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    raixxx_3am

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    海に落ちる夕日をふたりで見るお話。きすひよ(未満)
    (2023/11/23 Splash!20無配)

    #きすひよ

    re-collect 絶え間なく繰り返される波の音が、記憶の澱をしずかにかき混ぜる。ずっと遠い過去に置き去りにしたままのもの、なくしてしまったと思っていた儚くて優しい思い出、容易く消し去ることなんて出来やしない鈍い痛みたち。
     到底数えきることなど出来るはずもないそれらのひとつひとつは、不思議な心地よさを携えるようにしながら、これまでまるで見たことのない新しい景色を心の奥へと静かに刻みつけていく。

     風になびくちぎれ雲を漂わせた深く澄んだ青い空が、まばゆいほどに明るい茜色に染め上げられていく。
     刻一刻と姿形を変えていくあたたかで穏やかなグラデーションのその下では、次第に闇夜色に染め上げられていく波の上へと、まっすぐな光の道筋が通る。
     鼻先をわずかに擽るような潮の香り、すこし湿気を帯びた風が髪や頬をかすめる感触、スニーカーのソール越しに感じる、じっとりと湿った砂の重み―五感のそのすべてが、いまこの時にしか訪れることのないかけがえのないそのひとつひとつを余すことなく受け止めようと研ぎ澄まされていくのをひたひたと肌で感じる。
     それはきっと、この美しい場所へとつれて来てくれた隣に立つその人も受け止めているものなのだろう、と強くそう思う。
    「ねえ、鴫野くん――」
     もどかしく言葉を探すようにしながら横目に視線をそっと投げかければ、いつもよりもすこしトーンを抑えたやわらかなささやき声が静かにこぼれる。
    「〝ぼくね、日の暮れるころが、だいすきなんだよ。きみ、日の沈むとこ、ながめにいこうよ……〟」
     夕陽の色をかすかに移したまなざしは、いつもどおりにひどくおだやかであたたかなのに、どこか不思議な翳りを帯びているかのように見える。
    「思い出したんだよね、ここに来るまでに。夕陽が見たいなって言ってくれたのって遠野くんだったでしょう? そういう気持ちになったりしたのかなって、遠野くんも」
    「……なくはないと思うけれど、まぁ」
     どこか気まずい心地のまま掠れた声で答えれば、ふふ、とちいさく声を立てないささやかで優しい笑い声にくるまれる。

     ふたりで、夕暮れの海を見に行こう。
     なにもはじめから、そんなロマンチックな約束を交わしたわけではなかった。偶然目にしたポスターをきっかけに海の近くにある美術館に行こうだなんて持ちかけてくれたのは鴫野くんから。とびっきりのその提案を前に、せっかく行くのなら海に夕陽が沈む景色を見てみたいとそうお願いをしたのは僕の方からだった。

    「後になって思ったんだけど……鴫野くんにはさ、こんなの見慣れてる光景だったよね。ごめんねわざわざ、つきあってもらっちゃって」
     くしゃり、と頭をかきながら遠慮がちに答えれば、すぐさまおおいかぶせるような明るい口ぶりと優しい笑顔での「ううん」だなんて言葉が返される。
    「海ってさ、いくら世界中とつながってるんだって言っても同じ景色なんてどこにもないから――僕の地元の海はこんなにおしゃれで綺麗なところでもないしね。子どもの頃からずっと変わらない町並みが広がってて、港町だったもんだから、漁師さんたちの船がたくさん停まってて。それはそれでさ、懐かしくて大事な風景なんだけど」
     ふぅ、とちいさく息を吐き、こぼれ落ちるようにやわらかな響きで言葉が落とされる。
    「それにさ、遠野くんが一緒に見たいって言って、遠野くんが連れてきてくれた場所だったから。それなら僕がずうっと見てたのとは全然意味も違うから――だからさ、すごくうれしいよ、いま」
     どこか無防備な響きで手渡される言葉たちは、綺麗な水や光のようにひたひたとしずかに心の襞へと染み渡る。
    「星の王子様だよね、さっきの」
    「うん、そう」
     瞼を細めたおだやかなまなざしを向けながら、ぽつりとささやくように鴫野くんは答える。
    「小学校のころ、朗読の授業で読んだのが最初だったんだ。続きが気になったからって図書館で借りてきた本を読んでたら、お父さんが本を買ってきてプレゼントしてくれて。お父さんも子どものころに読んですごく大切に思っている本だから、手元に置いておくといいよって」
    「……そうなんだ」
    「遠野くんはおぼえてる? いつ読んだのかって」
     やさしいまばたきをそうっとこぼしながらかけられる言葉を前に、ぎこちない笑顔を浮かべたまま、僕は答える。
    「どうだったかな……たぶん小学校の時。クリスマスか誕生日のプレゼントにもらったのがきっかけだった気がするな」
     周りの子たちがおもちゃやゲームを買ってもらう中、いつからかプレゼントの中身は本と、相場が決まっていた。
    「本だったらいくらでも買ってあげるから」そんな前置きと共にいつしか本棚を埋め尽くしていったラインナップはいずれも〝大人の選んだごく模範的な子どもに読ませたい本〟と、〝いかにも大人が喜びそう〟だなんてひどく打算的な理由で自ら選んだものが半々だった。
     そんな中でも「星の王子様」は、とりわけ数少ない、子どもだった時分の―いまもまだその影を色濃く残したままのおぼろげで頼りない心に穏やかに寄り添ってくれた大切な一冊だった。

