全部キラキラしてたらいいのかな「なんだコレ」
尾形が夏太郎の携帯を指差す。一リットルの紙パックにストローを挿して飲んでいた夏太郎は首を傾げた。
「携帯電話ですけど」
「知ってる。違う、この、キラキラしたやつだよ」
「ああ、それ」
昨日までは何の飾りもついていなかった。夏太郎はストローを噛みながら尾形を見た。眉間に皺を寄せた尾形は、一晩にしてデコレーションされた携帯を突き回す。
携帯しない自分の携帯よりも見ていたはずなのに、急に知らないヤツになった。なんだコレ、なんだコレ。
「××ちゃんがやりたいって言ったんで、やってもらったんです」
「………………ほー」
「ハマってるみたいですよ」
デコレーションパーツに爪を立てる尾形を見て、夏太郎は笑みを浮かべた。ストローを口から離す。
「剥がさないでくださいね」
尾形の手に自分の手を重ねた。紙パックを揺らすと注ぎ口の中でストローがくるくる回る。尾形が顔を上げて夏太郎を見た。
「かわいくて、気に入ってるんですから」
「悪趣味」
「ひどぉ。尾形さんもやってもらったらいいですよ。××ちゃん上手いんで、気持ちいいですし」
すり、と夏太郎は親指で尾形の親指を撫でる。
尾形は夏太郎から目を逸らさない。
夏太郎も尾形から目を逸らさない。
机の下で、夏太郎は足を伸ばして尾形の右足を挟んだ。足先を重ねて尾形の足を抜けないようにする。
「デコの話だよな?」
「デコの話ですよ?」
んふふ、と笑う夏太郎が紙パックを持ち上げ、ミルクティーを飲もうとするもストローが逃げてしまう。ストローを固定しようにも夏太郎の両手は塞がっている。
それを見ていた尾形が、ははぁと笑いながらストローを掴んだ。口を開ける夏太郎を無視して、ずごごごと勢いよくミルクティーを飲み出した。
「あー! 俺の! 俺のなのに!」
「あっま……」
「あー! 結構飲んだ! 俺のミルクティー! あー!」
夏太郎は両手で紙パックを持ち、左右に振ったり、注ぎ口から中を確認する。まだ開けたばかりだったのに、中身は一気に半分くらいまで減った。
分かりやすく悲しそうな顔をする夏太郎を見て、尾形は楽しくてしょうがない。
「てか甘いの知ってるでしょ……何で飲んだんすか……」
ぶつぶつ文句を言いながら夏太郎もミルクティーを飲む。一気に飲まれたのが悔しくて、ジト目で尾形を見た。ストローを噛むのが止められない。
その視線に背筋をゾクゾクさせながら、尾形は携帯につけられたデコレーションパーツを一つだけ剥がした。キラキラとしたそれを裏返せば、のりでべたついていて、尾形は「汚ね」と思った。
逃げられないように絡みつく夏太郎の足も、そうやって女との関係をチラつかせてくるところも、それでもコイツは俺を選ぶと自惚れている自分も、デコレーションされた携帯も、何もかもが汚い。汚いと思っているのに、それを綺麗にする気もなければ離れる気もない。
夏太郎の左手を取り、剥がしたデコレーションパーツを薬指の付け根に乗せた。
「あ、剥がしてる」
「いいだろ、一つぐらい」
「よくないですよぉ」
頬を膨らます夏太郎を見て、尾形は口元を緩ませる。あー、本当に可愛いな。