平日の孫家の昼下がりは比較的ゆっくりできる時間だ。
長男と次男は学校に、最近この世の住人として還ってきた孫家の主である悟空はチチと共に畑仕事を生業とすることにし、よく働いてくれている。力仕事は彼が軽々と引き受けてくれるので、作業によっては彼ひとりに任せることも可能となりありがたい。
さて、掃除洗濯が一通り終わり、昼食も自分ひとりであれば家族のために作った弁当の残りでとったチチは少ない洗い物のついでに冷蔵庫や床下収納の中のチェックをすることにした。
家族が大食漢なので食材は基本余らず使い切るが、調味料の類は半端に残ってしまうことがあるからだ。
小一時間ほどして確認は終わり、その結果、残り少ない牛乳とココアを見つけた。
そのままココアにして飲んでしまってもいいが、ゼラチンがあるのも見つけたので先日テレビで知った調理方法でココアプリンを作ることにする。
焼くも蒸すもいらないということでおいしくできれば子供達のおやつにも良いだろう。残り少ないものを材料にしてお試し作成するにはぴったりだと思ったのだ。
「食べごろの時間になると帰ってくる嗅覚はすげぇだなぁ」
ただいまの言葉と共に帰ってきた夫はチチが食べようとしたココアプリンを目ざとく見つけ、ひとくち! とやってくる。
「手ぇ洗って着替えてきたらこれ全部あげるだよ」
「手も洗うしちゃんと着替えるけんど、チチが食べるそれ、ひとくちでいいんだ」
「ひとくちでいいんけ? 全部あげるだよ?」
「ん、チチが食べるやつのひとくちでいいんだ」
全部よりひとくちでいいと言う悟空を不思議がりながらも、近づいて口を開ける彼にチチはスプーンですくったココアプリンを食べさせてやった。
「うん、うめぇ! なんかいつもよりさっぱりしてんな」
「お手軽おやつだかんな、悟空さがさっぱりしてるって言うんなら子供達には甘味足りねぇかもしんねぇなぁ。そんときはホイップクリームとか一緒にするべか」
「いいな、それ。そっちも喰いてぇからそれはオラの分も作ってくれよな」
「もちろんだべ。家族分作るだよ」
にっこりと笑うチチに悟空も笑い、彼は手を洗いに行く。
上機嫌に鼻歌も交えながら流水で手を洗う悟空は機嫌がいい。
チチの料理は全てうまいが、彼女は人に食べさせるための練習的なものをひとり分だけ作って食べてしまうことも多い。悟空としては、それもどうにか味わいたいという欲がある。
食い意地と笑われてもいい。事実なのだから仕方ない。しかし反論させてもらえるのなら、彼女の作るレアなものほど悟空としては一口でも味わいたい。
自分が一口食べたあとのココアプリンを今頃妻は食べていることだろう。この世界でたったふたりだけが知る味というのにどれだけ重きを置いているかということは、悟空は誰にも言うつもりはない。