     砂漠に不時着したひとりの飛行機乗りの男が、遠い星からやってきたのだというふしぎなぼっちゃん――〝王子様〟に出会うことから物語は始まる。
     家一軒ほどしかないのだというごくごくちいさな星でひとりぼっちで過ごした時間のこと、いまこうして居る地球へとたどり着くまでに出会ったさまざまな奇妙な大人たちと過ごした時間のこと――王子様から語られる数々の物語を僕たち聞き手へと語り聞かせていくその中で、ひとりぼっちの王子様の孤独のありかをありありと示すかのようにそのエピソードは語られる。

    「〝かなしい時って、入り日がすきになるものだろ……〟」
     舞台の上でせりふをそらんじるように、なめらかな優しい口ぶりで言葉が落とされる。
     いつもとは様相を変えたどこか物憂げであやうい色をはらんだ声の響きがゆるやかな波音とともに混ざり合うようにしながらこちらへと届けられると、途端にざわり、と静かな波の押し寄せるような優しい感触に心が揺らされる。
    「ちょっとわかる気がするんだよね、なんか。夕陽なんていつでも『もうそんな時間なんだなって』当たり前みたいに目にしてるものに過ぎなかったのに―ほんとにふとした時に、すっとそこに込められた気持ちがわかるみたいな」
     そっと首を傾げてみせる仕草とともに、おだやかに言葉が続く。
    「それでさ、思い出したことがあったんだけど――小学校の二年生の頃だったかな。ほんとにちょっとしたことだったんだけど、お父さんとお母さんにこっぴどくしかられたことがあって。引っ込みがつかなくなっちゃったんだよね、きっと。もう知らない、お父さんもお母さんも大嫌い! なんて言って、真っ先に走って行ったのが近くの海水浴場でさ。シーズンオフなのもあって人も全然居なくて、きょうみたいな真っ赤な夕陽が海にゆっくり沈んで、水面がきらきら光ってるのを浜辺に座りながらずうっと眺めてて。そうしてるとなんでかなんてわからないんだけど、気持ちがすうって落ち着くような気がしたんだよね」
     決して戻ることなんて出来なければ、消し去ることも出来ない過ぎ去ったままの遠い時間―そのすべてをやさしく包み込むように、波間にやさしくくるまれたやわらかな言葉が落とされる。
    「でもさ、日が沈むのなんてほんとに一瞬なんだよね。お日様が海に飲み込まれちゃった後は、あんなに明るかったのが嘘みたいにあたりがどんどん真っ暗になって、さっきまではあんなにやさしく聞こえてたはずの波の音が、怪獣のうなり声みたいに聞こえて―おかしいよね? ほんとにさ、急にすごく怖くなっちゃったんだから。そしたらもういても立ってもいられなくって―きっとすごくたくさん叱られるだろうなって不安になりながら来た道を必死で走ったんだよね。そしたらさ、家の前までやっと着いたところで、すごく心配した顔のお父さんとお母さんが待っててくれて」 
     ひどく安心した子どものような表情を浮かべながら、鴫野くんはぽつりと答える。
    「僕のことを見てすぐにこっちまで駆け寄ってくれて―ほんとに心配したんだよ、大丈夫だった? 言い過ぎちゃってごめんねって……怒られるだろうってあんなに覚悟してたのにさ、ふたりともちっとも怒らないんだよ? おかしいよね。僕がごめんなさいって言うたびにぎゅうぎゅう抱きしめながら気にしないで、いいんだよって何度も言ってくれるから――なんであんなこと言っちゃったんだろ、ほんとにばかだったよなぁってすごく後悔して。それでもおんなじだけ、すごくうれしくって……」
     言葉の端々からは、堪えようのない愛おしさがたおやかに滲む。
    「記憶と景色って結びついちゃうものでしょ。だからさ、それ以来しばらくずうっと、夕陽が沈むのをみるたびになんだか気まずくってはずかしい気持ちがよみがえってきちゃって――困るよね、ほんと」
     照れくさそうに肩をすくめて笑う横顔は茜色のあたたかな光にくるまれながら、わずかに輪郭を滲ませる。
    「遠野くんはある? そういう思い出って」
    「あぁ―、」
     まばゆくこぼれる光からそっと目をそらすようにしながら、記憶の糸をしずかにたぐり寄せる―彼のそれとはまるで違って、夕暮れ時に過ぎる思い出はいつも、そのあたたかく包み込むような穏やかな色彩とはまるで正反対のもの悲しい記憶ばかりだ。

