑顔がそれを受け止めてくれる。
    「いつもしてたんだよね、怪我が早く良くなるおまじない」
     答え終わるのと同時に、そっと指先を持ち上げるようにしてかすかに触れるだけの口づけを落とされる。
     ひどく手慣れた滑らかな手つきに、ざわりと心は穏やかに軋む。
    「これもそうなの?」
    「遠野くんにだけだよ」
     いたずらめいた笑顔を前に、思わずじいっと瞼を細めながら見つめ合う。
    「乾燥してるとなりやすいんだよ、ハンドクリーム塗るだけでもぜんぜん違うからね」
    「あぁ、ありがとう」
    「大事にしなきゃだめだから、ね」
     嬉しそうに微笑みかけながら、ひとまわり大きな掌は包み込むようにやわらかに、こちらのそれに触れる。まるでここだけが時の流れ方が姿形を変えたかのようなおだやかさに包まれるのに、ただぼんやりと身を任せる。


    「そういえばさ、郁弥。きょうの午前の講義のことなんだけど」
    「あぁ、なに」
     わざとらしく話題を切り替えながら、指先を包んだ半透明の絆創膏にぼうっと目をやる。ごく浅い傷はもうとっくに癒えていて、ただ無用なお飾りに過ぎ無くなっていて――それでも。名残を惜しむ気持ちは、優しいおまじないをこのまま封じ込めておくことを選ばせた。

     たとえ防水でも、プールで激しく泳げばすぐに剥がれてしまう。このままにしておけるのはあともうすこしだけで、だからこそ。
     うんとささやかすぎる証に閉じ込めた願いを封じ込めるように、指先にぎゅっと力を込める。
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    raixxx_3am

    DONEブックサンタ企画で書いたお話、恋愛未満。
    日和くんにとっての愛情や好意は相手に「都合のいい役割」をこなすことで得られる成果報酬のようなものとして捉えていたからこそ、貴澄くんが「当たり前のもの」として差し出してくれる好意に戸惑いながらも少しずつ心を開いていけるようになったんじゃないかと思っています。
    (2024.12.22)
     幼い頃からずっと、クリスマスの訪れを手放しで喜ぶことが出来ないままだった。
     片付けるのが面倒だから、と申し訳程度に出された卓上サイズのクリマスツリーは高学年に上がる頃には出番すら無くなっていたし、サンタさんからのプレゼントは如何にも大人が選んだお行儀の良さそうな本、と相場が決まっていて、〝本当に欲しいもの〟を貰えたことは一度もなかった。
     ただでさえ慌ただしい年末の貴重な時間を割いてまで、他の子どもたちと同じように、一年に一度の特別な日を演出してくれたことへの感謝が少しもないわけではない。
     仕事帰りにデパートで買ってきてくれたとってきのご馳走、お砂糖細工のサンタさんが乗ったぴかぴかのクリスマスケーキ、「いい子にして早く寝ないとサンタさんが来てくれないわよ」だなんてお決まりの文句とともに追いやられた子供部屋でベットサイドの明かりを頼りに読んだ本――ふわふわのベッドにはふかふかのあたたかな毛布、寂しい時にはいつだって寄り添ってくれた大きなしろくまのぬいぐるみ、本棚の中には、部屋の中に居ながら世界中のあちこちへの旅に連れ出してくれる沢山の本たち――申し分なんてないほど何もかもに恵まれたこの暮らしこそが何よりものかけがえのない〝贈り物〟で、愛情の証だなんてもので、それらを疑うつもりはすこしもなくて、それでも――ほんとうに欲しいものはいつだってお金でなんて買えないもので、けれども、それらをありのままに口にするのはいつでも躊躇われるばかりだった。
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    raixxx_3am

    DOODLEきすひよ。いちゃいちゃしてほしかっただけ。相変わらず受けと攻めが不確定。欲望を明け渡しあうことよりも緩やかで優しいスキンシップでお互いを満たしあうことを大切にしているうちにゆっくりその先に進むこともあるんじゃないのかな、ふたりにはそんな関係でいてほしいなという気持ちで生産工場は稼働しています。
    (2024/07/19)
    butterfly kiss「あのね、遠野くん。ちょっとだけ聞いておきたくて」
     ふぅ、とひどく慎重に息を吐き、プレゼントの包みをそうっとほどくようなたおやかさで言葉が続く。
    「遠野くんはさ、僕にしてほしいことってあったりする? その、そういう時に」
     行儀良く膝の上に置いた指をもどかしげに絡ませるようにしながらぽつり、と吐き出されるおだやかな言葉に、息苦しいほどのあまやかな気配が立ちのぼる。こちらをまっすぐに見据えるかのようなまなざしはいつも通りにひどく穏やかで温かいのに、その奥には確かな〝予感〟を帯びた色が隠されているのがありありと伝わるから、いびつに揺らいだ心は音も立てずにぐらりと心地よく軋む。
    「あぁ……えっと、その」
     答えに窮したまま、手元のクッションをぎゅっと掴めば、気遣うようなやさしいまなざしがこちらへと注がれる。
    4603

    raixxx_3am

    DOODLEひよちゃんは幼少期のコミュニケーションが足りていないことと「察する」能力の高さから本音を押し殺すのが常になってしまったんだろうし、郁弥くんとは真逆のタイプな貴澄くんに心地よさを感じる反面、甘えすぎていないか不安になるんじゃないかな、ふたりには沢山お話をしてお互いの気持ちを確かめ合って欲しいな、と思うあまりに話ばっかしてんな僕の小説。
    (2024/05/12)
    君のこと なんて曇りのひとつもない、おだやかな優しい顔で笑う人なんだろう。たぶんそれが、はじめて彼の存在を胸に焼き付けられたその瞬間からいままで、変わらずにあり続ける想いだった。


