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    かみすき

    @kamisuki0_0

    原神 トマ蛍 綾人蛍 ゼン蛍 白蛍

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    かみすき

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    綾人蛍
    どう足掻いても結ばれない二人
    ハッピーではない

    #綾人蛍
    ayatolumi
    ##綾人蛍

    《綾人蛍》 雨落石 雨樋を流れた水が地面を打つ音は、逢瀬を隠すのにはちょうどいい。湿気を含んだ蛍の髪を混ぜ、その身体を掻き抱いて、どうか降り止まないでくれと願いながら瞼を閉じる。
     そんな綾人を憐れに思った天が気を遣ったのか、目覚めの時間にも関わらず、外はどんよりと暗いままだった。曖昧になった夜と朝の境目に部屋を去るきっかけを失い、ぼんやりと雨の音に耳を傾ける。木の葉が揺れる音も、鳥の声も、すべて等しくさあさあと飲み込んでいった。
     絶えず響く音がうるさくて、それでいて静かで世界から切り離されたような空間。シーツを擦った蛍とぱちんと目を合わせたはずが、その瞳は、綾人の向こう側、どこかずっと遠いところを見ていた。

    「いいの、行かなくて」
    「ええ、まだ」

     あと少しでも貴方と共にいたいから。そう伝えてしまったら、きっと蛍は泣き出してしまう。だから代わりにその寝癖を整えるだけにとどめたはずが、予想外にじわりと滲んだ涙が枕に沈んでいった。瞬きするそばから続いてはらはらと落ちてくる。
     やさしくしないで、とは、昨晩も聞いた。その首筋に薄く残る噛み跡も、大きな手の形に赤くなった手首も、そして綾人の背中がシーツと擦れるたびにぴりぴりと痛むことも。全てその願いが叶った証拠だった。
     それでもまだ、やさしくしないでと言う。これ以上どうしたらいいのだろう。大切な人を大切にして何が悪いのか。
     いや、悪いのだ。この国においては、綾人の立場においては。
     
    「蛍さん」
    「なんでもない」
    「目が腫れてしまいますよ」

     蛍には、血筋も、その身分を保証するものもないから。それは稲妻において、弱い存在だった。社奉行様の「ふさわしい人」にはなれない。誰かが言ったわけではないが、互いにそう理解している。そしてそれは結局紛れもない事実だった。
     いっそ囲い込んでしまえばいい。くだらない圧力など全て無視すればいい。綾人にはそのための方法も、実力だってあるのだから。蛍だってあちこちに十分な人脈を持ち、その行動は政治にさえ影響する。説得するだけの材料なら揃っていた。
     周りの反対を振り切って契りを結んで。

    「泣かないで、どうか」

     そして蛍は、後ろ指をさされながら生きていく。その立場を狙っていた権力に縋りたい馬鹿な連中からの、外の人間を引き入れるなと古い文化に拘る馬鹿な連中からの、汚い僻みをその小さな背に受けて。
     綾人には、愛した人にそれだけの負担を強いる覚悟がなかった。実際に弱くてどうしようもないのは、綾人のほうだ。 
     だから、はっきりと蛍の顔が見える今、その肌に触れる勇気もない。ふるりと震えてシーツに包まり直す蛍を温めたくても、この手が触れることを許せなかった。その涙を拭う資格さえ、綾人にはありはしない。

    「すみません」
    「どうして謝るの」
    「いえ……いえ」

     いっそその手を離してしまえばいい。それなのに、もがけばもがくほど、絡まった指は解けなくなる。じわじわと全身を毒が回るように、蛍に溺れて沈んで。その腕に首を絞められる心地が癖になっていった。

    「綾人さん、泣いてる」
    「そう見えますか」
    「それ以外に見えないよ」

     綾人よりも温かい手が、跡を撫でていく。まつ毛を掠めたくすぐったさに身を捩れば、蛍は濡れた目尻を輝かせてくすりと笑った。どうしようもなく愛しくて、苦しい。
     最低だと突き放してくれたら。近づくなと嫌がってくれたら。諦めきれない理由を蛍に求めても仕方がないのに。綾人の頬を抓る手は、きっとそんな責任転嫁すら受け取ってみせるだろう。よっぽど、強い人だから。

    「目、腫れちゃうよ」

     情けないところまですべて晒して、なお、共にあることを選べない。綾人が捨ててしまえばいいのだ、家臣を、家族を、何もかも。そんなことを蛍が望むはずもないが。
     強くなった雨が、蛍の声すらかき消そうとする。綾人の名を呼ぶ優しい響きさえも奪っていく。
     婚姻とは、実にくだらない。綾人にとっては蛍も立派な家族だというのに、その輪に含めることが許されないだなんて。

    「貴方に、出会わなければよかった」

     数度瞬きを繰り返してまたほろりと雫を落とすだけで、蛍は何も言わない。それでよかった。うんとも、ううんとも、どちらも聞きたくなかった。
     蛍に出会った不幸と、蛍に出会わなかった不幸。それすらも選択することができない自分が、ひどく惨めに思われた。
     貴方に強請られたから、なんて言い訳がなければその体を抱きしめられない男のことなど、どうか許さないで。
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    かみすき

    DONE綾人蛍
    人前でいちゃいちゃが似合うカプNo.1(調査数n=1)
    《綾人蛍》見られて困ることでも? 「ここ、どこだと思ってるの」
    「八重堂の前、ですが」

     それが何かと盛大にとぼけた綾人さんは、逃げ回る蛍を捕まえて指を絡めようとする。もうほら、みんな見てるから。なんとか振り切って階段を駆け上がると、追いかけっこも楽しいと言わんばかりにからりと笑って着いてくる。
     人前であんまりいちゃいちゃするのはやめようねって約束したじゃない。綾人さんだってわかりましたって頷いてくれたでしょう。
     ため息と共に振り返れば、綾人さんは目が合っただけで嬉しいとばかりに破顔する。その瞳にこれでもかと滲む愛に気づかないわけじゃなくて、つい絆されそうになりながらも歩みを進めた。
     そんな蛍の機嫌を取ろうと思案していたはずの綾人さんは、近くの屋台からの新商品だいなんて掛け声を聞いて磁石に吸い寄せられたようにそこに近づいていく。本当に仕方のない人ね。呆れながらその後を追いかけると、当たり前のように腰に手が回された。隙あらばすぐ触るんだから。おいたをする手を軽く叩いたところで綾人さんにはちっとも響かないらしく、むしろ体を撫でさすってはぴくりと震える蛍の反応を楽しんでいるようだった。
    2160

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