     いまよりもずうっとちいさくて無力な子どもだった自分に出来る唯一の仕事――それはいつでも、〝大人が迎えにくるのを大人しく待っていること〟だった。
     真っ赤に染め上げられた道を、ひとり、またひとりと大人に手を引かれた子どもたちが家路を急ぐように足早に歩いていく。
     最後のひとりがいなくなっても、まだ僕のところへは迎えは来ない――こんなお荷物はいらなくなったんじゃないだろうか、このまま置いて行かれるんじゃないだろうか。燃え上がるような赤い夕陽にくるまれた景色とともに焼き付いているのは、そんなやるせなさと寂しさに染め上げられた光景でしかない。
    「ないわけじゃないけど……まぁ、」
     ぶざまに口を濁すこちらへと、どこか遠慮がちなまなざしがそっと向けられる。ねえだから、どうして。鈍く唇を噛みしめるようにしながら、わずかに疼く痛みからそっと目を逸らす。
    「無理に話さなくたっていいよ、自分だけの大事なことってあるもんね」
     気遣うように笑いかけながら届けられる言葉に、胸の奥がわずかにうち震える。
    「そんなことでもないんだけど……なんていうか、ありがとう」
     ひどく遠慮がちに答えてみせれば、包み込むようなおだやかな笑みがそっと、頼りない言葉を包み込んでくれる。
    「でもさ、」
     ゆるやかに息を吐くようにしながら、あたたかな吐息混じりの優しい言葉が紡がれていく。
    「記憶って、新しい思い出が作れればいくらだって上書きが出来るものでしょう? だからさ、よかったら遠野くんはこれからは夕陽を見たらきょうのことを思い出すようにしてよ。そしたら寂しい気持ちにならないで済むでしょう、もう」
     ぱちり、と得意げなそぶりでの目配せと共に手渡されるぬくもりに満ちた答えを前に、波立つ心はさあっとおだやかに浚われるような心地を味わう。
    「……いい提案だとおもうよ、すごく」
    「ね?」
     あたたかな色を宿したまなざしからぎこちなく視線を逸らすようにしながら、ゆっくりとしずかに波打つ水面へと視線を落とす。ほんのついさっきまでは昼の名残を残していたはずの青空はみるみるうちに闇夜色を纏い、燃えるような茜色に染め上げられた空と、光を受けてきらきらと輝きながら揺れる海面――その境目に位置する水平線へとしずかに飲み込まれていくかのように、揺らめく太陽が沈んでいく姿が見える。
    「綺麗だね、すごく」
     いつしか耳慣れたように感じるようになった〝それ〟とは幾分か色合いを変えたかのように思える、すこしくぐもっておぼろげな声が、波間のあわいでしずかに揺らぐ。
    「ほんとうにあっという間だよね、こんなに綺麗なのに」
     波音のあわいに溶けてしまいそうな儚い響きで落とされる言葉へとそっと耳を澄ませるようにしながら、どこか手持ち無沙汰な心地でわずかに震える指先にそっと力を込める。

