雲や空気の流れでなんとなく察していたが、冷たい風が吹いたのを合図に青空は急に暗い色をした雲に覆われて、ごうごうと唸るような強い風が伴う豪雨となった。
畑仕事から瞬間移動で自宅に戻った悟空は、暗かった場所から人工の灯りの中に出て少し眼をしばたたかせる。
パオズ山の我が家。自宅の壁の向こうはバケツの水をひっくり返したような雨で、かつ光疾り轟音のすごい雷まで伴っていて、その音は壁の内側に表れた悟空の鼓膜も拾っている。しかし、悟空にはその雷鳴よりも、台所の流しで洗い物をしながら歌うチチの声だけをみごとにひろいあげていた。
多分、きっと。どんな環境であろうと、許容範囲を超えて静寂ととらえてしまうような激しい音の中でも、自分は彼女の声だけは聞き逃さないだろうと思う。
でも同時に自分はとても欲張りなので、この雷雨の中でも動じない彼女の自分だけに向けられた「音」を聞きたくて、声をかけるのだ。
それすなわち、「おかえり」の声だ。