「おめぇの眼ってこんな色だっけ?」
「……は?」
夜の夫婦のコミュニケーション後、キスを繰り返していた悟空の呟きにチチは瞳を瞬かせた。
ぱちぱちと繰り返す瞬きも、夫は不思議そうにこちらを見ていて少しチチはいたたまれなくなる。
「おらの眼は普通に真っ黒だべよ。悟空さは翠色とか青色とか赤色になってっけど」
「いや、チチの眼はもっといろんな色になってる気がしてよ」
「それは絶対あり得ねぇと思うだ」
控えめに現実を述べてみるが、悟空は納得していないようでチチの目元に口付けを落としながら瞳を更にのぞき込もうとしている。
光の加減などで多少の変化はあるだろうが、多色変化を持つ彼にまじまじと見られるのはちょっと恥ずかしさを覚えて、チチは顔を背けようとするのだが、一足早く夫により頬に手を添えられており阻まれる。
「あ、こら。眼ぇ閉じるのずりぃぞ」
「コラじゃねぇべ、恥ずかしいからあんま見ねぇでけろ」
むくれる気配がするが、チチは瞼を開けない。
というか、視界が暗くなるとゆるりと眠気が身体を包み込もうとしてくるのが分かる。
そんな彼女の状況を夫も察したのだろう、抱きこむ形で身体を横たえ、小さな子を寝かしつけるようにぽん、ぽん、と指先で眠りへ落ちるのを助ける。
眠ってしまったチチは知ることができなかったが、その穏やかな時間で悟空は考えついてしまった。
「チチの眼は確かに黒いけんど、怒ってたり、笑ってたり、あとはまぁキモチイイときになんか黒とは別の色が見えるような気がすんだな」
赤、青、黄、紫……。
確かに存在する色だけど、黒の瞳の奥にあって、気づけばほどけてしまっているそれは、まるで虹のようだと悟空は思い、自身も眠るために眼を閉じた。