     ちいさなちいさな星にひとりぼっちで暮らしていた王子様は、一日に四十回以上も夕陽が沈むのを見たことがあるのだと飛行機乗りに告げる。
     きっと王子様は、誰かに知ってほしくてたまらなかったのだ。自分はこんなにもずっと悲しくって、そんなとめどない悲しみにあふれる日々の中で見つけたささやかな慰めに縋りながら、ここまでずっと、たったひとりきりで生きてきたのだということを。

    「ねえ、鴫野くん」
     手持ち無沙汰な指先を上着のポケットの中へと無理矢理に押し込むようにしながら、ぽつりと尋ねてみる。
    「鴫野くんは日に何度も夕陽を見られることがあったとしたら、そうすると思う?」
     どこかはっとしたようすでこちらを捕らえるまなざしは、ぱちぱち、とうんとゆっくりのまばたきをこぼす。
    「……どうだろうな、わからないかも。考えられないもん、一度きりだって思っているものがそうじゃなくなるだなんてこと」
     視界のその先では、空と海との境目ですっかり溶けきって姿をなくした太陽が、名残のようなまばゆい光で水面へとまっすぐ続く光の橋をかける。
    「ねえ、遠野くんはどうするの?」
     どこかいたずらめいた響きをたずさえて投げかけられる問いかけを前に、ひどくぎこちない笑みを浮かべるようにしながら僕は答える。
    「見ないと思う、僕は」
    「かなしくないから? もう」
    「……さあね」
     笑いながら、ゆっくりと深く息をのむ。


    「あのね、遠野くん。おなか空いてない?」
     いつもどおりのあの、砕けた明るい口ぶりで告げられる言葉に、わずかに滞留していたかのような時の流れがゆるやかに動き出す。
    「まぁ……すこしは」
     湿った砂地を踏みしめるようにしながら答えれば、得意げな笑顔と言葉がやさしく手渡される。
    「じゃあさ、遅くなっちゃったし、よかったらどこかでいっしょにご飯でも食べて帰ろうよ。いいよね?」
    「あぁ、うん――ありがとう」
     まぶたを細めたやわらかな笑みは、言葉よりもずうっと多くの感情をたちまちにこちらへと伝えてくれる。

     静かな空白を満たすかのように、寄せては返す波の音が鼓膜を穏やかに揺らす。
     優しいその調べはまるで、こうして刻みつけられたばかりの新しくてうんと優しい記憶を祝福しているかのような不思議なぬくもりに満ちていた。
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    raixxx_3am

    DONEブックサンタ企画で書いたお話、恋愛未満。
    日和くんにとっての愛情や好意は相手に「都合のいい役割」をこなすことで得られる成果報酬のようなものとして捉えていたからこそ、貴澄くんが「当たり前のもの」として差し出してくれる好意に戸惑いながらも少しずつ心を開いていけるようになったんじゃないかと思っています。
    (2024.12.22)
     幼い頃からずっと、クリスマスの訪れを手放しで喜ぶことが出来ないままだった。
     片付けるのが面倒だから、と申し訳程度に出された卓上サイズのクリマスツリーは高学年に上がる頃には出番すら無くなっていたし、サンタさんからのプレゼントは如何にも大人が選んだお行儀の良さそうな本、と相場が決まっていて、〝本当に欲しいもの〟を貰えたことは一度もなかった。
     ただでさえ慌ただしい年末の貴重な時間を割いてまで、他の子どもたちと同じように、一年に一度の特別な日を演出してくれたことへの感謝が少しもないわけではない。
     仕事帰りにデパートで買ってきてくれたとってきのご馳走、お砂糖細工のサンタさんが乗ったぴかぴかのクリスマスケーキ、「いい子にして早く寝ないとサンタさんが来てくれないわよ」だなんてお決まりの文句とともに追いやられた子供部屋でベットサイドの明かりを頼りに読んだ本――ふわふわのベッドにはふかふかのあたたかな毛布、寂しい時にはいつだって寄り添ってくれた大きなしろくまのぬいぐるみ、本棚の中には、部屋の中に居ながら世界中のあちこちへの旅に連れ出してくれる沢山の本たち――申し分なんてないほど何もかもに恵まれたこの暮らしこそが何よりものかけがえのない〝贈り物〟で、愛情の証だなんてもので、それらを疑うつもりはすこしもなくて、それでも――ほんとうに欲しいものはいつだってお金でなんて買えないもので、けれども、それらをありのままに口にするのはいつでも躊躇われるばかりだった。
    4803