    「あのね、鴫野くん。聞きたいことがあるんだけど……すこしだけ」
    「ん、なあに?」
     二人掛けのごくこじんまりとしたソファのもう片側――いつしか定位置となった場所に腰を下ろした相手からは、ぱちぱち、とゆっくりのまばたきをこぼしながら、まばゆい光を放つような、あたたかなまなざしがまっすぐにこちらへと注がれる。
     些か慎重すぎたろうか――いや、大切なことを話すのには、最低限の礼儀作法は欠かせないことなはずだし。そっと胸に手を当て、ささやかな決意を込めるかのように僕は話を切り出す。
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    raixxx_3am

    DOODLEDF8話エンディング後の個人的な妄想というか願望。あの後は貴澄くんがみんなの元へ一緒に案内してくれたことで打ち解けられたんじゃないかなぁと。正直あんなかかわり方になってしまったら罪悪感と気まずさで相当ぎくしゃくするだろうし、そんな中で水泳とは直接かかわりあいのない貴澄くんが人懐っこい笑顔で話しかけてくれることが日和くんにとっては随分と救いになったんじゃないかなと思っています。
    ゆうがたフレンド「遠野くんってさ、郁弥と知り合ったのはいつからなの?」
     くるくるとよく動くまばゆく光り輝く瞳はじいっとこちらを捉えながら、興味深げにそう投げかけてくる。
     大丈夫、〝ほんとう〟のことを尋ねられてるわけじゃないことくらいはわかりきっているから――至極平静なふうを装いながら、お得意の愛想笑い混じりに僕は答える。
    「中学のころだよ。アメリカに居た時に、同じチームで泳ぐことになって、それで」
    「へえ、そうなんだぁ」
     途端に、対峙する相手の瞳にはぱぁっと瞬くような鮮やかで優しい光が灯される。
    「遠野くんも水泳留学してたんだね、さすがだよね」
    「いや、僕は両親の仕事の都合でアメリカに行くことになっただけで。それで――」
    3785

    raixxx_3am

    DONEすごくいまさらな日和くんのお誕生日ネタ。ふたりで公園に寄り道して一緒に帰るお話。恋愛未満、×ではなく+の距離感。貴澄くんのバスケ部での戦績などいろいろ捏造があります。(2023/05/05)
    帰り道の途中 不慣れでいたはずのものを、いつの間にか当たり前のように穏やかに受け止められるようになっていたことに気づく瞬間がいくつもある。
     いつだってごく自然にこちらへと飛び込んで来るまぶしいほどにまばゆく光輝くまなざしだとか、名前を呼んでくれる時の、すこし鼻にかかった穏やかでやわらかい響きをたたえた声だとか。
    「ねえ、遠野くん。もうすぐだよね、遠野くんの誕生日って」
     いつものように、くるくるとよく動くあざやかな光を宿した瞳でじいっとこちらを捉えるように見つめながら、やわらかに耳朶をくすぐるようなささやき声が落とされる。
     身長のほぼ変わらない鴫野くんとはこうして隣を歩いていても歩幅を合わせる必要がないだなんてことや、ごく自然に目の高さが合うからこそ、いつもまっすぐにあたたかなまなざしが届いて、その度にどこか照れくさいような気持ちになるだなんてことも、ふたりで過ごす時間ができてからすぐに気づいた、いままでにはなかった小さな変化のひとつだ。
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    raixxx_3am

    DONEブックサンタ企画で書いたお話、恋愛未満。
    日和くんにとっての愛情や好意は相手に「都合のいい役割」をこなすことで得られる成果報酬のようなものとして捉えていたからこそ、貴澄くんが「当たり前のもの」として差し出してくれる好意に戸惑いながらも少しずつ心を開いていけるようになったんじゃないかと思っています。
    (2024.12.22)
     幼い頃からずっと、クリスマスの訪れを手放しで喜ぶことが出来ないままだった。
     片付けるのが面倒だから、と申し訳程度に出された卓上サイズのクリマスツリーは高学年に上がる頃には出番すら無くなっていたし、サンタさんからのプレゼントは如何にも大人が選んだお行儀の良さそうな本、と相場が決まっていて、〝本当に欲しいもの〟を貰えたことは一度もなかった。
     ただでさえ慌ただしい年末の貴重な時間を割いてまで、他の子どもたちと同じように、一年に一度の特別な日を演出してくれたことへの感謝が少しもないわけではない。
     仕事帰りにデパートで買ってきてくれたとってきのご馳走、お砂糖細工のサンタさんが乗ったぴかぴかのクリスマスケーキ、「いい子にして早く寝ないとサンタさんが来てくれないわよ」だなんてお決まりの文句とともに追いやられた子供部屋でベットサイドの明かりを頼りに読んだ本――ふわふわのベッドにはふかふかのあたたかな毛布、寂しい時にはいつだって寄り添ってくれた大きなしろくまのぬいぐるみ、本棚の中には、部屋の中に居ながら世界中のあちこちへの旅に連れ出してくれる沢山の本たち――申し分なんてないほど何もかもに恵まれたこの暮らしこそが何よりものかけがえのない〝贈り物〟で、愛情の証だなんてもので、それらを疑うつもりはすこしもなくて、それでも――ほんとうに欲しいものはいつだってお金でなんて買えないもので、けれども、それらをありのままに口にするのはいつでも躊躇われるばかりだった。
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