自分達の新婚旅行は芭蕉扇を探すそれだったと、チチは穏やかに話す。
結婚式をあげる前の旅行なので、「婚前旅行」なのではないかとも言われがちだが、悟空とチチが夫婦になったのは天下一武道会の武舞台の上だから「新婚旅行」だとチチは胸をはる。
あのころは悟空は舞空術は使えるようになったばかりで、今のように瞬く間に地球を何周できるほどではなく長距離の移動はもっぱら筋斗雲がメインだった。
「悟空さに限っては今は瞬間移動もしちまうからなぁ」
「早ぇし便利だろ」
「まぁそうなんだけんど。旅行ってのはな、移動するのも含まれてるから」
それは悟空がヤードラットから戻ってきてからした会話だ。人造人間が現れるまでの間、修行の日々の中に家族の時間も取り入れようとした中の移動方法について瞬間移動を使用することを提案した悟空とそれ以外の方法を提案するチチとの会話だった。
気を探る必要はあるが、それさえできればすぐに移動できる利便性を積極的には使おうとはしないチチを不思議に思っていた悟空だが、セルゲームの前には自らエアカーを運転してピクニックに行くなどを自ら提案してきたのでなんとなくかもしれないがチチの気持ちは理解されたのではいかと思う。
「オラ達もどっか旅行行くか?」
「いきなりだべな。悟飯とビーデルさの新婚旅行見送ったから、悟空さ影響されただな? でもだめだべ、ふたりは新婚旅行だもの。特別だべ」
「んー……、チチ、結婚すっか」
「はぁ?」
「…………」
「……なんつぅ笑顔だべか、プロポーズしてから旅行行ったら新婚旅行ってワケだべか? まったく、なんかヘンテコな知恵をつけてきてるだなぁ」
「で、チチ。どうする?」
チチが饒舌に話始めるときは気恥ずかしかったり、多少の混乱を落ち着けるための時間稼ぎだったり。そこも分かってきているから、まぁ確かに新婚ではないが、あのころのようなふたりで旅行に行きたいと思ってしまったので、悟空は追撃をする。
そっぽを向いているチチを更にのぞき込んで、悟空はにっこりと笑った。