    raixxx_3am

    DOODLEきすひよ。いちゃいちゃしてほしかっただけ。相変わらず受けと攻めが不確定。欲望を明け渡しあうことよりも緩やかで優しいスキンシップでお互いを満たしあうことを大切にしているうちにゆっくりその先に進むこともあるんじゃないのかな、ふたりにはそんな関係でいてほしいなという気持ちで生産工場は稼働しています。
    (2024/07/19)
    butterfly kiss「あのね、遠野くん。ちょっとだけ聞いておきたくて」
     ふぅ、とひどく慎重に息を吐き、プレゼントの包みをそうっとほどくようなたおやかさで言葉が続く。
    「遠野くんはさ、僕にしてほしいことってあったりする? その、そういう時に」
     行儀良く膝の上に置いた指をもどかしげに絡ませるようにしながらぽつり、と吐き出されるおだやかな言葉に、息苦しいほどのあまやかな気配が立ちのぼる。こちらをまっすぐに見据えるかのようなまなざしはいつも通りにひどく穏やかで温かいのに、その奥には確かな〝予感〟を帯びた色が隠されているのがありありと伝わるから、いびつに揺らいだ心は音も立てずにぐらりと心地よく軋む。
    「あぁ……えっと、その」
     答えに窮したまま、手元のクッションをぎゅっと掴めば、気遣うようなやさしいまなざしがこちらへと注がれる。
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    raixxx_3am

    DOODLEひよちゃんは幼少期のコミュニケーションが足りていないことと「察する」能力の高さから本音を押し殺すのが常になってしまったんだろうし、郁弥くんとは真逆のタイプな貴澄くんに心地よさを感じる反面、甘えすぎていないか不安になるんじゃないかな、ふたりには沢山お話をしてお互いの気持ちを確かめ合って欲しいな、と思うあまりに話ばっかしてんな僕の小説。
    (2024/05/12)
    君のこと なんて曇りのひとつもない、おだやかな優しい顔で笑う人なんだろう。たぶんそれが、はじめて彼の存在を胸に焼き付けられたその瞬間からいままで、変わらずにあり続ける想いだった。


    「あのね、鴫野くん。聞きたいことがあるんだけど……すこしだけ」
    「ん、なあに?」
     二人掛けのごくこじんまりとしたソファのもう片側――いつしか定位置となった場所に腰を下ろした相手からは、ぱちぱち、とゆっくりのまばたきをこぼしながら、まばゆい光を放つような、あたたかなまなざしがまっすぐにこちらへと注がれる。
     些か慎重すぎたろうか――いや、大切なことを話すのには、最低限の礼儀作法は欠かせないことなはずだし。そっと胸に手を当て、ささやかな決意を込めるかのように僕は話を切り出す。
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    raixxx_3am

    DONEすごくいまさらな日和くんのお誕生日ネタ。ふたりで公園に寄り道して一緒に帰るお話。恋愛未満、×ではなく+の距離感。貴澄くんのバスケ部での戦績などいろいろ捏造があります。(2023/05/05)
    帰り道の途中 不慣れでいたはずのものを、いつの間にか当たり前のように穏やかに受け止められるようになっていたことに気づく瞬間がいくつもある。
     いつだってごく自然にこちらへと飛び込んで来るまぶしいほどにまばゆく光輝くまなざしだとか、名前を呼んでくれる時の、すこし鼻にかかった穏やかでやわらかい響きをたたえた声だとか。
    「ねえ、遠野くん。もうすぐだよね、遠野くんの誕生日って」
     いつものように、くるくるとよく動くあざやかな光を宿した瞳でじいっとこちらを捉えるように見つめながら、やわらかに耳朶をくすぐるようなささやき声が落とされる。
     身長のほぼ変わらない鴫野くんとはこうして隣を歩いていても歩幅を合わせる必要がないだなんてことや、ごく自然に目の高さが合うからこそ、いつもまっすぐにあたたかなまなざしが届いて、その度にどこか照れくさいような気持ちになるだなんてことも、ふたりで過ごす時間ができてからすぐに気づいた、いままでにはなかった小さな変化のひとつだ。
    11803

    raixxx_3am

    DONEブックサンタ企画で書いたお話、恋愛未満。
    日和くんにとっての愛情や好意は相手に「都合のいい役割」をこなすことで得られる成果報酬のようなものとして捉えていたからこそ、貴澄くんが「当たり前のもの」として差し出してくれる好意に戸惑いながらも少しずつ心を開いていけるようになったんじゃないかと思っています。
    (2024.12.22)
     幼い頃からずっと、クリスマスの訪れを手放しで喜ぶことが出来ないままだった。
     片付けるのが面倒だから、と申し訳程度に出された卓上サイズのクリマスツリーは高学年に上がる頃には出番すら無くなっていたし、サンタさんからのプレゼントは如何にも大人が選んだお行儀の良さそうな本、と相場が決まっていて、〝本当に欲しいもの〟を貰えたことは一度もなかった。
     ただでさえ慌ただしい年末の貴重な時間を割いてまで、他の子どもたちと同じように、一年に一度の特別な日を演出してくれたことへの感謝が少しもないわけではない。
     仕事帰りにデパートで買ってきてくれたとってきのご馳走、お砂糖細工のサンタさんが乗ったぴかぴかのクリスマスケーキ、「いい子にして早く寝ないとサンタさんが来てくれないわよ」だなんてお決まりの文句とともに追いやられた子供部屋でベットサイドの明かりを頼りに読んだ本――ふわふわのベッドにはふかふかのあたたかな毛布、寂しい時にはいつだって寄り添ってくれた大きなしろくまのぬいぐるみ、本棚の中には、部屋の中に居ながら世界中のあちこちへの旅に連れ出してくれる沢山の本たち――申し分なんてないほど何もかもに恵まれたこの暮らしこそが何よりものかけがえのない〝贈り物〟で、愛情の証だなんてもので、それらを疑うつもりはすこしもなくて、それでも――ほんとうに欲しいものはいつだってお金でなんて買えないもので、けれども、それらをありのままに口にするのはいつでも躊躇われるばかりだった。
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    raixxx_3am

    DOODLEDF8話エンディング後の個人的な妄想というか願望。あの後は貴澄くんがみんなの元へ一緒に案内してくれたことで打ち解けられたんじゃないかなぁと。正直あんなかかわり方になってしまったら罪悪感と気まずさで相当ぎくしゃくするだろうし、そんな中で水泳とは直接かかわりあいのない貴澄くんが人懐っこい笑顔で話しかけてくれることが日和くんにとっては随分と救いになったんじゃないかなと思っています。
    ゆうがたフレンド「遠野くんってさ、郁弥と知り合ったのはいつからなの?」
     くるくるとよく動くまばゆく光り輝く瞳はじいっとこちらを捉えながら、興味深げにそう投げかけてくる。
     大丈夫、〝ほんとう〟のことを尋ねられてるわけじゃないことくらいはわかりきっているから――至極平静なふうを装いながら、お得意の愛想笑い混じりに僕は答える。
    「中学のころだよ。アメリカに居た時に、同じチームで泳ぐことになって、それで」
    「へえ、そうなんだぁ」
     途端に、対峙する相手の瞳にはぱぁっと瞬くような鮮やかで優しい光が灯される。
    「遠野くんも水泳留学してたんだね、さすがだよね」
    「いや、僕は両親の仕事の都合でアメリカに行くことになっただけで。それで――」
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